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がんという、遺伝子が行き着いた一つの悲しい結末

公開日時 2009/10/07 04:00

がんの入門書

 たった1.3cmの厚さしかない『がん遺伝子の発見――がん解明の同時代史』(黒木登志夫著、中公新書)は、なりは小さいが、私たち素人ががんとは何かを知ろうとするとき、先ず最初に手にすべき本である。これほどはっきり断言できるのは、①著者が素人にも理解できるようにと工夫、努力を重ね、それ が見事に成功していること、②執筆の時点までに明らかになったがん研究の最新の成果が盛り込まれていること、そして、この本が出版されてからいささか歳月 が経過しているが、管見の限りでは、その後、この本を超える入門書に出会えていないこと、③がん研究上の発見にまつわる人間臭いエピソード、裏話が臨場感 豊かに描かれていること――この3点のためである。
MRが、今、この本を読んでおくか否かによって、今後のがん研究理解に相当の開きが出てくることだろう。

文章の魅力

 この本の文章がいかに分かりやすく、かつ魅力的であるかを知ってもらうために、少しばかり引用してみよう。
「しかし、テミンの考えは、DNA→RNA→蛋白という、当時セントラル・ドグマといわれた遺伝情報の流れに逆らうものであった。セントラル・ドグマは あくまでも重く、そしてテミンの実験はあまりに頼りなかった。……彼が黒板に書いて説明したとき、一人の学生がどんな実験的証拠があるのかと質問した。証 拠はまだないとテミンは自信なげに答えた。しかし、そのとき彼はその証拠をほぼ手中にしていたのであった」。
この5年後、ハワード・テミンはこのセントラル・ドグマを崩壊させた逆転写酵素の発見によってノーベル生理学・医学賞を受賞するのである。

がんの正体

 この本は私たちに多くのことを教えてくれるが、その一部を以下に挙げてみよう。

  • 原因別のメカニズムがあると考えられていたがんは、今や、がん遺伝子という共通のメカニズムで説明できるようになっている。
  • 研 究者たちは「がん」遺伝子という名前を付けたことを少し反省している。最初はがんウイルスから、続いてがん細胞から分離されたのだから、「がん」という名 前が付いたのは仕方なかったとしても、正常細胞にもがん遺伝子があり、しかもそれががん遺伝子のプロトタイプ(原型)であることが分かってきたからであ る。
  • がん遺伝子はがんを作るための遺伝子ではなく、がん抑制遺伝子はがんを抑えるための遺伝子ではない。
  • が ん遺伝子もがん抑制遺伝子も、本来は細胞の増殖と分化を調節している大事な遺伝子という点では同じであり、その遺伝子の構造に変異が起こったとき、がんに なるという点でも同じである。問題は、変異の結果、その遺伝子が活性化されるか、不活化されるかという点にある。がん遺伝子の場合、変異が起こると活性化 され、新しい機能を獲得する。一方、がん抑制遺伝子は、変異によって不活化され、機能を失う。
  • がん遺伝子が新しい機能を獲得するには1回の突然変異で済むのに、がん抑制遺伝子が機能を失うには2回の変異が必要である。
  • がん発生の実行犯はがん遺伝子とがん抑制遺伝子であり、その黒幕はDNA修復遺伝子である。
  • 生命にとって最も大事な遺伝子が次々に変異を繰り返した末に行き着いた一つの悲しい結末、それががんである。

がん患者と家族の本

 がん患者と家族のための本としては、『ウエルネス・コミュニティー――がんに克つ人、負ける人』(ハロルド・ベンジャミン著、竹中文良、小島弘 訳、読売新聞社)がある。がん患者が人生をフルにエンジョイし、治療効果を最大限引き出す「アクティブな患者」になる実践的な方法が具体的に示されてい る。

 


株式会社ファーマネットワーク
榎戸 誠

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