企業経営者のからの要望をうけて人材紹介をする時には、気をつけなければならないことがある。それは…。

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ネットサービスA社の若手CEOであるK氏は、動作も喋るスピードも、普通の人の倍はあるのではないかと思えるほど、せわしなく忙しい経営トップだ。思ったことはすぐ口に出してしまうので、社員からはしばしば「朝令暮改どころか、朝礼昼改」などと揶揄されているが、頭の回転の良さは誰もが認めるところだった。

ある時、我々はK氏と会食する機会を得た。K氏は様々な人事構想をかかえており、「財務部門を強くしたいよね…」「広告事業の強化は手つかず」「エンジニア目線で経営に絡んでくる人材がいないんだよ」など、多種多様な人材紹介の要請があった。

経営者からのニーズは、マネージメント層や高度なスキルをもった専門職であることが多く、このときも同様。幸い財務キャリアでは適任者がおり、とんとん拍子で内定・入社が決まったが、他のポジションにはすぐには有力な候補者がなく、しばらく紹介が出来ない状態が続くことになった。

2ヶ月ほどたった頃、企画マネージメントでA社に応募したいという人物がおり、K氏が言っていた人物像にピッタリあてはまるので、我々は自信を持って職務経歴書を送ったのだが、K氏からの第一声は思わぬものだった。
「どうしてこの人、紹介してきたの？」
「そ、それは、前にお会いしたときに、こうした人物は欲しいと仰っていたので…」
「ホントに？私、そんなこと言いました？いやあ、全然記憶にないなあ。実際、今、その人に任せられる仕事はないんだよね」

A社採用担当に確認すると、2ヶ月前（我々との会食の一週間後）に臨時の人事異動で、企画マネージメントのポジションは埋まっていたことが分かった。おそらく、我々と話をするなかで同職の重要性を再確認し、すぐに手を打ったということなのだろうが、問題が解決するやいなや、そのことは忘却の彼方に飛んでいってしまったらしい。

急成長中のアパレル系流通ベンチャーB社のS社長は、せっかちなアイディアマンの経営者。多弁なA社のK氏とは対照的に、S社長は「話すのは面倒。少ない言葉のなかで意図することを察してくれ」というタイプで、我々への人材紹介の要求も、ボソボソっと要点だけを言い、細かいところは人事に任せるというスタイルをとっていた。

2か月半ほど前、人事とのミーティングでB社に出向いた我々は、エレベーターホールでS社長に突然呼び止められ、社長室に通された。
「ちょっとひらめいたことがあって、飲食関係で店舗企画をしていた人を捜してくれないか？」
いつものように、社長は我々に人材の大雑把なイメージを述べ、「この件は私に直接連絡してくれていいから」とだけ言って、すぐに退室してしまった。

我々のところで候補者になりそうな人は数名いたのだが、直後に震災が起き、予定していた勤務地が被災地だったこともあって、なかなか紹介が出来なかった。ようやく今月に入ってS社長に連絡を入れたのだが…。

「ご要望のあった、店舗企画の方をご紹介させてください」
「そう言えば、たしかに、そういう話をしたね」
「はい。キャリアのある方だと思うのですが…」
すると、S社長は口ごもり、妙な沈黙が続いた。
「…あの話をした時、私は、何をするつもりだって言っていた？」
「は？いえ、それは、たしか『ひらめいたことがある』と仰っていました」
「だから、何をひらめいたのか、話はしなかった？」
「いえ、お急ぎのようでしたし、何も聞いていません…」
「参ったなぁ。たしかに何かアイディアがあったんだけど、思い出せない。何だったかなぁ…」

多忙な社長から人材紹介の話があった時は、スピーディにことを運ばなければならない。時期を逸すると、彼らは、何故その人が必要だったか覚えていられないほど、忙しいのである。