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【解説】リピトールショック 米国GE登場1か月で売上4割減 ファイザー戦略を追う

公開日時 2012/02/08 04:00

1月31日、注目された世界ナンバー1製薬企業・ファイザーの2011年第4四半期と2011年通期の業績が発表された。通期レベルで見れば売上高674億2500万ドル(前年比1%増)、純利益100億900万ドル(同21%増)の増収増益と順風満帆だったといえる。ただ、最近のファイザーはある種の突飛な動きも目に付く。その代表格が10年12月5日に突然発表されたジェフリー・キンドラー最高経営責任者(CEO)兼会長の退任と生え抜きのイアン・リード氏のCEO就任である。5日の日曜日に突如取締役会を開き、午後8時過ぎという夜更けのトップ交代発表に多くの人が不審とともに「解任」の2文字を思い浮かべたはずだ。

ワイスとの合併を成功に導きながらも道半ばで退任となったキンドラー氏だが、同氏就任以来、株価がそれほど伸びなかったこともこうした憶測に拍車をかけた。

だが、ワイス合併もトップ交代も全て「あのこと」に起因すると言えば、多くの業界関係者が納得するだろう。それはブロックバスターの頂点に立っていたリピトールの特許切れである。ファイザーにとって最も迎えたくなかったその日、アメリカでの特許失効日11年11月30日がついにやってきたのだ。1月31日は、初めてその影響が白日の下にさらされる日だった。

製品別の通期業績では前年比11%減の95億7700万ドル。ついに100億ドルを下回った。リピトールの年間売上高が100億ドルを下回ったのは03年以来のことだ。そして米国での第4四半期のみの売上高は前年同期比42%減の8億1600万ドル。この売上減少分を米国での通期ベースでみれば、全体の10%程度である。この第4四半期のリピトール売上減少のほとんどが特許失効に伴うジェネリック上市によるものと仮定するならば、12月の1か月間で10%の市場が消えた計算だ。

一般的にアメリカでは後発品上市後半年間で先発品は約7割の市場を失うと言われている。そして特許失効後半年間の特定ジェネリックメーカーによる独占販売期間が過ぎれば、他のジェネリックメーカーも市場に参入して過当競争となり、最終的に採算ベースに合わなくなれば、先発品メーカーは特許失効ブランドを中堅メーカーなどに売却することもなくない。

かつての有名ブランド医薬品が無名会社の製品になる有様は、まるで日本の週刊誌が毎年末に組む特集「あの人はいま?」に登場するかつての一発屋芸能人のようですらある。 

リピトールも、前述のアメリカでの特許失効直近1か月で売上10%減という数字を軸にするならば、やはりこれまで通り半年間で約7割近い市場を失うことになるだろう。過去の事例からすれば、先発品メーカーにとっては織り込み済みの事態だろうが、今回ばかりはファイザーにとってはやや不本意かもしれない。というのもリピトールに関してファイザーは、異例とも言える市場防衛策をとっているからだ。

◎リピトール服用患者 今後も3人に1人以上が先発品の皮算用

そもそもアメリカでの先発品の特許失効後の市場喪失の異常な早さは、医師を超える薬剤処方権を有するとまで評される薬剤給付管理会社の存在がある。薬剤給付管理会社がジェネリック品を給付リストに加えてしまえば、先発品メーカーの意向にかかわらず、同一成分では価格の安いジェネリック品が選択されるシステムだからである。

しかし、今回、ファイザーは一部の薬剤給付管理会社と提携し、大幅な値引きやリベートなどを誘因にリピトールのジェネリック品を給付リストに加えないよう求め、一部はこれに応じてジェネリック品の独占販売期間中にリピトールのジェネリック品を給付対象リストに加えないことを決めた。

また、ファイザーは患者負担に関して、1か月のリピトール薬剤費が54ドル以内の患者には月4ドル負担、それ以上の場合は月当たり50ドルの値引きを行うとし、メールオーダーにも独自で対応する。

こうした努力により「現在リピトールを服用している患者の3分の1以上は先発品使用を継続するだろう」(ファイザー社エスタブリッシュ部門責任者のデビット・サイモンズ氏、11月30日付ロイター電)としている。

◎オーソライズド・ジェネリック販売権獲得2社 ワトソン有利 ランバクシー出遅れ

一方、異例というならば、独占販売期間を獲得した2社も同様かもしれない。今回のリピトールでは、ファイザーからのオーソライズド・ジェネリックの販売権を取得しているワトソン・ファーマシューティカルズとジェネリック界の雄である第一三共の子会社ランバクシー・ラボラトリーズの一騎打ちだ。

しかし、ランバクシーは、インドのポンタ・サヒーブ工場でのGMP違反問題を受けてリピトールのジェネリック品承認が遅れた。結局、米子会社オーム・ラボラトリーズでの製造で乗り切ることを決めたが、今回のファイザー決算で明らかになった売上減少のスピードを考慮すれば、ランバクシーの出遅れは致命的である。

ランバクシーもこの点を痛感したのか、奇策とも言える行動に打って出た。独占販売期間のリピトール販売利益の一部を提供してテバ社の米子会社と提携すると発表したからだ。具体的な提携内容は非公表としているが、最大の商売敵ともいえるテバ社との提携という事態に業界全体が驚いたことは言うまでもない。しかし、既にテバもリピトールのジェネリック品に関する暫定承認をFDAから獲得して、独占販売期間が終了する5月から自社品で市場参入する方針を明らかにしている。「敵から送られた塩」の効果も一時的なのだ。

対するワトソンがリピトールのオーソライズド・ジェネリックを発売できるのは、同権利を保有していたアロー・グループを09年に買収した結果。ワトソンは売上原価の70%をファイザーに支払い、現存するアロー・グループのアロー・インターナショナルにも税引後粗利益の一部の支払い義務を有しているが、独占販売期間中にジェネリックシェアの4割以上を確保すると豪語している。

ワトソンのポール・ビサロ最高経営責任者(CEO)は、「ファイザーは既にシェアを失い始めている。彼らの対応は、単にオーソライズド・パートナーに売らせるよりはましかもしれないが、売上高は守れたとしても利益は守れないことは明らかになっている」と強気の姿勢だ。

同社は12月にはアムジェンとバイオシミラー開発での提携に合意し、年が明けた1月にはインドのStrides Arcolab社のオーストラリア・東南アジア地域ジェネリック品事業を受け持つAscent Pharmahealth社を約3億9300万ドルで買収すると発表した。Ascent Pharmahealth社買収に先立つ1月12日のJ.Pモルガン・ヘルスケア・セミナーでは、ビサロCEO自身の口からロジェネリックメーカーのみならず、先発品メーカーの買収にも関心があるとの発言まで飛び出している。

その意味では、今回の“リピトール戦争”は現在のところワトソンの1人勝ちともいえる。

◎世界ナンバーワン製薬企業の地位死守へ 存在感増す日本市場

ファイザーが異例の市場防衛まで行うのはなぜか?

単純に考えるのならリピトールに次ぐ同社のブロックバスターである中枢神経治療薬・リリカの通期売上高がリピトールの半分にも達しない中で、今後1年程度で日本の第一三共の連結ベース規模とほぼ同じ売上高を失い、世界ナンバーワン製薬企業の地位から転落することが目に見えているからだと推察できよう。

そのリピトール防衛策も功を奏しているとは言い難い中で、ファイザーにとって捨てがたい市場となるのは日本だ。周知のように日本では特許失効後の先発品の市場喪失速度は、近年の厚生労働省によるジェネリック使用促進策があっても緩やかだ。

ここ2年ほどは、ジェネリック品参入後に先発薬が失う市場シェアは1年で10%前後。これは薬価制度や、依然として医療従事者側にジェネリック品の品質や安定供給に対する不信感があることに起因していると言われる。新薬創出加算の新設により、医療機関のバイイングパワーがとりわけ特許が失効した長期収載品(先発品)に向けられ始まっているとはいえ、まだまだジェネリック品は、長期収載品の価格引き下げ交渉の場でブラフに使われているにすぎない。このためジェネリック品の存在が先発薬にとっては痛くも痒くもないことさえある。

米国とほぼ時を同じくして国内でも特許失効となったリピトールでは、5社10品目のジェネリック品が初参入した。当初1か月後の国内リピトールジェネリック品市場のシェアについて市場関係者は「今のところ1%弱で、ジェネリック品への切替は思ったほど進んでいない」と明かす。もっとも現在のリピトールの先発品と後発品の価格差が20~40円程度という現状を鑑みれば、安定供給や信用の問題を考えた時、ジェネリック品は前述のような価格交渉の材料としての位置づけの方が強くなる可能性が高いだろう。

実際、国内でリピトールを製造・販売先となっているアステラス製薬も12年3月期中間決算(11年11月発表)で通期売上高を前年比1.6%増収と見込んでおり、少なくとも現時点ではジェネリックの登場なぞどこ吹く風という具合だ。

そして国内ではアステラスの販売提携となっているファイザーは、長期収載品とジェネリック品で国内標準薬を全て手掛けるというエスタブリッシュ医薬品事業部門が動き出している。同社は新薬ビジネスを基軸にしながら、新薬事業を補完する形で同事業部門で長期収載品の市場防衛とジェネリック品事業を行うという、ある意味でのフルライン戦略である。

とりわけ販売価格戦略上、米国では成立しがたいビジネスモデルが成立するのも、やはり日本でジェネリック品が単純な価格戦略のみで市場を獲得しがたいことを端的に表しているとも言えよう。本家・ファイザーにとってもこれほどありがたい市場はないはずで、リピトールの市場防衛という観点から、日本市場の存在感は今後より一層大きなものになる。

もっとも12年春の診療報酬改定は、極小の引き上げとなり、医療機関側からは実質マイナス改定と評されている。その意味で長期収載品に対する価格引き下げ圧力は一層強化されることが予想され、まだまだ余談を許さない状態ではあるが…。世界ナンバーワン製薬企業の地位を死守するためにも、日本市場におけるリピトールの動向が注目される。(ジャーナリスト 村上 和巳)

 

 

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