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【ESC特別版】TRILOGY ACS 抗血小板薬・プラスグレル アスピリン併用下でクロピドグレルへの優越性示せず

公開日時 2012/08/27 14:30

 不安定狭心症(UA)または非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)患者を対象に、薬物のみによる保存的療法での長期成績を検討したところ、アスピリンとプラスグレルの併用は、アスピリンとクロピドグレルと比べ、主要評価項目の心血管死+心筋梗塞+脳卒中の発生率で有意差がみられず、優越性を示せなかった。ただし、懸念された出血リスクについても両群間に差はみられなかった。日本を除く、世界52カ国、9326例を対象に実施された、同剤の臨床第3相試験「TRILOGY ACS(Targeted Platelet Inhibition to Clarify the Optimal Strategy to Medically Manage Acute Coronary Syndromes)の結果から分かった。8月25日にドイツ・ミュンヘンで開幕した欧州心臓病学会(ESC)2012で、26日に開かれたHOT LINEセッションで、Matthew ROE氏が報告した。(26日 ドイツ・ミュンヘン発 望月英梨)




UAまたはNSTEMIの急性冠症候群(ACS)の中等度~高度リスクの患者に対して、ガイドライン(GL)では、発症48~72時間の血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション(PCI)/冠動脈バイパス術(CABG))を含む早期からの積極的な管理を推奨している。


しかし、血行再建術を施行せずに、薬物療法だけで管理されている患者が40~60%を占めることも分かっている。一方で、これまでの臨床試験の結果からは、薬物療法だけの管理を行っている患者では、虚血性イベントの発生率が2倍以上になることも指摘されている。


試験は、75歳未満のUA/NSTEMI患者を対象に、アスピリン+プラスグレルがアスピリン+クロピドグレルに比べ、長期の治療成績で優越性を示せるか検討する目的として、ランダム化、二重盲検下、ダブルダミー法で実施された。なお、プラスグレルは、クロピドグレルと同じチエノピリジン系薬剤(P2Y12受容体拮抗薬)で、「TRITON-TIMI38」でPCIを施行したACS患者を対象に、有効性を示した一方で、出血リスクも懸念されていた。


対象は、UA/NSTEMIのイベント発症から10日以内にランダム化され、薬物療法を選択する合理的な必然性があり、①60歳以上②糖尿病③心筋梗塞(MI)の既往④血行再建術(PCIまたはCABG)の既往――のうち、少なくとも1つを満たす患者とした。


クロピドグレルの投与歴の有無により、①薬物療法を10日以内に選択(入院中にクロピドグレル72時間以内に投与または既投与)②薬物療法を72時間以内に選択(クロピドグレル投与歴なし)――の2群に分け、それぞれアスピリン+プラスグレル(以下、プラスグレル群)、アスピリン+クロピドグレル(以下、クロピドグレル群)との治療効果を比較した。薬物療法を72時間以内に選択した群では、loading(初回大量投与)として、プラスグレル30mg、クロピドグレル300mgを投与した。維持用量は、2群ともにプラスグレル群10mg(75歳以上または60kg未満は5mg)、クロピドグレル群75mgとした。主要評価項目は、心血管死+心筋梗塞+脳卒中。


全世界8地域、52カ国から75歳未満7243例、75歳以上2083例の9326例が登録された。アジアでは、日本を除く中国327例、韓国82例など。登録期間は、2008年6月27日~2011年9月12日まで。


患者背景は、75歳未満の患者では平均年齢(中央値)は62歳、女性はプラスグレル群で36.2%、クロピドグレル群で35.6%含まれていた。ランダム化までの間、クロピドグレルの投与歴がなかったのはプラスグレル群で4.2%、クロピドグレル群で4.6%だった。これに対し、Loading(300~600mg)に続き、維持用量(75mg)を投与されていたのはプラスグレル群で69.3%、クロピドグレル群で68.4%だった。また、イベント発症の少なくとも5日前から維持用量(75mg)を投与されていたのがプラスグレル群で26.5%、クロピドグレル群で27.0%だった。追跡期間(中央値)は17カ月間。


◎プラスグレル群 12か月以降に心血管死+心筋梗塞+脳卒中の発生が有意に低リスクに 


その結果、30カ月後の主要評価項目(心血管死+心筋梗塞+脳卒中)の発生率は、クロピドグレル群の16.0%に対し、プラスグレル群は13.9%で、ハザード比(HR)は0.91(95%CI:0.79-1.05)で、両群間に有意差はみられなかった(p=0.21)。ただし、12カ月以降に、Kaplan-Meierカーブは分かれており、post-hoc解析を行ったところ、プラスグレル群で良好な傾向がみられた(interaction P=0.07)。心血管死(HR:0.93、95%CI:0.75-1.15)、心筋梗塞(HR:0.89、95%CI:0.74-1.07)、脳卒中(HR:0.67、95%CI:0.42-1.06)で、いずれも同様に有意差はみられなかった。サブグループで、大きな差はみられなかったが、喫煙歴ありでは、プラスグレル群で良好な結果となった。


虚血性イベントの再発については、プラスグレル群で有意にリスクが低いことも示された(HR:0.85、95%CI:0.72-1.00、p=0.04)。1つ以上のイベントが発生したのは、プラスグレル群で10.1%(364例)、クロピドグレル群で11.0%(397例)、2つ以上はプラスグレル群で2.1%(77例)、クロピドグレル群で3.0%(109例)、3~7イベントはプラスグレル群で0.5%(18例)、クロピドグレル群で0.7%(24例)だった。12カ月をlandmark timeに時間経過の影響を検討すると、治療成績と時間の有意な相関がみられた(12カ月以降のHR:0.64、95%CI:0.48-0.86、p=0.02)。


一方、安全性については、30カ月後のTIMI基準による大出血は、プラスグレル群2.1%、クロピドグレル群1.5%で、有意差はみられなかったものの、プラスグレル群で高い傾向がみられた(HR:1.31(0.81-2.11)、p=0.27)。そのほか、致死性の出血や頭蓋内出血は両群間で有意差がみられなかった。これらの有効性・安全性の傾向は75歳以上の患者でも一貫して示された。


結果を報告したOhman氏は、同試験の結果から「ACS患者を対象とした最大規模の臨床試験結果から、75歳未満の血行再建術を行わず薬物療法での管理を行った場合、2.5年間の追跡期間で、プラスグレルはクロピドグレルとの間に有意差を認めることができなかった」と述べた。その上で、1年以降にプラスグレルのベネフィットが得られる傾向がみられたことなどについての有用性を強調した。


◎Caterina氏 現行のESC STEMI GLを支持


これに対し、Discussantで登壇したR.De Caterina氏は、「薬物療法だけで管理されている患者の多くは合併症が多く、出血リスクが高い」と指摘。一方で、クロピドグレルに次いで新世代の抗血小板薬の登場により、このリスク-ベネフィットが変わる可能性を指摘した。


試験結果から、プラスグレルの75歳以上の高齢者を対象にした、出血をはじめとした安全性について、クロピドグレルと比べ、有意差がみられなかったことを指摘。PCI施行患者を対象としたTRITON-TIMI38では、高齢者や低体重でも用量調節を行わなず、75歳以上の患者で出血リスクが高まったことを引き合いに出し、用量調整が成功したとの見方を示した。


プラスグレル同様の第二世代抗血小板薬で、作用機序が異なるチカグレロルについて、同剤の臨床第3相試験PLATO(PLATelet inhibition and patient Outcomes)のACS患者を対象としたサブグループ解析の結果を提示。症例数が半数であることや、試験のプロトコルが異なることなどを断った上で、チカグレロルの有用性を強調した。


欧州心臓病学会(ESC)の現行GLでは、チカグレロル(loading:180mg、維持用量:90mg1日2回)は虚血性イベントの中等度~高度リスク患者(トロポニン上昇例など)で、クロピドグレルの投与歴がある患者も含めた全ての患者に、クラスⅠ(推奨)、レベルB(1つのRCTまたは大規模の非RCT)で推奨されている。一方、プラスグレル(loading :60mg、維持用量:10mg/日)は生命を脅かすような出血リスクやそのほかの禁忌がある場合を除き、糖尿病患者などで、PCIを施行されるP2Y12受容体阻害薬の服用歴のない患者に対し、クラスⅠ、レベルBで推奨されている。


Caterina氏は同GLを紹介し、同試験の結果を踏まえ、「現在のこのような記載は変更すべきではない」との考えを示した。


なお、同剤は日本では欧米よりも低用量のloading20mg、維持用量3.75mgという日本独自の用量で、PCI施行予定の急性冠症候群(UA、NSETEMI、STEMI)患者を対象とした、日本独自の臨床試験を実施。現在臨床第3相試験を終了しており、解析中としている。TRIOLOGY ACSの対象となった、薬物のみによる保存的療法の適応取得を目指した試験は、日本では行っていないとしている。



記事中の演者名の記載に誤りがありました。訂正いたします。 【2012年10月3日修正済み】

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