現状のMRによる医薬品情報提供では、新薬や主力品に偏らない平等性が確保されておらず、薬剤師のMRに対する積極的な関与が必要である。金沢市立病院薬剤室の宇多裕基氏は、同院でのMR訪問記録簿やMRへのアンケート結果からこのような見解を第32回医療情報学連合大会で発表した。

同院薬剤室ではMR訪問記録簿を用いてMRの活動状況の記録を継続してきたが、従来から記載不備が多いことから、訪問記録簿を改訂。改訂では、責任の所在を明らかにするために従来の社名のみからMR名（名字）とプロモーションする薬剤名を記載する項目を新設するとともに、訪問場所（医局、薬剤室）や訪問目的（新薬、採用薬、勉強会など）などを細分化して選択肢を設定。改訂意義をMRに対して文書で周知した。

実際の検証では記録簿から得られたMRの訪問状況を改訂前の2010年6月～2011年5月までと改訂後の2011年10月～2012年３月まで比較。さらに来訪するMR各社へアンケートによる意識調査も行った。

◎ＭＲ活動　情報提供回数・品目数ともに増加

1日あたりのMRの情報提供活動は、改訂前は情報提供医薬品数が14.7±6.1品目、情報提供件数が14.6±5.6件、記載不備が0.8±0.3件で、改訂後はそれぞれ18.6±7.5品目、情報提供件数が18.5±7.4件、記載不備が0.1±0.1件と各項目とも有意（p<0.01）に変化し、全体として情報提供回数や品目が増加し、記載不備が大幅に減少した。また、1日あたりの訪問先別の訪問回数は改訂前が医局14.4±5.9回、薬剤室0.3±0.1回が改訂後は医局16.9±6.5回、薬剤室3.3±1.5回といずれも増加していた。

◎新薬を販売するＭＲほど訪問回数が多い傾向

同院にMRが来訪する50社（回答25社）に対して、製薬企業別、医薬品別の売上高と訪問回数の相関、医薬品別の同院への売上高と訪問回数の相関、新薬あるいは特許失効薬とその他の医薬品に関する訪問回数の相関をアンケート調査した結果では、おおむね製薬会社の規模が大きいほど、医薬品種別では新薬に関するほど訪問回数が多い傾向が認められたという。

そこで2010年度の各製薬企業の国内売上高と訪問回数の相関をみると、寄与率R2＝0.43で若干の相関が認められ、国内企業ではR2=0.33、外資企業ではR2=0.68と外資企業の方がより強い相関となった。同院の売上高と訪問回数の関係でも全体でR2=0.41、国内企業がR2=0.31、外資企業がR=0.71と同様の傾向が確認された。
また、プロモーションされた医薬品の発売時期と訪問回数の関係では、新薬と定義した2010年以降の発売品（14品目）に関する訪問回数が最も多く、次いで2000～2004年発売（41品目）、1999年以前発売（20品目）、2005～2009年発売（25品目）の順。

新薬に関しては、その他の医薬品と比べて有意にMRの訪問回数が多かった（p<0.05）。また、新薬以外では2000～2004年発売の医薬品のうち13品目、3割以上が特許失効薬であるのに対し、1999年以前発売では特許失効薬は2品目のみだったことから、特許失効薬とその他の医薬品で訪問回数を比較したところ、特許失効薬の方が有意に訪問回数が多かった（p<0.05）。

◎「薬剤師とＭＲの連携は益々重要に」宇多氏

宇多氏は「MRが新薬、特許失効薬のプロモーションを重視していること、国内企業と外資企業では売上に対する姿勢が違うこともがわかった。製薬企業は営利企業であるとはいえ、現状では平等な医薬品情報提供活動が行われているとはいえず、現状のままでは薬剤師が患者へ薬剤の適正使用を行うことは難しくなるかもしれない」と述べた。その一方で医療の高度化・専門化と情報量の増加により、薬剤師とMRとの連携は益々重要になっていると指摘。さらに訪問記録簿改訂といった薬剤師からの働きかけで情報提供の実数の増加やMRの意識向上など良好な変化が確認されたことから、「薬剤師から訪問記録簿の定期的な管理やMRへの継続的な意識調査、それらから得られた現状のフィードバックなどMR側に積極的に働きかけていくことが重要」との認識を示した。