1年間キャリアブランクがあるSさん。離職中、どのように生計を立てていたか問われて…。

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ゲーム業界は流れが早い。常に流行にキャッチアップしていないと置いていかれてしまう世界であるため、ゲーム業界の採用は、キャリアのブランクに敏感である。

ゲーム企画で5年の経験を持つSさん（27歳）は、直近1年が無職となっていた。その間の事情を訊ねると、
「しばらく羽を伸ばそうと思ったら、アッという間に月日が過ぎてしまって」
と、少し気まずそうな様子で言った。

必ず面接に聞かれるポイントなのでと、詳しい話を聞くと、前の会社では上司が突如会社を辞めてしまい、小規模のゲーム開発ながら企画の大半をこなさなくてはならなくなり、一年半働き詰め。会社で寝泊まするような生活が続いた反動から、Sさんは仕事が一段落したところで退職し、自分の時間を心ゆくまで楽しんだとのこと。

ただひとつ、不思議だったのは、その間のやりくりだった。前社の給与はとても低く、都内で1年間一人暮らしをするだけの蓄えがあったとは考えにくい
「貯金を切り崩して、あとは親からの仕送りとか、友だちから借りたりとか」
Sさんは、我々の面談ではそう話をしていたのだが…。

ブランクのせいで書類選考通過率の低いSさんだったが、それでも人材ニーズが強いこの業界、企画に関する広汎なキャリアを見て、Sさんを面接に呼ぶ企業も数社あった。
そのなかの1社、A社の面接でのこと。話の焦点は、やはりSさんが最新の業界事情に疎いのではないかということに集中していった。

「業界のトレンドを追えていないことを、どうやって穴埋めするつもりですか？」
と聞かれ、Sさんはこう反論した。
「トレンドを追えていないとは思っていません。この1年間、自分で色々なゲームで遊び、ネットで情報を読んでいたので、むしろ、働いていた時よりも、業界の流れには精通していると思います」
実際、最近の携帯ゲーム・ネットゲームについて意見を求められると、Sさんは人気ゲームの特徴や、長所短所を述べ、ユーザーのニーズから、これからのゲームに求められる要素をスラスラと話したのだった。特に、彼のネットゲームに関する知識はすさまじく、そのマニアックぶりにはA社も目を見張るところがあった。

しかし、それだけのディープにネットゲームをやり込むには、かなりの経済力が必要になってくる。こうなると、やはり不思議になるのが、離職中の収入だ。
当初、Sさんは、我々との面談で述べたように、親の仕送りを内訳に挙げていたが、Sさんは面接の前段で、専門学校を留年したいきさつについて、「親の仕送りに期待できないので、バイトに明け暮れていた」と話をしてしまっていた。数年後に、今度は「1年間親からの仕送りで遊んでいた」では、つじつまが合わない。

A社の面接官が露骨に不審そうな顔をすると、ようやく巡ってきたこのチャンスを逃すまいと、Sさんはやむを得ず真相を語り出した。

現在、Sさんには同棲中の女性がおり、衣食住はすべて彼女持ち。しかし、まだ社会人1年目で経済的な余裕はない。そこでネットゲームに掛かるお金は、もう一人の付き合っている女性から借りて（貰って？）工面していたと打ち明けたのだ。

どう考えても、これは採用面接で話すには不適切な内容。人柄・倫理に厳しい企業なら、どんなキャリアがあろうとも、この話だけで不採用にされていただろう。
ところが、A社の面接官、いい顔こそしなかったが、Sさんが
「ゲームが好きで好きで、どうしても遊びたかったのです」
と、言うと
「そこまでするとは、芯からのマニアなのですね。」
と、妙な感心の仕方をして
「1年間、ゲームに没頭していたのが嘘ではないと分かりました。これだけの知識があるなら、業界に復帰してもやっていけるでしょう」
と、Sさんを内定にしたのだった。

二股をかけた上に、その女性達のお金で遊び暮らしているのが、キャリアブランクの埋め合わせになるとは…。
もとよりプライベートに関してとやかく言う立場にない転職エージェントではあるが、Sさんの内定をお祝いしつつも、心の内で「そのうち痛い目をみますよ」と、つぶやく我々なのであった。