2000年代初頭の製薬産業は生活習慣病薬を軸に右肩上がりの成長を遂げてきた。1000億円を超える大型新薬が目白押しのマーケットに、製薬各社は大量のＭＲを投入し、SOV（シェア・オブ・ボイス）型のプロモーション戦略を展開してきた。それから10数年が経ち、これら大型品の特許切れが始まり、企業経営の足元を揺さぶっている。製薬各社は次世代新薬の調達を目的に、バイオベンチャーとの提携・買収に多額の資金を投じてきたが、いまはそれも一段落したところ。がんや中枢神経などアンメット領域での新薬開発に弾みがついたものの、その後に残されたものは･･･。

 

重苦しい雰囲気に満ちたものがある。武田薬品の社長に外人を充てるトップ人事の発表は製薬企業各社に大きな衝撃をもたらした。武田の英断は、表向き「更なるグローバル化への挑戦」と言いながら、ここ数年間に行った施策の反省と国際マーケットでの敗北を認めざるを得ないお家事情が見え隠れする。ここ最近の業界動向をみていると、これまでの常識や慣例が一切通用しない、これまでとは違う異種・異質の壁にぶち当たっているようだ。武田薬品の岩崎真人医薬営業本部長は本誌とのインタビューで、「我々も頑張っているが、他社もそれ以上に頑張っている」と語った。この業界を取材して20年を超えるが、旧来の武田薬品の印象は、目標必達は当たり前、市場は自分たちで作るものと、トップのプライドを感じた。ところが、糖尿病治療薬の度重なる売上高の下方修正や、昨年の抗肥満薬の薬価収載保留など、あれっ！と思われる事例が幾つも散見されるようになる。

 

実は、こうした常識や慣例が通じないという声は他社からも聞こえてくる。製品の売上予測が建てられない－。フォーキャスト（forecast）はマーケティングの基本中の基本だが、いざ新薬を上市しても、当初の計画通りにトレースすることは極めて難しいという。大量のＭＲを投入しても結果が出ない。まして、コ・プロやコ・マーケだらけのマーケットで、ＭＲ側も“きょうの友は明日の敵”と言わんばかりの市場競争をり広げている。

 

業界を取り巻く重苦しさの原因の一つは環境変化に他ならない。新薬の特許切れが業績に重く圧し掛かる。経営陣からコスト抑制の指示が現場に飛ぶ。本社のマーケティング部や製品戦略チームは、省力化した形でのプロモーションプランの立案を迫られる。現場では、ＭＲ訪問を５回から３回に減らした場合のマルチチャネルの活用などは当たり前。「O2O」（Online to Offline） による有益な研究会・講演会の企画立案までを包含した、次世代プロモーションへの戦略の練り直しが迫られている。

 

医療システムの改革は医療従事者の行動を変えるだろう。昨今は「施設完結型」から「地域完結型」の医療システムへの流れが出来つつある。医療者による多職種連携はより重要性を増すだろう。新たな潮流としては、診療情報など医療ビッグデータの活用への期待が高まっていることだ。実臨床の集積データを活用することで、目の前の患者の年齢、病態、病期に近い情報にアクセスし、予測される効果や有害事象などを事前に察知することを可能にする。ビッグデータの活用はこれからの医薬品の情報提供活動を変えるだろう。

 

本誌2014年１月号の巻頭企画では、医療システムの変革、新薬パイプラインの動向、そして地域医療の新たな展開の各テーマから、次世代のＭＲ活動をレポートする。こちら

（この記事は１月号に掲載しています）