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厚科審・制度部会 虚偽・誇大広告へ「課徴金」導入を了承 改正薬機法に明記

公開日時 2018/11/26 03:52

厚生労働省の厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会は11月22日、製薬企業、医薬品卸等が虚偽または誇大広告などで不正な利得を得た際の罰則として、当事者に「課徴金」を科す方針を了承した。課徴金は、当該製品の売上高に一定の率を掛け合わせて算出する。このため大型製品になるほど課徴金は巨額になる。次期通常国会に提出する改正医薬品医療機器等法(薬機法)に盛り込む方針。降圧薬・ディオバンの臨床研究不正に端を発し、化血研の不正製造問題、副作用報告遅延など、経済的な利得の確保を優先にした不正が相次いでいる。ところが現行薬機法では虚偽・誇大広告への量刑が軽いために、抑止効果を問題視する意見が見られた。大型市場向けの製品や希少疾病を適用とする高額薬剤などでの“やり得”を防ぎ、不正が起きないよう抑止する狙いが込められている。

この日の制度部会に同省は課徴金の導入を提案した。課徴金の対象となる違反行為は、「虚偽・誇大広告(66条)」、「未承認医薬品等の広告(68条)」、「未承認の医薬品等の販売、授与等の禁止違反(14条1項・9項、55条2項等)」などに該当するような事案。広告だけでなく、未承認医薬品の販売については、「承認書と異なる方法で製造した製品を販売する」場合も含めた。

◎課徴金は「医薬品等の業種の利益率も勘案」 期間と売上高で算出


課徴金は、不正がなされた期間と残存効果が認められる期間における売上高に、一定の算定率を掛け合わせて算出する。算定率は、景品表示法で一律3%の課徴金が設定されていることを踏まえ、「医薬品等の業種の利益率も勘案」して決める。最終的には、改正薬機法のなかに、算定率を明記することも視野に入れる。ただし、懲戒や業務改善命令などの行政処分を受け、医療全体に与える影響が軽微である場合などは課徴金の対象から除外する規定も設ける方針。

課徴金導入の背景には相次ぐ製薬企業、医薬品卸、薬局などの不正がある。問題の発端となった降圧薬・ディオバンをめぐる臨床研究不正では、臨床試験でのデータ改ざんについては認定されたものの、刑事処分は下らず、11月19日には東京高裁でも一審に続き、無罪判決が言い渡された。刑事罰の手続きは重く、厚労省の告発から現時点までで4年以上の月日も費やした。現行の薬機法では、処分が軽いという実状もある。ディオバンも1000億円以上売上げるブロックバスターに成長したが、虚偽・誇大広告(66条)違反での罰金も被告人・企業ともに罰金は200万円以下だ。

さらに、承認書と異なる方法で製造し、行政処分を受けた化血研は、処分後もワクチンの市場流通を続け、行政処分だけでは十分な抑止力が働かないという問題を突き付けた。こうしたなかで、行政罰として新たに課徴金の導入が検討された。

特に課題となった広告については、課徴金の導入に加え、訂正広告を命じる措置命令の導入も検討されている。論文そのものについては課徴金の対象とならないが、論文をもとにした記事広告などを掲載した場合、この期間は対象とする。薬機法の対象は主導したのが広告代理店や出版社などであった場合には、これら企業の売上高に課徴金がかかることになる。

◎薬機法上の業許可を持たない事業者も対象に


もう一つの課題が、薬機法上の業許可を持たない事業者の存在だ。厚労省によると、2017年度の全国での違反件数は、66条(虚偽・誇大広告)違反は585件(うち医薬品505件)、68条違反(未承認医薬品等の広告)は262件(うち医薬品:75件)にのぼるという。特に、健康食品、ダイエットやEDなどの効能効果を謳った化粧品メーカーなど、“薬機法上の業許可を持たない事業者”が主体となっているケースが増加しているという。そのため、厚労省は、納付命令を国と都道府県の双方に付与することを提案している。


【解説 製薬産業に注がれる‟社会の眼“を意識した経済活動を】


「何らかの対応が必要だが、第66条1項での対応には無理がある。新たな立法措置で対応することが必要だ」-。11月19日に東京高裁で開かれたARB・ディオバンの医師主導臨床研究におけるデータ改ざんをめぐる控訴審で芹沢政治裁判長は、薬事法、薬機法の歴史を紐解いたうえで、新たな立法措置の必要性を述べた。

厚労省はディオバン事件を教訓として、2つの重要な対策を講じた。その第一弾が今年4月1日に施行した臨床研究法だ。臨床研究そのものを可視化することで、データ改ざんや資金提供の流れを社会が監視するシステムを導入した。そして、第2弾の対応こそ、今回議論となっている「企業内ガバナンス」の視点だ。

‟売らんかな“を主眼とする過大な売上目標の設定や、MRへの過剰な利益追求など、経営を優先するあまり企業経営陣のガバナンスの効かない事例が散見されたことを厚労省は問題視している。国民の税金で賄われる医療保険の枠内にあって、企業活動はより厳格化が求められる。企業の経営者が行う売上目標の設定にしても、推定患者数が明らかに上振れしているような設定は、薬機法の承認範囲を超えた患者に投与される可能性を高めるばかりか、重篤な有害事象を引き起こすことも考えられる。これにより企業が不正な利得を得ていたとしたら極めて重大な社会問題となる。

課徴金という行政罰が導入されれば、当該企業はこの間の売上高をはじめ、企業内部の状況を詳らかに開示する義務が生じる。さらに薬機法改正では、企業のガバナンスの責任主体が「経営陣」であることを法律上明記することも検討が進められている。法令遵守を担保するために「薬事に関する業務に責任を有する役員」を法律上明確化し、薬機法違反などがあった場合には役員の変更を命じることができる措置を行える。経営陣にこうした処分をリスクとして常に捉えてもらうことで、利益追求型の構造見直しを迫る。企業としてのガバナンスを高め、企業本来の役割を自ら発揮することを突き付けているとも言える。

「製薬業界が過去に社会を揺るがす大事件を起こし、そこで我々は何を学んだのかを真剣に考えて欲しい。間違いなく今後の軸足は安全性にある。そろそろ頭を切り替えなければならない」-。日本製薬工業協会(製薬協)の田中徳雄常務理事は10月16日、都内で講演するなかで。こう警鐘を鳴らした。ディオバン問題以降も、副作用遅延、バイエル問題やアレクシオン問題など、不適切な事例は後を絶たない。法律に抵触していなければ利益を追求してもよいのか。

最近取材した事案の中で、「うちは製薬協に加盟していない会社ですから」という声を何度も聞いた。製薬協に加盟していなければルールを順守しなくても良いという単純なものではないはずだ。まして、企業活動の意思決定に関わるような責任ある立場の方の発言であればあるほど耳を疑う。さらに言えば、業界内で人財が流動化する時代に、直前まで製薬協加盟社に所属し、責任ある立場にありながら、いまは製薬協に属さないということを盾に使うのであれば、それは確信犯でしかない。今回の薬機法改正の議論を契機に、すべての製薬企業には本来の役割を果たす姿となることが求められている。

高齢化が急速に進展する日本において、製薬企業の経済活動がブラックボックス化されている状況は誰も望まない。製薬産業に対する社会の視線が、これまで以上に厳しく注がれていることを企業経営者は自覚しなければならない。(望月英梨)

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