ファーマ・インサイト 戦略的マーケティングプロセスのポイント

公開日時 2009/09/10 04:00
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 弊社は製薬企業に特化した戦略マーケティングのコンサルティングと能力開発プログラムを提供していますが、この仕事を通して、色々な会社の取り組みを見ることができます。各社にはその会社ならではの強み弱みがありますが、その中でもやはり共通した悩みやマーケティング上の課題があります。この連載では、製薬業界の戦略的マーケティングプロセスにおいて、最も重要なポイントをまとめていきたいと思います。

 

 まず初めに、マーケティングの重要性を強調したいと思います。研究開発パイプラインの質により企業の将来が左右されることは事実であり、また営業力も大変重要です。しかし実際の市場の動きは、製品特性とSOVによるものだけではないことは自明です。近年、大きく失敗した新製品もあれば、予想以上に成功し続けているロングセラーも目立ちます。予算やディテール数がカットされていても、厳しい競合の中で少しずつ市場シェアを伸ばしている製品も沢山あります。

いずれにしても製薬業界においては製品の粗利益が5割以上であるため、わずかでもマーケットシェアに違いが生まれれば、会社に対して素晴らしい貢献ができます。このような有利な立場を確保するのがマーケティングの使命です。外資系はともかく、国内系製薬企業の一部は、「マーケティング」という言葉そのものに対して今でも違和感をもっているような気がします。

 「マーケティング」という言葉をあえて使わず、代わりに「営業推進」や「営業企画」などの部署が存在しているケースを散見します。呼称にこだわるわけではありませんが、問題はその背景にある認識です。簡単に言えば、私がいう「マーケティング」には、グラフィックス、パンフレットデザイン、ブランディングなどクリエイティブ系の仕事も含まれますが、それらはメインではありません。 

 基本的には、「営業」と「マーケティング」は同じゴールを向いているはずですが、単純に区別すれば「営業」は今日の売上を考える立場で、「マーケティング」は、今日の状況を把握して明日の売上を考える職業と言えるでしょう。(「戦略」という文字が前にくると尚更そうです。)

しかし、この区別はシンプルすぎ、実際にはこの二つの仕事には切り離せない部分があります。マーケティングメンバーは徹底的に営業現場を理解し、絶えずMRからのフィードバックを聞くべきですし、営業部隊もディテール数を作り上げる体力だけではなく、もっとロジカルな思考で中・長期に物事を進めるべきです。

私が出会った営業職の方も、マーケティング部所属の方たちの大半も、ほとんどの時間とエネルギーを日々の細かい「戦術」を実行するために使っており、今日の売上を考える割合がほぼ100%を占めているように思います。「戦略」を構築している時間は、おそらく10%以下なのではないでしょうか。しかし忙しい日々の中でも、体系的に「明日」の市場を考えて、きちんとプライオリティをつけて物事を進めている人々もいます。

立場で言えば、成功しているブランドマネジャーや、月々で素晴らしい実績を上げているMRは、全員が「マーケター」であることは間違いありません。

 

戦略とは?

 次は、戦略とは何かという定義から入りましょう。私はいつも、次の二つのリファレンスを引用しています。三省堂の定義によると、

戦略:戦いに勝つための大局的な方策─。

 ビジネスは、参加することに意義があるのではなく、戦いに勝つためにやっています。これを覚悟して初めて仕事が本当に面白くなるわけですし、頭の整理が一歩進みます。なぜなら、大変重要であるのに忘れがちな、「誰に勝つのか」ということに論点が進むからです。

「他剤に勝つ」という戦略が適しているのは、革新的で圧倒的な力を持つ製品だけです。そのような製品であっても、戦う相手となる他剤を明確に選び、順番に勝っていくというプロセスを踏む必要があります。マーケットシェアを何%伸ばす、という命題を掲げたら、どの製品のシェアを何%取る、などの具体的なシナリオを作るべきです。そのシナリオにそって、「明日」の絵を描き始めます。もう一つは、ハーバード大学教授で企業戦略論が専門のマイケル・ポーター ( Michael Porter )による次のコメント。

何をしないかという選択が、戦略の核心である。

 これは日本語で言うところの「集中と選択」ですが、クライアントのブランドプランを拝見する度に、これは本当に取捨選択された結果なのだろうか?という疑問を持ちます。はっきり言ってしまうなら、あるプランに対して「ノーと言える」勇気が必要だということです。たとえばコストカットの一環として、予定していた活動計画の費用を一斉に定率で減らした場合、各アクティビティ(コングレスに参加する、ウェブサイトを立ち上げる、ディテール用資材を更新するなど)の効果が均等に薄まるわけではありません。投資効率も違うはずですし、投資額には閾値もあるはずです。

 ひとつのマーケティング活動の投資金額と、それに伴う追加売上高が比例する非常に簡単な事例を、図1に示しました。ほとんどの活動は右上がりの直線ではなく、ここにあるようなS-Curveの形を描きます。

従って、この事例の場合、最低100万円は投資しないと全く効果が生まれず、300万円までは投資してもほとんど意味はありません。しかしそれに続く100万円の投資効果は抜群です。現在400万円をこのプログラムに投資しているとすれば、1円も減らさないほうが良いわけです。メリハリをつけ、この活動を守りながら、その他の活動をより大きくカットすべきでしょう(図1)。

 ROI(Return on Investment=投資回収率)の検証の仕方はまた改めて詳しく説明しますが、ポイントとしては、優先順位を決め、プライオリティの高いものにきちんと投資をし続ける(もしくは増やす)と共に、そうでないものをバサッと切ること。これが戦略の基本です。 

資源が無限にあるのであれば戦略は必要ありません(=やりたいことを何でも同時にできる)が、逆に言えば、資源が乏しければ乏しいほど、より考え抜かれた戦略が不可欠となってくるのです。これは資源配分というよりむしろビジョンの話です。毎日毎日、周りに起きることに影響され、あれもこれもと少しずつやっていくと、戦術的な対応のみに溺れてしまう危険性があります。より大きく体系的に「明日」の仕事を考えれば、やるべきこととそうでないことがはっきりしてきます。これが「戦略的」な見方です。 

マーケティングにおける「グローバル」の意味合い

 私は日本国内だけではなく、アジア及び世界中のハイパフォーマーの研修プログラムやコンサルティングを担当する機会が頻繁にあります。その中での印象として、やはり局所的(ローカル)な見方に固執してそれを強調する人は、長い目で見た場合の成果を出し続けづらいのではないかと感じています。確かにどの市場にも特有の事情はありますが、包括的(グローバル)に見た場合、全世界で通用するフレームワークが確実に存在するわけです。このようなフレームワークをしっかりと理解した上で、自分のローカルな仕事の詳細を一段高い立場および広い視野から客観的に理解、評価、比較ができるマネジャーのほうが、より成果を上げる可能性が高いといえます。  

 例えば、KOL管理のセミナー依頼を受けるとき、私は大きなポイントの一つとして、「マーケターが、KOLの選択や管理を含め、ドクターとの関係を最大限に活かしているかを評価する」ことをあげます。各製薬会社が有名な先生方にこぞって接する様相は、限られたパイの中で競争を激化させていく要因に他なりません。特に大手ではない、予算に限りのある会社は、別の軸で物事を考えたほうがよいのではないか?つまり、ノーと言える勇気をもつべきではないのか。その考え方の軸の具体的な例とプロセスを、このKOL管理講座で紹介します。
 
すると毎回一様に、「日本は事情が違う、有名な先生にお金が集まるのは当然だ」、「私の疾患領域は事情が違う、この先生しかいません」といった反論が上がってきます。そう言われてしまうとどうしようもないのですが、この場を借りて言えば、「どの国の人も、みな同じことを言うんですよ」とお知らせしたいところです。中国でもタイでもフィリピンでも同様のコメント、つまり、自分の国・領域・立場は特別だ、だから今のやり方しかないのだと主張されるわけですが、先ほどお話したように、あるフレームワークを通して常に広い視野から自分の仕事を見たほうが、物事の全体像が理解でき、より適切な行動が取れます。

 戦略のロジックは総論のもとで作られており、その戦略を理解した上で戦術(各論)に落としていくのがマネジャーの仕事です。「自分は例外」「自分が置かれている立場はこのように異なっている」といった考え方に固執していては、大きな流れを読むことができず、急な市場変化に左右されてしまうことになりがちです。できる限り他の治療領域や市場を経験している人と交流を図り、「グローバル(=広い視野)」な思考を磨いて、やるべき仕事を考えましょう。

 

戦略マーケティングの4段階

 戦略マーケティングプロセスは、わかりやすく4段階に分けられます(図2参照)。基本的にこのプロセス全体を年一度実行していきます。ステージ毎の便利な分析ツールやフレームワークを左側、考えた結果をまとめるアウトプットを右側の枠内に置きました。このプロセスに沿い、これから連載を続けていきたいと思っています。

 

 


ジェフリー・シュナック(Jeffrey B. Schnack) 1967年米国生まれ。米国とヨーロッパの大学院で国際政治経済学修士およびMBAを取得。1990年来日。外資系コンサルティング会社にて欧米企業のアジア戦略プロジェクトを実行。その後JR東日本初の海外子会社代表などを務める。スリーロック株式会社は2004年より、製薬企業を対象に営業・マーケティング分野のコンサルティング及び能力開発プログラムを実施している。
スリーロックHP http://www.3rockconsulting.com 本人ブログ http://blog.3rockconsulting.com/

 

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