石巻市包括ケアセンター・長純一所長の挑戦 地域の力で地域を支える街づくり  (1/2)

公開日時 2016/03/31 00:00
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マルチチャネル3.0研究所 主宰
佐藤 正晃

 

2011年3月11日の東日本大震災から5年が経過した。被災地の復興は着々と進んでいるが、その一方で地域医療の現場は年を追うごとに様々な課題に直面している。石巻市包括ケアセンターの長純一所長は、地域の医療・介護問題の最前線で日々奮闘する一人だ。同氏は、震災に伴う地域コミュニティーの崩壊がもたらした影響は極めて甚大だと強調する。加えて、「地域の力で地域を支える街づくり」をいかに成功させるかが、今後の地域包括ケアを占う試金石だとの認識を語ってくれた。今回は、石巻市の地域医療をどう再生するかについて現地からリポートする。

 

佐藤 正晃 氏

 

MC3.0研究所
主宰

長 純一 氏

石巻市立病院開成仮診療所・石巻市包括ケアセンター 所長

 

 

地域医療の経験を活かす

 

佐藤 先生は長野県の佐久総合病院での経験が長いとうかがっています。そこでの経験を踏まえて石巻に来られたということですが、まず最初に、この地域に接する中で肌で感じたことを率直に語ってください。

 

 私は、もともと長野県南佐久郡の中山間地区で診療所を中心とする地域医療に長く携わってきた。当時は村や町全体の保健医療や地域の将来像を考えながら地域の医療をどうすべきか考え続けた。こうした経験を活かせると私は考え、東日本大震災で被災した石巻にやってきた。東北は一言でいうと医療が過疎化し、人口が減少するような右肩下がり社会の典型的な地域だ。都市型の復興を目指すことは難しい。むしろ私の経験を活かすことが相応しいと考えた。

実際に被災地である石巻にくると、医療機関の仕組みはあるのだが医療を受けようとしない人大勢いた。このため、まずは医療を受ける前の保健活動など、高齢者の健康状態を維持する活動に注力した。自分の意識としては常に現場を見渡しながら全てのことにかかわってきたと自負している。震災に伴って特殊な状況もあった。いまは行政の仕事をしているのだが、私が南佐久農村部診療所長時代に経験した行政とも違うところが沢山ある。石巻の地域性には想像した以上だ。特に女性が表に出ない社会だと感じた。ジェンダーの問題が復興の中で大きな課題だったことは間違いない。

 

佐藤 それはもともと女性の社会進出の話なのか、震災という地域性の問題なのか、先生の分析はどうですか。

 

 女性が進出しにくい環境であったことが、むしろソーシャルキャピタルが高いということにつながったのではないかと感じた。明らかに都会型とは違う。そこの問題点と同時に、地方の特性として、高齢者のケアや子供の教育などは女性的な仕事だと感じる。震災によって街のコミュニティーが壊れた中で、この部分が急速に落ちたことは無視できなかった。我々が石巻で取り組む地域医療とは、社会システムとして医療や介護を支える都市型もモデルに加えて、コミュニティ力を合わせて地域医療を支えるという発想だ。だからこそ女性目線で復興を考えないといけない。予想はしていがが、実際は本当に厳しいと感じた。

 

佐藤 ソーシャルキャピタルのレバレッジの中で、ある意味、男性と女性を比較できないが、能力として得意・不得意があり、そこがキャピタルの活かし方ではないかと思う。石巻に来てレバレッジを意図的にかけようとした事例はありますか。

 

 これまでも様々な提言をしてきた。医師はともかく、看護、介護は女性の多い職種だ。その人達がより元気になって、発言権が維持されるようにならないといけない。ただ、復興という視点でモノをみると、物事の決まり方が、街づくりは土木建築関係が中心で、女性の発言権が弱いというのが実情だ。街のコミュニティーや高齢者のケア、教育などについて、それなりに女性の識者もいるが、国の優先順位が元々低い。社会的共通資本になっておらず、後回しで復興が進んでいる感じだ。そこを改善したいと思った。

 

佐藤 女性活用の視点はこれまであまり聞いたことが無かった。むしろ社会システムの方でなんとかしなければいけないものだと考えていた。先生の話を聞いて、やはりケアや教育という視点をもっと活かさなければいけないということですね。

 

 そうです。石巻に限らず、被災地は震災で大事なものを失ってしまった。我々も提言したが、まずは既存のものを活かすという発想を大切にすべきだ。脆弱な社会システムの中で何故、地方の方がケアの質が高かったのか?子供の数も多いのか?そこは社会システムとしてのコミュニティーが高かったからではないかと考える。

 

佐藤 なるほど。“街づくり”というキーワードは非常に重要だと思います。ここに若手の医師や医療者がどう関わるべきか見解をお聞かせください。

 

 私の知る限り、最近の若い医師も日本の社会保障制度が行き詰っていることに危機感を感じ始めている。社会そのものの先行き不透明感も強まっている。人のため、社会のために貢献したいと思い医師を目指す医学生も多いが、その一方で若手医師のロールモデルがないことへの不安も高まっている。その結果、一部の医師がコンサルティング業のような我々とかけ離れた別の道を歩もうとする場面に出くわすことも少なくない。私は日本という国には、“命の問題はお金の問題にすべきでない”との考えが根付いているのだと思う。いまの医学部に魅力を感じない学生も多いのではないか。医学部にいる肝心の教員がこうした社会の時流を見ていない。私のような立場の人間から言うと、より一層、本当の社会ニーズに応えられるかという課題と真正面から向き合わなければならないのだ。若手医師の仕事も流動化するなかで、社会ニーズとミスマッチしたことばかり教えると、大学の医学部に魅力を感じなくなる人も増えるのではないか。ここ数年ぐらい感じることだ。

 

 

地域コミュニティーの
底上げを呼びかけ

 

佐藤 石巻市包括ケアセンターでは研修医をうけ入れていますか。

 

 現在、総合診療医を目指している後期研修医3名を受け入れている。短期の研修を含めるとこれまで約300名の医師を受け入れてきた。

 

佐藤 先生の平均的な一日のスケジュールを教えてください。

 

 いまは特殊事情がある。今年夏の石巻市立病院の再開までは一時的に医師が余っており、丸一日行政の仕事をしていることも多い。きょうも認知症の相談と訪問看護ステーションの運営委員会に出席した。行政の会議に参加したり、来訪者への対応をしたりということが多い。地域住民向けに懇談会も行っている。ここでは皆で支えあう社会づくりの話をする。地域包括ケアをやろうと呼びかける。多職種連携もサポートしている。なにより地域のコミュニティーの底上げをしなければいけないという意識で地域住民や諸団体と一緒に活動を行っている。

 

佐藤 仮設住宅の住民とのコミュニケーションはいかがですか。

 

 認知症など住民からの直接的な相談もあるが、今後は国が示している在宅医療介護支援連携センターと同様に仕組みをつかって、地域医療の課題を解決しようと考えている。石巻の場合は、包括ケアセンターのスタッフやケアマネさんが医療面で困ったときに解決できる医師を含めたスペシャルチームを作る事を考えている。このことはコメディカルと医師の連携を促進し早期診療につながる。職種を揃えて、電話相談を受けるだけでなく解決できるようなことをやる。例えば前期高齢者へのバックアップも行っており、より専門性の高いことが要求されている。住民からの相談というより、閉じこもっている高齢者に対する健康維持のための方策の検討や、体を動かす意義などスタッフに加え私も医師という立場で住民に働きかけている。いまはラジオ体操の実践を通じてコミュニティーを活性化するようなことも行っている。

 

佐藤 なかなかそこまでやっていただける医師は少ないですよね。

 

 それができるのは行政の医療機関だからだ。もちろん開業医でもできるが、まったく金にならない。だからこそ石巻市に働きかけて診療所を作って欲しいと働きかけて実現した。いまは被災地の自治会長の集まりを応援している。実際には5年、10年かかってから医療にお金が回ってくるのだろう。いまはむしろ生活困難な問題などがあり、これが医療現場に持ち込まれている状況にある。コミュニティーをこれからもつくらないといけない。企業にも協力を求めたい。何の貢献ができるかを考えて欲しい。

 

佐藤 助け合いのベースは地域にあるということですね。

 

 地方では医療や介護は社会システムだけで乗り切ることは困難である、地域のコミュニティの力を合わせる事で健康維持、増進をさせてきた。ところが震災によりコミュニティーが壊れた。これを修復することは容易ではないが、ちょっとでも良くできるように取り組まねばならないと思う。

 

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