スウェーデン型の介護ケアに学ぶ

公開日時 2016/05/31 00:00
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24時間看護と看取りケア 舞浜倶楽部の挑戦

 

マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃

 

東京ディズニーリゾートに隣接する新浦安に舞浜倶楽部はある。外観は西洋建築の洋館を思わせる建物。入口はどこか高級ホテルのようで、コンシュルジュが来訪者を出迎えてくれる。その先のラウンジには立派な暖炉とグランドピアノが置かれていた。そこに現れたのは舞浜倶楽部のグスタフ・ストランデル社長。流暢な日本語で、これからの地域包括ケア時代の介護ビジネスの方向性を語って頂いた。

 

 

 

スウェーデンの高齢者ケア 原点を探る

 

佐藤 スウェーデンの福祉の理念を積極的に取り入れている舞浜倶楽部のまず概要についてお話しください。  

 

ストランデル 私はスウェーデン大使館の福祉研究所長として、日本で介護保険制度がスタートする2000年以前から福祉先進国スウェーデンの介護ケアの研究などに携わってきた。90年代は日本からの視察団のお手伝いなどをさせて頂いたが、その時に、いまの介護ケアを予見させる一冊の本に出会った。建築家で京都大教授の外山義氏の執筆された「クリッパンの老人たち~スウェーデンの高齢者ケア」という本だ(写真)。感動した。実は、いまから四半世紀前の1990年に出版されたものだ。彼は80年代にスウェーデンで生活した経験がある。私は97年に初めて彼にお会いしたが、その時の経験を踏まえ、在宅ケアや施設ケアなど北欧の地域社会モデルをベースに介護ケアの概念を提案していた。この考えこそ、いまの地域包括ケアに通じるものがある。

スウェーデンにも歴史がある。実は、私の曽祖父母の時代はまだ巨大な老人病院だった。福祉の原点は日本と共通している。複雑なケアも地域の中でなるべく在宅が中心になってきた。ただ「自宅でない在宅」という考え方もある。あきらかに生活空間やプライバシーを確保することが求められる。まさに、このコンセプトを実践するために私は舞浜倶楽部を立ち上げ、スウェーデンケアを軸としたケアサービスの提供に踏み切ったのだ。

 

佐藤 舞浜倶楽部のこれまでの歩みについて教えてください。

 

ストランデル 舞浜倶楽部の従業員は約220人。これまでの歴史を簡単に紹介する。2003年に舞浜倶楽部設立プロジェクトを立ち上げた。翌04年に介護付有料老人ホーム「富士見サンヴァーロ」(浦安市富士見 居室数79室、定員79人)を開設した。開設から半年で満床になるなど、我々としても地域の中で成功した事例の一つだ。09年にはデイサービス、小規模多機能型施設、介護相談センターが入る複合型施設「新浦安フォーラム」(浦安市高洲、居室数76室、定員81人)をスタートさせた。開設当初から認知症ケアへの取り組みに加えて、24時間体制の看護師常駐や看取りまで対応している。

 

佐藤 ストランデル社長が信条としているケアとはどのようなものですか。

 

ストランデル 入居する高齢者の生活空間やプライバシーを守ることだ。さらに地域とも交流する。自分が慣れ親しんだ環境で、自分のスタイルにあった暮らしをおくることができる。認知症になっても安心して暮らせる環境を提供することに全力をあげて取り組んでいる。そのため、内部には優れた人材を養成するための「スウェーデン緩和ケア研修センター」も設置している。

 

 

地域包括ケアは素晴らしい

 

佐藤 日本でも2025年の高齢化のピークに向けて地域包括ケアシステムの導入を推し進めております。どう評価しますか?

 

ストランデル 日本は急速な高齢化で、介護施設の待機者が増えている。ただ、日本の国民皆保険には意味がある。新しい発想を試してみようという環境は国民皆保険がもたらしていると思う。その点で日本は非常にうまくやっている。介護現場も地域ケアも今後急速に変化するだろう。地域包括ケアは素晴らしい発想だ。「介護=老人ホーム」ではなく、まず居宅支援を行い、ショートステイを行いながら、いままでの暮らしを守るという原点を大切にする社会システムが構築されてきた。これを地域全体で支える仕組みとなるだろう。

 

佐藤 舞浜倶楽部の入居者の属性について教えてください。

 

ストランデル 入居前住居形態(16年3月1日現在)をみると、富士見サンヴァーロでは、自宅が76.4%、病院が17.1%、老健等が3.9%。新浦安フォーラムは、自宅が54.7%、病院が18.7%、老健等が3.9%となっている。平均年齢は概ね87歳前後。一方で入居者の家族の訪問者数は、25人から30人程度は毎日やってくる。週末やお盆などは訪問者の人数もかなり増えており、継続的に来る人が多いのも特徴とも言える。

 

 

施設内にクリニック併設
地域住民にも開放

 

佐藤 地域の医療機関との連携はどうですか?

 

ストランデル 新浦安フォーラムの施設内に「ひまわりクリニック」を併設している。このクリニックは、24時間オンコールの対応が可能だ。また外来は地域住民にも開放している。このほか近隣の医療施設では、浦安中央病院や行徳中央クリニック、船橋デンタルクリニックとも協力関係を結んでいる。

私は、地域包括ケアを実現するためには自治体、地域、施設がそれぞれの役割や機能を分担すべきと考えている。介護は病院や在宅で始まる。そうなると、なるべく早く早期発見、早期診断ができるクリニックが必要だ。舞浜倶楽部は施設内にクリニックを併設しているが、これにより地域住民にとっては、外来治療から在宅ケア、看取りまでを同じ建物で行うこともできる。ただ、こうした機能を生かすためには自治体や地域の協力が不可欠だ。そこで我々は浦安市と認知症対策で協働事業を展開している。

 

佐藤 それは凄いですね。浦安市とはどのような協働事業を行っているのですか。

 

ストランデル 2013年度からこの事業はスタートした。今年で4年目を迎えている。具体的な事業の目的は、地域の認知症ケアの向上と舞浜倶楽部としてのCSR活動。行政の立場からは、全国各地にネットワークがあり、認知症ケアのノウハウのある舞浜倶楽部を地域で活用したいという狙いがある。一方、我々としては、地域貢献の一環としての活動と行政との良好な関係性を重視している。

16年度の活動は、①浦安市認知症カフェ連絡会事務局、②認知症カフェ後方支援、③地域包括と連携しケース訪問およびケース会議出席、④家族介護教室の開催、⑤はいかい高齢者見守り訓練の実施、⑥認知症事例報告会、⑦医師会連携会議-を予定している。当初、認知症カフェは年2回やっていたが、いまは毎月実施している。舞浜倶楽部の研修センターを軸に、地域の学校などで認知症サポーター養成講座なども行っている。

 

 

医師会との連携 クラウド型電子カルテで情報共有化も

 

佐藤 医師会との連携会議もやっているのですね。

 

ストランデル 医師会からは、我々が認知症ケアを積極的に行っていることを高く評価して頂き、様々な形で協力して頂けるようになった。医師会とは介護事業者協議会を通じて情報交換を行っている。

医師会が導入したネット型電子カルテのクラウドサービス「医歩 ippo」を活用した診療情報のネットワーク化にも協力している。いまは浦安市内のクリニックと病院が試行的にやっている状況。これを将来は広げていきたい。

我々も積極的に様々な業界の流れなどをフォローしているところ。私の人脈の中で、介護ロボットなども関心がある。高齢者の自立支援になるものと、介護者側の労働軽減などに使えるロボットなども期待しているが、実現はかなり先になりそうだ。ただ、ICTは進んでおり、3年後、5年後にタブレットPCを仕事に使っていない介護職員はいなくなるだろう。これも地域連携の中からその必要性が出てくると思う。浦安市もこれをサポートしている。

 

佐藤 最後に看取りについてお聞かせください。

エントランスを抜けると正面に西洋風のラウンジスペースがある。憩いの場として利用する。

 

ストランデル 看取りにかかる社会的コストはものすごい。このため看取りケアを積極的に実践している施設はまだ少ない。私たちは、入居に際し、まず看取りケアについて説明している。看取りに対する考え方は様々ある。可能ならば入院したくないし、延命治療を受けたくないという人も多い。もともと医療を受けたいと思う人が多かったわけではない。医師や看護師の役目として命を救うとして取り組んできた。ただ望まない高齢者もいる。大事なのは24時間看護をしっかりやることだ。看取りケアを医療機関と連携して実践することがキーワードの一つだと考えている。

 

佐藤 最後に財源となる介護報酬についての要望があればお聞かせください。

 

外観とは異なり、入居スペースはすべて和風の造りに。

ストランデル 北欧、ドイツ、オランダと日本が大きく異なる点は、財源の予見性ではないだろうか。北欧諸国は殆ど福祉関連の予算を黒字運用している。安定より透明性が重要ではないだろうか。経済も様々な流れがある。北欧も歴史的なことがあるが、いまでも5年、10年先を予見することができる。日本は今後5年すら見通すことが難しい。私も長い日本の経験の中で、日本人の頭の良さを感じる。何かあると行政に頼る風潮がある。ただ、肝心の財源が不透明で、将来が不透明になる。多くの方がその不安を持っている。北欧にはこの不安が無い。やろうとしている地域ケアは似ているが、大きな違いがこの先行きの不透明感だ。介護現場が赤字を抱えて先を見通せないことは不幸だと思う。

 

北欧は税金が日本より高いというが、彼らは負担感が高いとは思っていない。そこが日本と違うところだ。

 

佐藤 長時間にわたり貴重なお話をありがとうございました。

 

 


マルチチャネル3.0研究所とは:(MC3.0研究所)
「地域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義することを目的にして、製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめとする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」である。設立2015年4月主宰 佐藤正晃(一般社団法人医療産業イノベーション機構 主任研究員)

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