中外製薬は6月25日のＤＸメディアセミナーで、バリューチェーン全体の業務効率化を進め、2021年は全社で5万時間、23年は10万時間の業務削減を創出する方針を明らかにした。同社は、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を策定し、定型業務の自動化を進めている。20年は、コロナ禍のテレワークを実現するなどデジタルワークプレイスの環境整備と働き方改革が牽引し、3.5万時間の業務削減を達成した。21年以降も「CHUGAI RPA」（Reconsider Productive Approach）と題し、ＡＩ（人工知能）等を活用した業務シナリオの自動化を全社的に推進する方針だ。

中外製薬が描く「ＤＸ2030の絵姿」は、デジタルを活用した革新的新薬の創出と並んで、すべてのバリューチェーンの効率化を柱に掲げている。効率化は、研究開発（後期開発）、生産部門、営業・マーケティング部門のいずれも生産性向上を目的とした「定型業務の自動化」を求め、これを実行するための活動計画や社内のコミットメントが重要になってきた。

◎18年から3年間で7.7万時間以上の業務時間削減

CHUGAI RPAは、2018年CFO直轄の全社プロジェクトとして始動し、20年までの3年間で7.7万時間以上の業務時間を削減。113の業務シナリオを自動化し、無人ロボットの稼働時間は4715時間／月（約27人分・稼働率80％）におよぶ。この間に同社は、RPA社内認定制度を発足させるなど、社内での市民権を確立できたという。ただ、部門間で活用に濃淡があるほか、効果を実感できている従業員が限定的であるなどの課題も浮かび上がっていた。

◎コロナ禍でデジタル化が推進　RPA推進活動を再スタート

一方で20年はコロナ禍でテレワークが推進され、電子署名など業務のデジタル化も進むなどRPAに追い風が吹く。このため21年から推進活動を再スタートさせ、21年は5万時間の業務削減時間の創出をKPIとして設定した。181件のテーマでRPA開発着手を計画だ。新たに年間4.3万時間以上の削減時間創出が可能として、一人当たり約6.５時間／年の時間創出が可能と見込む。RPA認定資格者（4月に34人）も年末には約120人まで増強する方針も示した。

◎社内のコミットメントを強化　ベストプラクティスの共有なども

さらに2023年には、「RPA×ＡＩ」によって業務変革が当たり前のように行われ、10万時間の業務削減時間が創出可能な活動へと進化させたい考え。これらを実行するため、全ての本部長・コーポレート基本組織長の参画と業務効率化へのコミットメント強化するほか、各部門の取り組み状況やベストプラクティスの共有による価値最大化にも努める方針だ。

◎会社全体で経営にどうヒットさせるか

志済聡子執行役員・デジタル・ＩＴ統轄部門長は、「各部門で何時間削減という目標をたてて、これに部門長がコミットする形で進めている。最終的には、会社全体で経営にどうヒットさせるかということになる」と強調。具体的な成果指標や経営的なインパクトについては、「各部門の具体的な成果指標が出揃ったところ段階で、大きな目標として設定することになるのではないか」と見通した。

◎「Chugai Digital Academy」（CDA）第1期スタート　年内に第2期、第3期も開始へ

中西義人デジタル戦略推進部長は、デジタル人財を育成・獲得する仕組みとして発足した「Chugai Digital Academy」（CDA）を紹介した。デジタル・プロジェクト・リーダーになる前のJr. エキスパートクラスへの引き上げや、データサイエンティスト(高度解析・統計型)の育成を目指し、OJTを含めて学ぶ機会を提供する。第1期が4月からスタートしており、年内に第2期（7月中）、第3期（10月）もスタートさせる予定だ。さらに、社内で蓄積した「製薬×デジタル」ナレッジを、学生を中心とした次世代人財に積極的にも提供することにしており、社会還元を通じた中外製薬のブランド・採用力強化を図る狙いも込めている。