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有識者検討会 薬剤費の予算統制で財務・厚労OBが火花 “GDP伸び率+α”で合意は「現実に考えられない」

公開日時 2022/10/28 07:03
厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(座長:遠藤久夫・学習院大経済学部教授)は10月27日、シンクタンクからヒアリングを行った。新薬のイノベーションを評価する方向性については一致したものの、マクロな観点からの予算統制的な考え方の是非をめぐり、激しい論戦が繰り広げられた。厚労省OBである香取照幸構成員(上智大総合人間学部社会福祉学科教授)は「(薬剤費の)事前合意の成長率が“GDP伸び率+α”で合意できるということは、ほぼ現実に考えられない」と指摘。一方で、財務省OBでINESの理事を務める小黒一正構成員(法政大経済学部教授)は、日本の経済状況の厳しさから、「社会保障も、もはや聖域ではない形になる可能性は、これは脅しではないが可能性はあると思う」と述べ、マクロ的アプローチ導入の必要性を指摘した。

◎INES 「マクロ的アプローチ(成長率調整メカニズム)」を提案 財政規律と実効性

INESは、市場拡大再算定の廃止などイノベーションを評価する(ミクロ的アプローチ)とともに、GDPを指標に長期的な経済成長率に見合った薬剤費を担保する「マクロ的アプローチ(成長率調整メカニズム)」の両面からのアプローチを提案している。今年4月に開かれた財務省の財政制度等審議会ではINES案を引き合いに、薬剤費総額に対するマクロ経済スライド制度の導入を提案。「薬剤費総額に係る事前の財政規律の導入とその実効性を担保する具体的な仕組みづくりが実現しない場合には、市場拡大再算定を始めとする現行の薬価改定ルールに基づく適正化の徹底を図っていくより他はない」としている。

INESの朝井淳太代表は、は、「医療費や薬剤費は価格を政府が統制していても数量が伸びれば薬剤費等の総額をコントロールできない可能性がある。財務省が一番欲しいのは、この不確実性を排除する何らかのメカニズム、つまり予算の範囲内に全部が収まる仕組みということだ」との見解を表明。そのうえで、「この問題はINESが提案する成長率調整メカニズムを導入すれば解決する。薬剤費が今後横ばいかマイナス成長になる可能性があるなかで、“仮に薬剤費が若干伸びても、財政的な不確実性が排除できれば構わない”というメッセージを財務省が出してきたと我々は理解している。このようなボールを厚労省や業界に投げたことは大きい。このメッセージに応える必要性があると考えている」と強調した。

◎小黒構成員 INES提案「それなりの覚悟のなかで意思決定して出している」

財務省OBでINESの理事を務める小黒一正構成員(法政大経済学部教授)は、「私が元々財務省にいたからというのもあるが、財務省は非常に厳しい役所で、そう簡単には何でも認めるものでもない。そのなかで、INESの提案を述べているということは、それなりの覚悟のなかで意思決定して出しているということになるだろうと思う」と述べた。そのうえで、日本の経済状況に触れ、「おそらく社会保障ももはや聖域ではない形になる可能性は、これは脅しではないですが、可能性はあると思う。そういうことを考えて、財務省が相当厳しい形で今後臨んでくるというようなスタンスを出している」と説明した。また、AMRを引き合いに医療上必要性が高く、予算規模が小さくても財源確保が難しい現状を説明したうえで、「例えば1%の成長率で薬剤費が伸びることを認めていれば、要は1000億円の新しい財源を捻出できることになる」と話した。

◎くすり未来塾・武田共同代表 “財政規律”の認識の違いを指摘

一方で、厚労省OBの薬価流通政策研究会・くすり未来塾の武田俊彦共同代表は、INESの提案について、“財政規律”の認識の違いを指摘。医療費は短期的な変動もあることから、「財政規律は歳入と歳出のバランスが念頭にあるが、当初想定されていなかったことについては、補正予算が編成される。医療の財源については必ず補正で手当をするということが制度上認められている」と説明した。

◎香取構成員 GDP範囲内まで成長率認める財務の主張「とてもそうだとは思えない」 


香取構成員は、マクロ的アプローチとミクロ的アプローチの「2つの提案は両立しないような気がする」と指摘した。

その理由として、OECD諸国は医療費がGDPを上回り成長しているが、「財務省は明確にGDPの範囲内に医療費を収めると、いう方針は出しているし、財政規律もその前提で予算統制を考えていることになる」と指摘。イノベーションを評価する方向での薬価制度改革を積み上げた際にGDPの範囲内に収まるかも「若干疑問」としたうえで、「仮にGDPの枠内に収まったとしても医療費全体を、GDPの範囲内に収めるという大方針の財務省の政策がある限りは、事前合意で成長率を決めるというが、この事前合意の成長率が“GDP伸び率+α”で合意できるということは、ほぼ現実に考えられない」と指摘した。「いまもそうだが、医薬品から削った分のお金は医薬品には返ってきていないし、いまや医療費すら返ってきていない。そういう現実を考えると、GDPの範囲内までであれば薬剤費の成長を認めるので、一定その範囲を認めているという趣旨だと財務省の提案を解釈されているが、私にはとてもそのようだとは思えない」と述べた。

「GDPに収めるということ自体かなり無理筋なことをやっていて、その最後のつけ回しが薬価にきているという、そういう全体の医療費抑制政策の構造のなかで、この提案をはめたときに、どういうメッセージになるかということが私は気になる」と指摘した。「薬価の問題を薬価だけで考えるとやっぱり駄目で、医療費全体のパイをどう考えるか、さらに言えば、負担の問題をどう考えるかだ」との考えも示した。

◎INES・梅田理事長 厳しい選択肢の中で「いかに新薬を育てるか」を提案

INESの梅田一郎理事長(元ファイザー社長)は、「実際のところ、日本はどうかと見てみれば、低い経済成長をさらに下回って医薬品の市場というのは現在ゼロからマイナスになろうとしている。これから先の見通しも非常に厳しいという状況にある」と、予算統制を行っていなくても厳しい現状であると説明した。「GDP以上に医療費そのものも伸びており、診療報酬でも大変厳しい議論がされている。医療費全体が議論されれば、薬価のここの部分を他のところで抑えられるだろうか、という議論もなかなか実際には厳しいものがあるのではないかと思う」と指摘。「現在の日本の高齢化や国の財政赤字のことを考えたときに、一つのアイデアとして、GDPやそこからで得られる税収ということを考えざるを得ないだろうというのがあり、このような提言になっている。諸外国と全く同じ状況にあるとは言えない。厳しい選択肢のなかで、いかに新薬を育てていけるかという難しい議論をしなければいけなくなっているということをご理解いただけたらと思う」と述べた。

また、「フランスでもヨーロッパのどの国でも、予算統制的な全体的な議論はある。日本において、“ミクロのところのこれをやめてください”という議論でも、全体感はどれぐらいの規模感なのか、という議論なしに来ていることが、予見性がないと言われているということに対して、企業側も、あるいは業界団体も受け止めて、自分たちの提言を出していく必要があると思っている」との考えを示した。INES提案では規模感の指標として、GDPを用いているが、「あくまで“鍋に蓋をする”ということではなくて、鍋を何とか支えたい。鍋の若干の成長を担保したいというのが提言の趣旨だ」と述べた。

◎菅原構成員 日本の医療の姿、薬剤費の姿で共通見解を

菅原琢磨構成員(法政大経済学部教授)は、2030年以降は医療費も低下傾向であると見通したうえで、「医療事業そのものが既にダウントレンドに入り始めているという現状を考えると、これまでのように一律に医療費がこれから伸びて、そのなかで薬剤費も伸び続けるという前提も少し怪しい」と指摘。「これから先の日本の医療の姿、あるいは薬剤費の姿をきちんと共通見解として持たなければいけない。どういった割合で薬剤費が伸びていくのかについては、きちんと事務局を含めて、皆さんとコンセンサスを得た方がいいのではないか」との見解を表明した。
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