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【FOCUS 小林化工問題はなぜ起こったのか(下) “安定供給”という名の裏側に潜む営利主義】

公開日時 2021/02/24 04:53
◎小林社長のルーツ 大手内資系製薬企業のMRとしてキャリアスタート

小林社長は薬学部を卒業後、大手内資系製薬企業のMRとしてキャリアをスタートさせた。MRとして大学病院を担当していたこともある。JAPIC NEWS(日本医薬情報センターJAPIC・20年11月発行)への寄稿(巻頭言「経営者としての歩み」)において、当時、小林社長自身の思い描く薬剤師としての知識を活かした情報提供ができないもどかしさを感じていたことに触れている。(望月英梨)

その後、94年8月に小林化工に入社。「当時の薬効再評価でトップ製品だった注射剤を含む2製品が薬価削除され、利益が出ない状態に陥り、(小林化工の)経営が一気に厳しくなった」ことを振り返っている。自身が経営トップに立つタイミングで発覚した薬価削除を上回るような問題に、こうした経験は影響していなかっただろうか。

◎16年の化血研・業務停止命令 改善するチャンスはあった


社長就任後にも、改善するチャンスはあった。16年には化血研が血漿分画製剤を承認書と異なる方法で製造したとして、110日間の業務停止命令を受けた。厚労省は、医薬品の製造販売承認申請書と実際の整合性について点検を求めている。調査の結果、医薬品の品質や安全性に影響を与えるような事前承認が必要な相違はなかったものの、軽微変更届などが必要な相違は、全品目の7割に当たる2万2297品目(479社)に見つかっている。

小林化工もこの時点で点検は行ったというが、「責任者で話し合って、表向きは軽微な齟齬だけを報告した。私にも軽微な報告はあったが、そのほかの齟齬は報告が上がっていなかった。それまでに相当な品目の承認整理をしてきたが、大きな齟齬はないという認識を当時はあった」と話す。

製造販売業者はこのとき、委託先に調査を依頼し、誓約書で担保をとるなど対応を進めたという。しかし、小林化工の不正に気づいた企業はなかった。ビジネス上の観点から、製造記録などを直接確認するのは難しく、あくまで性善説に立って信用せざるを得ない現状もあると聞く。

厚労省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課は小林化工問題を踏まえて通知を発出し、製造販売業者に対して「製造業者に対する管理監督を徹底し、緊密な連携を図ること」を周知した。今後は製造販売業者の責務も一つのポイントとなりそうだ。

◎社長就任以降 工場に入らずガバナンスが不足していた

小林化工は問題発覚当初、従業員の「ヒューマンエラー」との苦しい言い訳を繰り返した。責任を現場に押しつける姿勢の一端がうかがえる言葉でもある。GMPの三原則には、「人為的な誤りを最小限にすること」が明記されている。人為的なミスはゼロにすることはできない。GMP遵守のための体制整備や人員体制の確保、従業員への教育などは、社長をはじめとした経営陣の責務だ。

小林社長は会見で、社長就任以降、「経営の方や対外的な部分、財務管理、将来的なストラテジーを行っていて工場に入っていなかった。ガバナンスは不足していた」と反省の弁を述べた。処分のきっかけとなったイトラコナゾールに睡眠薬が混入した問題が発覚して以降も、小林社長をはじめ経営陣が現場となった工場を確認していないことも指摘されている。

「近年、後発医薬品の需要が急激に伸長した結果、増産体制を構築する過程で、作業量が急増し、現場においては製品の供給に支障を来さないように、法令やルールよりも作業効率を優先させてしまった」、「各部門の社員が日々の業務に追われ、会社が社員に対して十分な法令遵守の教育や訓練を実施することなく、現場では出荷に間に合わせるための対応がなかば常態化していた」―。小林社長は会見でこう話した。しかし、2時間に及ぶ謝罪会見で、経営陣自らが率先して、法律遵守などの教育の再徹底に取り組む、との発言が最後まで聞かれなかったことは、残念だとしか言いようがない。

◎いまこそガバナンスとコンプライアンスを問い直すべき


日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)は小林化工に「除名」という最も重い処分を下した。ポスト80%時代に入り、ジェネリックの社会的責務が増すなかで、業界に与えた影響は計り知れない。小林社長が安易に発した“安定供給”という言葉に製薬業界からは怒りの声があがる。

今回の問題は、後発品80%の使用促進の流れをビジネスチャンスとして捉えた企業がその成長と裏腹に起こしたものだ。ただ、問題の根底には、経営トップのガバナンスとコンプライアンスの欠如がある。実際、化血研が処分を受けた16年以降も、17年には原薬メーカーの山本化学工業(和歌山県)が承認書と異なる製造実態でアセトアミノフェンを製造していたとして22日間の業務停止命令を受けた。19年には協和発酵バイオが承認書と製造実態の相違で、18日間の業務停止命令を受けている。

共通するのは、“品質さえよければいい”、“最終製品に問題がなければ大丈夫”、“健康被害はないのだから問題ない”。そんな意識が根底に見え隠れすることだ。ガバナンスとコンプライアンスの重要性は指摘されて久しい。しかし、規制を守ることだけを目的にしてしまうと、“なぜ規制を守る必要があるのか”という本質を見失ってしまう。規制の抜け穴を見つけることが、ビジネスチャンスにつながってしまうことも少なくないからだ。

今回の問題は、本来ガバナンスを司る総責自体がその判断を誤るという、製薬企業の信頼を根幹から揺るがす問題を突き付けた。責任や意志決定を一人が負うリスクも浮き彫りになった。責任を分散させ、専門性を活かして率直に課題を話せるような風通しの良い社内風土を根付かせることが必要だ。

昨今では医薬品卸の談合や、贈賄罪による社員起訴、医薬品の安定供給をめぐっては自主回収の頻発など、医療界に対する不信感が強まる事案も多い。“見つからなければ大丈夫”という意識は、本当にないか。小林化工を他山の石として、ガバナンスとコンプライアンスを自らの問題として、いまこそ問い直すべきだ。(了)



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