国内製薬企業各社は1月5日までに経営トップの年頭所感を発表し、研究開発型の専業大手・準大手では、市場の変化や制度の見直しで新薬なしに持続的な成長が望めなくなったことから、新薬創出に強い決意を示す内容が目立った。また、労働環境が社会問題化する中、働き方改革に言及する企業もあった。
【武田薬品】クリストフ・ウェバー社長は、研究開発や人材育成、事業成長などからなる「戦略ロードマップ」に沿って「2017年も持続的な成長に向けた変革を進め、常に患者さんを中心に考えるより優れた組織の構築を目指したい」と表明。優先事項の一つにパイプラインの強化を挙げ「研究開発組織の変革を進め、『オンコロジー』『消化器系疾患』『中枢神経系疾患』の3つの重点疾患領域をさらに強化し、グローバルにおける製薬業界のリーディングカンパニーとして、真に革新的な新薬の創出を目指す」と強調した。「革新的な新薬を適切な方法で患者さんにお届けし、社会からの信頼を高めること」も優先事項に挙げた。
最優先事項に掲げたのが「タケダを素晴らしい職場にすること」。「従業員が毎朝出社を楽しみにするような職場にする」とし、人材育成、ダイバーシティなどに取り組み、働きやすい職場づくりに「最も注力したい」との姿勢を示した。
【アステラス製薬】畑中好彦社長は、「イノベーションの価値と医薬品アクセスの問題について、世界中で議論が繰り広げられ、私たち自身の対応が問われている」との認識を示したうえで、「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変えるために、努力を惜しまない」と表明した。
新薬創出に向け海外企業との提携を進めてきたことを挙げ、今後強化するがん領域については「後期開発品を有するGanymed社の買収を12月に完了した。これらにより、今後のアステラスのがん領域の更なる成長、新たな疾患領域や新技術における発展が期待できる」とした。
【第一三共】中山讓治社長は、戦略目標の1つに「日本No.1カンパニーとしての成長」を掲げ、新薬のほかジェネリック医薬品、ワクチン、OTCの4つの事業を通じて「予防、セルフメディケーション、治療までの、地域包括ケアの時代に即した幅広いニーズに応えられる」ように取り組むと表明した。
10年後のコア事業とするがん領域では、有望な開発品に資源を集中的に投入するとした。併せて、疼痛、中枢神経系疾患、心不全・腎障害、希少疾患を次世代領域と位置付け「核酸医薬、細胞治療、がん治療ウイルスなど、積極的にアカデミアやバイオベンチャーとの提携を進め、研究開発を加速する。優れたサイエンスによって標準治療を変革する先進的な医薬品を継続的に創製する」との決意を示した。
【エーザイ】内藤晴夫CEOは、「当社がフロントランナーとなり得る『立地』をしっかりと踏みしめ、最重点領域としている神経およびがん領域において、イノベーションの大卵を生み出したい」と表明した。神経領域では、アルツハイマー病の次世代治療薬の開発に「より一層注力していく。特に、BACE阻害剤E2609について「2020年度以降の早い時期の承認取得に向けて、グローバル臨床第3相試験(MISSION AD)を着実に前進させる」とした。がん領域では、戦略品のレンビマ、ハラヴェンと抗PD-1 抗体の併用療法などの重点プログラムを加速していく考えを明らかにした。
【中外製薬】永山治会長兼CEOは、「医療費抑制とイノベーションに対する評価の両立は、今や世界共通の課題」と指摘。「イノベーションで世界の医療と人々の健康への貢献を目指す立場として、その意義を社会に伝える努力を続けることへの責任を改めて認識した」と述べた。
2017年は、血友病A治療薬エミシズマブ、抗PD-L1抗体アテゾリズマブを最優先に集中投資すると表明。研究面では、抗体改変プロジェクト、次世代のコア技術と位置付ける中分子創薬技術の確立を進めるとした。
【田辺三菱製薬】三津家正之社長は、薬価制度の抜本的改革論議がスタートすることなどにより「業界として未来が見通しにくくなっている」との認識を示した。国際的には「保険財政の維持とイノベーションの価値のバランスがより強く求められるだろう」と指摘した。
将来が予測しがたい中では、立ち止まったり、従来のやり方に戻りがちだが、変化を先取りして「進む」ことが必要だとし、そのためには「枠を超える必要がある」とした。「思考の枠」とともに「アカデミアや業界を超えた連携により『行動の枠』を超えていくことに挑戦していきたい」と表明した。
【塩野義製薬】手代木功社長は、薬価制度の抜本改革論議など「大きな変化は偶然ではなく必然で起こっていること」と指摘。「成長につなげるために、周りよりも半歩、一歩先んじて、環境にしなやかに対応することの大切さを今年のテーマのひとつとしたい」と、呼びかけた。
その上で「新製品を次々に出し続け、効率的に早期の立ち上げと大きなピークセールスを達成することこそが創薬型製薬企業である」と強調。「そして何よりも、出来る限りリーズナブルな価格でイノべーティブな薬をお届けすることで『社会とともに』成長し続ける」との姿勢で臨むことを表明した。
【大日本住友製薬】多田正世社長は、2017年度が第3期中期経営計画の最終年度であり、第4期中計を策定する年でもあるとして、陸上のリレーになぞらえ「最も集中力を要する『バトンゾーン』のような年」と表現した。2017年度は「グループを挙げて取り組んできた多くのプロジェクトが具体化し、事業構造転換へのシナリオが明確に見えてくる年になる」とした。
同社の業績を支える抗精神病薬ラツーダのパテントクリフ対策にも触れ、がん幹細胞に作用するとされるナパブカシン、パーキンソン病治療薬「APL-130277」、ADHD治療薬dasotraline、COPD治療薬「SUN-101」などの開発の進展、新たな買収した事業によって「2020年度以降には成長路線に回帰できる目途がほぼ立ったと考えている」との認識を示した。
また、2017年を「働き方改革元年」にすると表明した。「自らの仕事や会議の効率を高め、メリハリの働き方をすることで生み出した時間を自分や家族、社会のために充てていただきたい」と呼びかけ、社としても支援する考えを示した。
日薬連、製薬協 薬価制度改革に積極参画 医薬品の価値の適切評価目指す
日本製薬団体連合会の多田正世会長は年頭所感で、「個々の『医薬品の価値』を適切に評価することができる薬価制度の確立は、業界を支える生命線」と強調し、「抜本改革の論議には積極的に参画していく」と表明した。革新的新薬を世界に先掲げて創出し、患者のアクセス阻害・遅延をさせることがない制度、新薬創出加算の制度化、特例拡大再算定の廃止等を課題に挙げた。
日本製薬工業協会の畑中好彦会長も薬価制度改革に触れ、「『国民皆保険制度の持続』の観点を踏まえ、薬価制度の抜本改革に向けた議論に前向きに参画、協力していく」との姿勢を示した。その中では「イノベーションが適切に評価される仕組みづくりに向けた提言を行っていく」とした。
卸連 医療を支える存在であり続ける
日本医薬品卸売業連合会の鈴木賢会長は年頭所感で、毎年薬価改定は「流通改善に逆行し、医薬品の安定供給に支障を生じかねない」として断固反対であると改めて表明。その上で、日常の医療のみならず、災害時にも途切れない流通を担っていることを強調し、「私たちは日本の医療を支える存在であることを誇りに思い、医薬品の安定供給と公的医療保険制度の適正運用に協力して参ることに今後も変わりはない」とした。
市場環境の変化に伴う卸売業のあり方にも触れ「ジェネリック医薬品80%を迎える日本においても、利益構造が変化してくることに伴い、医薬品卸とのビジネスモデル、競争モデル、役割が変化してきているのではないかと感じている」との認識を示した。