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バイエル薬品・イグザレルト問題 厚労省に事実と反する報告 2013年時点で臨床研究と認識

公開日時 2017/05/15 03:52

MRによるカルテの不適切な閲覧に端を発したバイエル薬品の抗凝固薬・イグザレルトの患者調査について、同社は2013年時点で「患者調査ではなく、医師個人が実施した臨床研究に基づいたもの」と位置付け、競合メーカーによる当該データの苦情申し立てに回答していたことが明らかになった。バイエル薬品は問題発覚後の4月10日にホームページ上に、「本調査は嗜好に関するアンケート調査であり、臨床研究ではありません」と発表している。この問題で調査報告を求めた厚労省にも事実に反する説明を行ったことになる。

「1日1回1錠は心房細動患者に好まれる服薬方法で、良好な服薬アドヒアランスが期待できます」-。2013年1月作成の同社の製品パンフレットには、今回争点となっている宮崎県内の診療所・えとう循環器科・内科で実施した患者調査の結果をこう紹介している。さらに、この結果を踏まえて、「以下のような患者さんから、イグザレルトの適用をご検討ください」として、▽従来患者で、PT-INRが変動しやすい患者さん、▽新規に抗凝固療法を開始する患者さん、▽1日1回1錠が適した患者さん―をあげている。


◎苦情申し立てに伴う当事者間の協議 データは「医師個人の見解」と主張



この製品パンフレットと、元となった患者調査の論文をめぐり、当該製品の競合薬を販売する日本ベーリンガーインゲルハイムは、「看過できない表現がある」として、日本製薬工業協会(製薬協)に苦情申し立てを行い、2013年第一四半期に当該2社間で協議を行っていたことが明らかになった。2社間では、この間に数回にわたるやり取りがある。苦情申し立てを受けたバイエル薬品は、製品パンフレットの文言について修正を認めたものの、患者調査については、「アンケート調査ではない」と明確に否定。「医師個人が実施した臨床研究に基づき、個人の見解がまとめられている」として、企業の関与を否定し、論文の取下げを医師に要請することなどを拒否していた。


問題となっている論文では、「ワルファリン服用例では出血事象が顕著であったが、ダビガトラン服用例では出血事象に加え、「胸焼けが起こる」、「胃腸の症状が起こる(痛い、熱い、むかむかする)」など、いわゆる消化不良(dyspepsia)を訴える患者がみられ、むしろ、出血事象を気にする患者も多かった」などと記されている。本誌が入手した患者の嗜好性をたずねたアンケート調査の調査票からは、この結論を導き出すことは難しい。苦情申し立てを行った競合メーカーからは、競合薬の誹謗中傷ともとれる文言が散見される。


医師の見解による“臨床研究”であれば、他社の誹謗中傷には該当しない。しかし、本誌既報の通り、当該調査は、当時のプロダクトマネージャー(現・メディカルアフェアーズ)が調査票の作成から論文の執筆まで各段階に深く関わっているとすれば、「医師個人が実施した臨床研究に基づく」という競合メーカーへの回答そのものに疑念が生じる。一方で、同社の関与が明らかとなっている現在、“臨床研究”に位置づければ、疫学研究に該当し、疫学研究に関する倫理指針(現・臨床研究に関する倫理指針)に抵触することになる。こうした中で、同社広報部は、当時の指針に照らし合わせ、「弊社が認識している臨床研究とは異なる」と回答しており、こうした姿勢に疑問を示す声もあがっている。

また競合メーカーへの苦情申し立てについては、通常マーケティング部、メディカルアフェアーズ本部、営業本部で確認を行った上で回答される。当時から現在まで当該部署に在職している社員も複数名おり、企業としてもこうした状況を把握しているものとみられる。


◎2012年2月22日付の製薬協通知の解釈が争点に



一方で、アンケート調査であるとすれば、2010年2月22日付で製薬協が発出した「自社医薬品の有効性・安全性のアンケート調査結果の紹介について」に照らし、製薬協を含めて業界内からプロモーションコード違反を指摘する声が強まっている(本誌既報、記事はこちら)。


通知では、アンケート調査の結果を製品パンフレットなどで紹介することについて、一般論として、「科学性、客観性、信頼性が担保されていない」、「有効性に偏っている」、「安全性を調査していない」、「結果を誘導する質問内容」、「他社品との差別化を強調した質問」等を指摘する声があることを説明。「自社医薬品の有効性・安全性に関するアンケート調査結果で、医療用医薬品製品情報概要記載要領に抵触するものは、プロモーション媒体として紹介しないようお願い致します」としている。

これに対しバイエル薬品は、「実際に製剤を服薬されている患 者様への聞き取り調査により、服薬に関する嗜好を確認する目的で行った調査」としており、有効性・安全性に該当しないと主張し、疫学研究の指針やプロモーションコードのいずれにも抵触していないとの立場を示している。


◎論文データ掲載の製品情報概要、記事広告などを4月24日付で回収指示


このほか、2013年1月~14年2月までの製品情報概要11編、13~14年に医学専門誌メディカルトリビューンや同社の自社媒体に掲載された記事広告10編について、同社が4月24日付でMRに対して回収を指示したことも明らかになった。2016年1月の論文撤回後も、社内では資材回収などのアナウンスはなされておらず、論文撤回後も、“1日1回1錠”を訴求する資材として活用していた可能性も高まっている。
 

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