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国内治験環境に深まる危機感 近隣アジア台頭で問われる日本の存在

公開日時 2010/03/12 04:01

日本製薬工業協会が3月11日に都内で開いた政策セミナー「わが国の創薬基盤を考える―治験・臨床研究の活性化に向けて―」で、登壇した識者からは相次いで日本の治験環境に対する危機感が表明された。成長著しい中国、国際共同治験の実績を重ねる韓国など近隣アジア新興国の台頭で、治験実施国としての日本の存在が問われた形。セミナーでは、新薬を生み出す国として日本がどうリーダーシップを発揮していくていくかが模索された。

近年、産学官挙げての対策もあって、一時400件を割った日本の治験届出数は07年530件まで回復した。一方で、治験症例数の確保が必要になり、市場の国際化も進んだこともあって、国際共同治験、アジア共同治験の必要性が強まった。しかし、共同治験への日本の製薬企業の参加の遅れ、コスト高などから実施の場になりにくい問題も明らかになっている。それは、日本での新薬の上市が遅れる「ドラッグ・ラグ」につながりかねず、対策が迫られている。

11日のセミナーでは、国立病院機構大阪医療センターの楠岡英雄院長は、治験数や国際共同治験が増えてきている成果は認めつつも、国際共同治験実施施設数ランキングでは韓国は27位、中国は28位に対し日本は34位と遅れをとっていることを紹介。臨床研究の論文数、他国研究者との論文共著数、論文の被引用数でも中国に抜かれたことをなどを挙げ、治験、臨床研究におけるグローバル化への対応の歩みの遅さを指摘した。

それに加えて、創薬力はあるとされている日本でも、新薬候補を見つける基礎研究者を行う人材が減少傾向にあることを指摘したのが、浜松医科大学医学部の渡邉裕司教授(臨床薬理学)。開発品目数が国際的にも日本は減少しているというデータもある中で、新薬候補を見つける研究者が消えることこそ「真の空洞化」だとし「これは由々しき事態」と強い危機意識を表明した。同教授は、医学部学生や医師への臨床試験・研究の意義の浸透や研究所の流出阻止など中長期的対策の必要性を訴えた。

一方で、治験活性化の方向性にも触れた。中国や韓国に見られるようなコストやスピード、患者の集積性の高さなど効率性を追求するだけでなく、「日本が持つ医療環境の特長を最大限活用し、付加価値の高い臨床試験」の実施を担保する施策が必要だと強調した。CTやMRI、PETなど高度医療機器が揃っていることや、質の高い実施体制を生かす臨床研究・試験を行い、対外的に開発力をアピールしていくことが必要だとした。

それらに対し厚生労働省医政局研究開発振興課の佐藤岳幸治験推進室長は、対策の見直しを進めていることを説明した。これまでの開発後期の治験実施体制整備から、早期段階の治験、POC試験などの臨床研究、トランスレーショナルリサーチ実施体制へ対策の重点をシフトさせ、世界水準の効率化と質を兼ね備えた実施環境の整備を目指す考えを示した。

武田薬品の中岡一郎日本開発センター所長は、日本が医薬品開発でリードできる可能性を示した。国際(アジア)共同治験への流れは避けられないとして、日本の製薬企業は、自らプロトコルを策定し、実施する「日本主導によるアジア治験の最大活用」が、進むべき道であると主張した。同社は、グローバルチームを立ち上げると共にアジア拠点を設立、アジア共同治験を積極的に推進し、日本での「世界最速承認」、アジア各国への承認の拡大を目指す方針という。

ただし、事前にアジア治験データがどの程度当局に受け入れられるのか、当該疾患の民族差、当該国の治験実施体制について事前調査が必須とし、成功には、日本当局との相談、学会による助言、医療機関の国際化対応など産学官医を挙げた連携した取り組みがカギになると強調した。

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