ロシュの分子標的抗がん剤Zelboraf（ベムラフェニブ）とファイザーのXalkori　（クリゾチニブ）は、薬剤に適正に反応を示す患者を確認するコンパニオン診断薬（CoDx）と同時承認され、相次ぐ次世代個別化医療の第1波として迎えられた。しかし、薬事承認は獲得したものの、初年度の売上からは、市場での商業的な成功の難しさが示唆される。

Zelborafは申請から3.6カ月、Xalkoriは5カ月以内で承認を取得した。両剤とも標準治療よりも生存期間を延長することが示されたことから、高薬価にもかかわらず、患者、医師、保険支払者から歓迎された。


転移メラノーマ治療薬であるZelborafは、V600 BRAF遺伝子変異のある患者、非小細胞肺がん（NSCLC）薬治療薬であるXalkoriは、EML4-ALK遺伝子変異のある患者でのみと、投与が限定された。早期に適切な患者に薬剤を投与することで、ベネフィットを最大化し副作用を最小化する上で、バイオマーカーを基づいた、個別化医療の先行事例として捉えられている。


すでに市場にある、バイオマーカーに基づいた個別化医療が実践されている薬剤としては、ノバルティスのフィラデルフィア染色体陽性の慢性骨髄性白血病治療薬Gleevec（イマチニブ）とロシュ/ジェネンテックのHER2遺伝子陽性乳がんのHerceptin（トラスツズマブ）がある。


一方で、有効性を発揮し、投与可能な患者は限られていることから、商業化をめぐっては、課題も多い。ZelborafとXalkoriの上市は、この状況に挑戦したもので、個別化医療薬剤をめぐり、投資の回収には数年かかることになる。


しかし、製薬企業は、バイオマーカーに基づき、患者を限定した場合の費用対効果について試算を行い、全ての患者を対象とした場合よりも、患者を特定することによる商業的なベネフィットが上回るとしている。


その利点のいくつかは、特別な薬価の設定が可能な点によるものだ。月間の薬価は、Zelborafが9400ドル、Xalkoriが9600ドル。これを基に試算すると、上市後2～3年で売上は数十万ドルに達することになる。


イーライリリーの費用対効果分析でも、従来のブロックバスターモデルと個別化医療モデルを比較すると、個別化医療のほうが同一価格でも高い売上を生むことができ、十分な市場シェアを獲得できると報告されている。


しかし、Zelboraf、Xalkoriともに、バイオマーカーに基づく個別化医療を実践していない、他の抗がん剤よりも発売6カ月の売上は低調だ。Zelborafの売上は上半期で9600万ドル、ファイザーはXalkoriの売上をまだ公表していないが、売上への大きな貢献はしていない模様だ。


この両剤に比べて、ジョンソン・エンド・ジョンソン（J&J）の転移去勢抵抗性前立腺がん治療薬Zytiga（abiraterone: 2011 年5月承認）の売上は最初の6カ月で4億3200万ドル。ブリストル・マイヤーズ　スクイブ（BMS）の転移メラノーマ治療薬Yervoy （ipilimumab）は、Zelborafに先立つ2011年3月承認で、2012年上半期にはZelborafの約3倍、3億1600万ドルを売り上げた。同剤は、バイオマーカーに基づく、患者選択を求めていない薬剤だ。

ファイザーのIan　Read　CEOは、7月31日の第2四半期業績発表の席上、Xalkoriの発売は予想以上に多くの課題に直面したことを認めた。その上で、「我々は、医師にEML4-ALK遺伝子変異検査を実施してもらう必要がある。検査の浸透が予想以上に進んでいない」と話している。

両剤の予想以上に遅い医療現場での採用は、CoDxに密接にリンクした個別化医療が明らかな商業的リスクに直面していることを示唆している。


（The　Pink　Sheet　9月10日号より）