【World Topics】1日2リットルの水
公開日時 2015/10/05 03:50
米国でほぼ誰もが信じて疑わない健康法は「水を飲むこと」だ。「 1日にグラス8杯は飲みなさい」というのが定説。米国のグラス1杯は250ccであるから、1日に必要な水分は最低2リットルということになる。(医療ジャーナリスト 西村由美子)
だが、2リットルの水を飲むというのは実際にはなかなか大変だ。しかもアルコールやコーヒーは水分接種にならないどころか、逆に脱水症状を加速すると言うのも、また定説。したがい、これらはカウントできないとなると、2リットルの摂取はなお困難となり、時に悩ましく、ストレスにもなる。
この、米国ではすでに常識と化した定説を否定し「1日2リットル水を飲めというのは健康にかかわる『神話』のようなもの、何ら科学的根拠はない」と断定するのは、インディアナ大学医学部教授(小児科)のAaron E. Carroll博士だ。
http://www.nytimes.com/2015/08/25/upshot/no-you-do-not-have-to-drink-8-glasses-of-water-a-day.html
Carroll博士は2007年の英国医学会雑誌に『医療神話(Medical Myth)』と題し、「いわゆる常識の根拠を問い直す 」 研究を発表している共著者の1人。「1日グラス8杯の水を飲め」という、あまねく信じられている常識は、その際にCarroll博士が共同研究者と検証した『医学神話』の筆頭項目であった。
http://www.bmj.com/content/335/7633/1288
検証の結果明らかになったのは「1日グラス8杯の水を飲め」にははっきりした科学的根拠となる出典がないこと。かろうじて原典と推測されたのは1945年にFDAから出された行政勧告「成人は1日2.5リットル程度の水分を摂取することがのぞましい」で、しかし、実際その勧告には、上述の下りに続いて、「必要とされる水分の大半は調理された食物に含まれている」と記述されているのだが、この後半部分を無視して、前段を切り取れば、まさに「1日2リットルの水を飲みなさい」になるというわけである。だが、英国医学会雑誌にCarroll博士等の研究が掲載されてから10年を経て、『神話』は一向に衰えを見せていない。