日本製薬団体連合会保険薬価研究委員会（薬価研）の加茂谷佳明委員長（塩野義製薬常務執行役員）は本誌取材に応じ、高額薬剤が議論となる中で、「特例拡大再算定に代表される単価を調整することで制度の維持を図っていくことは限界」と述べた。加茂谷委員長は、薬剤費のさらなる抑制や医薬品の適正使用に向けた流れが強まると見通した上で、４月に試行的導入される費用対効果評価とは別に、領域ごとに医薬品の経済性を加味した適正使用ガイドラインを策定する必要性について理解を示した。きょう13日に開かれる中医協総会では、脂質異常症治療薬のレパーサ（アステラス・アムジェン・バイオファーマ）の薬価収載も予定されており、高額薬剤をめぐる議論はさらに加速するとみられている。

16年度薬価改正では、年間販売額が極めて大きい品目の薬価を引き下げる「特例拡大再算定」が導入され、抗血小板薬・プラビックス錠（サノフィ）、C型肝炎治療薬・ソバルディ錠、ハーボニー配合錠（いずれもギリアド・サイエンシズ）、抗がん剤・アバスチン点滴静注用（中外製薬）の４成分６品目が対象となった。特に、C型肝炎治療薬は31.7％と大きな引下げを受けた。加茂谷委員長は、「新しい特例拡大再算定を阻止できなかったことについては、その責任の重さを痛感している。その一方で、医薬品の価値、イノベーションとは何かという新たな問題提起をいただいたのではないか」と述べた。


◎残薬や重複投与、大量処方の是正　適正使用推進を


加茂谷委員長は、「今後は薬価という領域だけでは、議論が完結しなくなるのではないか。具体的にどうするかはこれから詰めていかなければならない」とした上で、適正使用に向けた流れがさらに強まるとの見方を示した。16年度改定で湿布薬を１回あたり70枚までの処方上限を付けたことや残薬、重複投与についてメスが入り、４月４日の経済財政諮問会議でも、塩崎厚労相は「薬価の適正化、医薬品の適正使用の推進」を柱のひとつに掲げた。加茂谷委員長は、「まず必要な医薬品は処方されるべきということが大前提だが、残薬や重複投薬、あまりにも大量に処方されている薬剤から是正を図ることが必要になるのではないか」と述べた。

その上で、さらに疾患ごとでの適正使用推進策が必要になるのではとの考えを示した。現在でも、疾患ごとに診療ガイドラインは策定されているが、「経済性が考慮されているものは少ない」と指摘。「同じ効果を得るためにどの薬剤がよりベターなのかを経済性も含めて検討されるべき」と述べた。

すでにその流れのひとつとして、後発医薬品の使用促進が施策として実施されていると説明し、「同じ効果が期待できて単価がより安い。先発品から後発品に置き換わったのと同様に薬剤費の抑制、医療費全体の議論ができるのであれば、業界も参画していくべきだろう。後発医薬品の使用促進だけで、医療費の適正化が進まないということであれば、領域における議論も必要になる」と述べた。昨年財務省の財政制度等審議会で、ARBを例にとり生活習慣病市場が巨大化していることなどを踏まえ、「費用対効果の導入と並行して専門家の知見を集約し、速やかに処方ルールにかかわるガイドラインの明確化を図る」と提示されている。

加茂谷委員長は一方で、「適正化により削減された財源の一部はきちんと新薬の評価に回してほしい」ことも強調し、イノベーションの推進についても重点的な施策の実施を要望した。


◎安定供給の重要性強調　医薬品卸との関係性重視


そのほか、15年9月実施の薬価調査で平均かい離率が8.8％と 13年の8.2％から0.6%拡大したことについて、後発医薬品の使用促進に加え、「未妥結減算制度導入後に単品単価取引から総価取引が増えた」とことが要因との見方を示し、「卸とのかかわりを重視する必要がある。業界全体として危機感をもたなければならない」と述べた。新薬創出等加算品目が増加する中でかい離率が拡大することは「後発品、長期品及びいわゆるその他医薬品のところにも反射的な影響が出ているのではないか。そうだとすれば、安定供給という観点から危惧せざるを得ない」と危機感も示した。