製薬各社入社式 経営トップは「誠実」「チャレンジ」「自ら考え、学び続けること」求める
公開日時 2021/04/02 04:52
新年度の始まりにあわせて4月1日、製薬各社で入社式が行われた。各社の経営トップは入社式の挨拶で、高い倫理観をもって誠実に行動するよう求めるとともに、患者への共感を起点に自ら考え、学び続け、果敢にチャレンジしていくことを期待するとの内容が目立った。コロナ禍による様々な変化やデジタル技術の急速な進展、疾病予防への意識の高まりといった環境変化をしっかり捉え、創意工夫と挑戦を繰り返すことを期待するとの訓示も多くみられた。
なお、武田薬品は新人が1日に入社したが、入社式は4月5日に行う予定。
■世の中の変化を先取るために学び続けて
アステラス製薬の安川健司社長CEOは、「『学び続け、革新し続けること』を期待する」と話した。現在の市場環境について、対症療法しかなかった分野で再生医療をはじめとする根本療法が開発され始め、治療法は医薬品だけでなくアプリなどを用いたヘルスケアサービスにもおよび、疾病予防への意識も高まっていると説明した。そして、「このような目覚ましい進展を遂げる時代の中で、従来の常識に固執していては劇的な変化の波に淘汰されてしまう」と指摘し、「世の中の変化を先取るために学び続け、革新を遂げるために常に新しい可能性を探求してほしい」と呼びかけた。
また、「私たちのビジネスは結果が全てではない。患者さんへ価値を届けるためには、結果に至るまでのプロセスが信頼できるものでなくてはならない」と述べ、「『誠実であること』を念頭においてもらいたい」とも強調した。
第一三共の眞鍋淳社長は、「『世界中の患者さんに優れた医薬品を届け、病に苦しむ人たちを救う』ことの大切さを胸に刻み、それを担うことに大いに誇りを感じてもらいたい」と話した。社長自身が若い時に先輩から言われ、大切にしてきた言葉である「部下は上司に提案するために存在している。一方、それを聞けない上司はその任にない」を紹介した上で、「皆さんも良いアイディアがあれば臆することなくそれぞれの職場で提案・チャレンジしてほしい。お互いの考えを自由にぶつけ合うことが皆さん自身の成長、組織の成長につながっていく」と語りかけた。
新入社員に対し、「『Social』、すなわち社会との共生という点において敏感であれ」との言葉もおくった。第一三共グループ行動規範を示した上で、「高い倫理的価値観に基づく1人ひとりの意識や行動により、コンプライアンスを尊重する組織風土が醸成されるので、社会との共生についてはしっかりと理解してもらいたい」と話した。
■イノベーション追求の根幹に患者への想いがある
中外製薬の小坂達朗会長は、毎年薬価改定や各国での医療費抑制策などで経営環境は引き続き厳しいものの、「どのような事業環境においても、イノベーションの追求こそが私たちの使命であり、成長の原動力だ」とし、「イノベーションの源泉は『人財』、つまり皆さんだ」と強調した。新入社員に対し、▽学び続けること▽挑戦し続けること――の2点を「心に留めてほしい」と話し、「将来ありたい自分の姿を思い描き、様々なものに興味を持ち、自己研鑽を続けてほしい。成果に徹底的にこだわり、失敗を恐れずに、イノベーションの創造に向けて挑戦し続けてほしい」とエールを送った。
同社の奥田修社長CEOは、「イノベーションの徹底的な追求の根幹には患者さんへの想いがある」と話した。科学技術やデジタル技術の進歩は新たな治療法をもたらしているが、「人間の理解の及ばない疾患は数多く存在する」として、「私たちの日々の努力は、新たな治療法や解決策を待ち望む患者さんのためにあることを、常に心に留めよう」と呼びかけた。また、「変化の激しい時代だからこそ、サイエンスをベースとしながらも既存の方法や枠組みにとらわれず、思考を開放し、新しいことに挑戦する精神が重要」と説き、新入社員が中外のフロンティア精神の源泉になることに期待を寄せた。「日々の行動、判断全てにおいて、誠実であることを心がけて」とも話した。
■専門分野でも常に自らを鍛え続けなければならない
田辺三菱製薬の上野裕明社長は、入社の門出を祝して、“3つのシンカ”を示した。まず仕事と学びにより同社グループで何の専門性を“深化”させたいのか、さらに社会の動きや海外に目を向けて自身の専門性をいかに展開し“進化”させるのかを考えてみてもらいたいと話した。そして、「患者や家族、医療関係者が必要とされていることを常に考え、世の中に“真価”を届けることを目標としてほしい」と期待を寄せた。
同社グループの今後の方向性として、「より一層、異業種との協業やデジタル技術の取り込みを促進し、医薬品の枠を超えた挑戦をしていく」ことになると説明し、「新たな挑戦には新入社員の皆さんの力が生かされる場面が大いにあると思う。皆さんの活躍を期待している」と語った。
大日本住友製薬の野村博社長は、「当社が取り組む重要課題には『革新的な医薬品と医療ソリューションの創出』などがあり、『ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)』も含まれている」とした。D&Iに関して、「多くは性別や人種の違いなどの多様性に関連する場面に使われるが、私は皆さんを組織にお迎えすることは、多様性を受け入れることに他ならないと認識している」と述べた。そして、企業文化と新入社員の様々なバックグラウンドがぶつかることで新しい企業文化の醸成につながるきっかけになるとの考えを示し、「皆さんは自律・自立した個人として考え、提案・実行し、新たな価値を生み出してほしい。皆さんの成長が会社の成長につながる」と期待を寄せた。
野村社長はまた、2033年にグローバル・スペシャライズド・プレーヤーになるために「ちゃんとやりきる(CHANTO)」をコンセプトにしていると説明。「CHANTO」は1人ひとりがチャレンジングな目標に取り組み、完遂するためにできる限りの知恵を絞り、困難を乗り越えて実行していくことだと解説し、「皆さんもそれぞれの部門で達成すべきことを『CHANTO』完遂してほしい」と訓示した。
塩野義製薬の手代木功社長は、感染症を強みとする製薬企業ではあるものの、「世の中の変化の動きは速く、専門分野と言っても常に自らを鍛え続けていかなければならない」と強調した。そして、143年の伝統と新入社員の若い力や新しい発想により、「『新たな価値を社会へ提供するHealthcare as a Service「HaaS」企業』たる、次の時代のシオノギを一緒に作っていきたい」と呼びかけた。
新入社員にもプロフェッショナルとしての自覚を持ってもらいたいとして、▽自分の頭で考え、判断する▽自らの決定に責任を持つ、他人のせいにしない▽社会人として成長し進化していくために、コンプライアンスの順守が最も重要である――との3点を理解し、取り組むよう求めた。
■創意工夫とチャレンジを繰り返して
小野薬品の相良暁社長は、「まず社会人として、小野の一員として高い倫理観を持ち、法令遵守はもとより社会の様々なルールを守ることが第一と肝に銘じてほしい」と話した。企業理念に関して、「企業理念である『病気と苦痛に対する人間の戦いのために』の後には、『永続的に新薬を生み出し、患者さんに届けたい』という強い想いが込められている」と説明し、「創意工夫とチャレンジを繰り返して、新薬の創出・提供に取り組んでもらいたい」とエールを送った。
大塚ホールディングスの樋口達夫社長兼CEOは、地政学的変動やコロナ禍が「不安定な社会・政治経済情勢を招き、先行き不透明感を増長させている」と指摘した上で、「それらの変化は人々にニューノーマルという環境への順応を強いる反面、新たなライフスタイルの可能性の模索をもたらしている」と話した。このような環境変化の中で「独自のトータルヘルスケア企業」を目指す大塚への期待が高まっているとして、「このような状況を大きな成長の機会ととらえ、果敢に挑戦してほしい。そして共に世界に貢献する“なくてはならない企業”を目指していこう」と呼びかけた。
■The Peopleの“生ききる”を支える
エーザイの内藤晴夫代表執行役CEOは、「The Peopleの“生ききる”を支える」をテーマに訓示した。まず、「患者への共感を起点として、その憂慮を抽出・把握し、取り除くための戦略を立て実行する。エーザイはこのサイクルを企業行動の基本にしている」と述べ、顧客ニーズに自ら触れて戦略に落とし込む重要性を示した。そして、進展著しいAIなどのデジタル技術を用いて、「エーザイが目指すのは、患者だけでなく、一般生活者を含めたThe Peopleに医薬品のみならずソリューションをお届けし、その憂慮を取り除くことだ」とし、「エーザイはhhc理念にecosystemをプラスしたhhcecoでこれを実現していく」と話した。
hhcecoは、様々な外部パートナーと協業して医薬品をはじめとしたソリューションをパッケージ化し、このパッケージをリアルまたはバーチャルに提供するEisai Universal Platformを幹とし、他産業との共生により多様な憂慮を取り除くことを目指すもの。内藤CEOは「屋久杉的経営(Long-termism)を目指している」とした上で、「屋久杉が多様な生命を育む一大共生群を形成するように、産業横断的なhhc ecosystemを実現し、その結果として、The Peopleの憂慮を大きく取り除き、『生ききる力』を力強く支えていく。新入社員の皆さんにはこのaspirationを胸に様々な方とチームとして活躍されることを期待する」と述べた。