新婚のＮさんは、新妻の献身的なサポートを受けて転職活動にいそしむことになったのだが…。

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男性の転職相談は仕事の話がメインで、結婚・恋愛に関する話をみずから切り出してくる人はそれほど多くない。
ところが、Ｎさんは（27歳）顔を赤らめ、嬉しそうに
「最近結婚したんです。収入を増やしたいですし、彼女が親戚から『なんでこんなのと結婚したの』という顔をされないような会社へ行ければと思っています」
と、転職の動機を話してくれた。

Nさんのこれまでのキャリアはおよそ次の通り。
新卒で食品会社に就職するも2年で退職。その後、職歴にブランクをつくってしまい、再就職に苦労することになった。1年前、我々も再就職の支援をしたのだが、なかなか内定を得られず、結局自主応募で金融商品販売Ａ社に入社。
正直、順風満帆なキャリアではない。
また、Ａ社は入社から半年のあいだに大半が辞めしまう企業で、転職相談にくるＡ社現職・退職者もかなり多く、Ｎさんがこのタイミングで転職したいというのも頷けるものだった。

ただ、かつて我々のところに来たNさんは、無気力で覇気が感じらなかったのだが、1年ですっかり見違えるようになっていた。
仕事で疲れてはいるものの、目には力が宿り、服装・髪型などは社会人として申し分ないものになっていた。その点を誉めると、Nさんはまた奥さんの話をはじめた。
「服は、妻が細かいところまで気を配ってくれるので、どうにか人並みになりました」
Ｎさんの変身はＡ社で働き出したからではなく、奥さんのおかげらしい。

Ｎさんの止まらない惚気（のろけ）話によると、しっかり者の奥さんはＮさんの中学時代の同級生。初恋ではないものの、それに近い存在で、当時は高嶺の花だったそうだ。それが最近、実家近くで偶然に再会し、あれよあれよのうちに結婚の運びになったとか。
「自分の人生にこんな幸運があるなんて、夢のよう」
Ｎさんは、転職についても奥さんの全面的なサポートを得ていた。家での模擬面接、ネットでの情報収集、さらには面接に向けて靴・鞄・ネクタイを新調するなど、見事なまでの良妻ぶりを発揮していた。

その効果は選考結果からも明らか。1年前、すべての面接を１次で見送りになっていたＮさんが、今回はどの企業でも一定の評価を得ることができていた。他の候補者との比較、仕事内容の違いなどで見送りになってしまうことも多かったが、決して箸にも棒にもかからないということはなくなっていたのだ。
そして、ほどなく大手医療企業の関連食品会社、いわゆるカンムリ企業Ｂ社の営業職で内定をもらうことが出来た。キャリアを考えれば、大成功の転職いっていい内容だ。

しかし、ここで、書類選考に時間がかかっていたＣ社から面接案内が届いた。
C社はB社よりも知名度のある企業だったが、その分ほかにも多くの候補者がおり、内定をとるのは至難のワザと思われた。
Ｂ社を辞退するのはあまりにもリスクが大きいと感じ、我々は
「Ｃ社は魅力ですが、Ｂ社で申し分ないのでは？」
と、アドバイス。しかし奥さんの意見は違っていた。
「大丈夫よ。あなたなら、きっとやれる」
新婚のNさんにとっては奥さんの言葉すべてだった。

「Ｂ社はお断りして、Ｃ社の選考を頑張ります！」

だが、鼻息あらいNさんも、C社では1次面接で撃沈。結局、転職はフリダシに戻るという状況になった。Ｂ社の内定は内助の功が大きな要因でもあったので、奥さんをとやかく言うのもおかしなことかもしれないが、我々としては頭を抱えたくなる展開だったのが本音のところ。
愛の力は偉大だが、オールマイティーというわけにはいかないのである。