思ったことをすぐ口に出てしまうNさん。そんな彼を採用したいという会社は…。

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オトナの世界では、何でも正直に話をすればばいいというものではない。「ウソ」をさけつつ、不適当な部分については、上手に細部をぼかした表現をもちいるのが礼儀・作法である。
だが、若いソフト開発エンジニアのNさん（26歳）は、「前の会社について、何でもかんでも思ったままに話をするのは止めた方が良い」という我々のアドバイスを、どうしても受け入れようとはしなかった。

「どうして酷い上司って言っちゃいけないんですか？実際、酷い上司だったのに」
「相手がいない所で悪いところばかりを並べ立てていると、『この人は上に文句ばかり言う人なのかもしれない』と思われてしまいますよ。」
「ボクが他人の悪口を言うなんて滅多にありません。あの上司だけが特別なんです」
「でも、そのことは1時間の面接では伝わらないでしょう？」
「だからって、心にもないことを言えっていうんですか？」
「そうは言ってません。一方的な表現が控え、『相性が悪かった』とか言い様があるはず…」
「あの上司と相性が良かったヒトなんていませんよ！」

頑固なNさんは、すべてにおいてこんな調子で、思ったことをバンバン口にしてしまう人物だった。そのせいでエンジニアとしてのスキルレベルはなかなかのものがあり、現場との面接では高評価を得ているのに、人事や管理者相手の面接で暴言・放言・毒舌を連発、チャンスを潰してばかりいたのだ。

そんななか、Nさんは業界で着実にシェアを伸ばしているA社で、最終面接に進んだ。最近、事業部トップのT氏からじきじきに連絡があり、「信頼できる人材を紹介して欲しい」と言ってきたのだとか。
今回の採用では、他にも素晴らしい経歴の人達が数名、T氏との面接にのぞむことになっており、NさんはA社の募集要件を考えると若干キャリア不足なため、採用の可能性は低いと思われていた。
だが、ふたをあけてみてビックリ、他の人は全て不採用でNさんだけを採るとA社はいってきたのだった。
「いったい、彼（Nさん）のどこが良かったんでしょう？」
我々がたずねると、T氏はこの採用の直前にあった「事件」について話してくれた。

3ヶ月ほど前、A社ホームページ経由である人物が応募をしてきた。経歴は完璧・キャリアぴったり・人物も申し分なく、T事業部長もすぐに採用のゴーサインを出したのだが、ひょんなことから、その人物が経歴詐称をしていることが発覚した。
しかも、彼が持ってきた経歴は学歴から職歴、スキルまで全てがデタラメ。周囲にいる人のいいとこ取りをして作り上げた経歴だったのだ。

「問題はね、そのウソをうちが見破れなかったことなんだよ、自分を含めてね。アレには参った。誰一人、怪しいとさえ思わなかったんだから。しばらく人間不信になっちゃったよ」

そんな疑心暗鬼のところにやってきたのが、思ったことは口にしないと気が済まないNさんだった。
「Nさんは最初に『自分はとにかく思っていることを言う』って宣言していたよ。それから、おそらく他の会社であればマイナス評価になるようなこともバンバン話していたね。あれだけ裏表がない若者も珍しいんじゃないかな」

こうして、言いたい放題喋りまくってNさんは内定を手にした。
「どうですか。思ったようにやっても、内定はもらえるじゃないですか！」
我々に対しても歯に衣着せぬNさん。いやいや、これは本当に特別なケース。皆さんはあくまでも、オトナの面接を心がけて下さいね。