【MixOnline】パンくずリスト
【MixOnline】記事詳細

【AHA事後解説】ROCKET-AF 解釈の糸口(その1)優越性の証明はOn Treatment解析で十分か?

公開日時 2010/11/25 06:01

ROCKET-AF試験は、心房細動の脳卒中予防におけるリバロキサバンのワルファリンに対する非劣性を証明し、試験の目的を達成した。ただし、ITT(Intention To Treat)解析では、リバロキサバンの優越性は示されなかった。安全性については、懸念された頭蓋内出血(ICH)や致死性出血などは、リバロキサバン群で有意に少なかったものの、全般的な出血リスクは2群間に有意差はみられなかった。


試験の解釈には、さまざまな議論がある。もっとも大きな論点の1つは、主要評価項目の検討に“On Treatment”解析が用いられた点だ。また同じ“On Treatment”解析でも、非劣性の検証と優越性の検証とで、対象とする患者集団が異なることにも注意が必要だ。非劣性の解析では「プロトコール通り被験薬を服用していた(=Protocol Compliant)患者群を対象としているのに対して、優越性の解析では被験薬を一度でも服用した安全性解析と同じ患者群を対象にしている。


★解析手法について
“On Treatment”解析:被験薬投与終了2日後までのイベントを解析
“Per Protocol”解析:プロトコール通りに被験薬を服用していた(Protocol Compliant)患者群を対象とする“On Treatment”解析
ITT解析:ITT患者集団を対象として、試験終了時までのイベントを解析


★ 患者群について
Protocol Compliant:プロトコール通りに被験薬を服用していた患者(アドヒアランスの閾値は公表されていない)
ITT患者集団: ランダム化されたすべての患者(ただし、今回報告された優越性を検証したITT解析では、ランダム化された患者数と異なる。この差は、解析に際して、データモニタリング委員会がGCPを遵守していないとして、除外した施設からの登録分。)


◎ 非劣性と優越性で異なる“On Treatment”解析の対象患者


▽リバロキサバンのワルファリンへの非劣性を検討(“On Treatment”解析)


プロトコール通りに被験薬を服用していた(Protocol Compliant)患者群(リバロキサバン群6958例、ワルファリン群7004例)を対象に、被験薬の投与終了2日後までのイベントを解析(“On Treatment”解析)した(すなわち“Per Protocol解析”)。主要評価項目(脳卒中+非中枢性の塞栓症)の発症率は、リバロキサバン群で1.71イベント/100人・年、ワルファリン群では2.16イベント/100人・年(ハザード比:0.79、95%CI; 0.66~0.96、P値<0.001)で、非劣性が証明された。


▽リバロキサバンのワルファリンへの優越性を検討(“On Treatment”解析)


安全性解析と同じ患者群(リバロキサバン群7061例、ワルファリン群7082例)を対象に、被験薬の投与終了2日後までのイベントを解析(“On Treatment”解析)した。

主要評価項目の発生率は、リバロキサバン群1.70イベント/100人・年に対し、ワルファリン群2.15イベント/100人・年(ハザード比:0.79、95%CI; 0.65~0.95、P値=0.015)で、リバロキサバンの優越性が証明された。


▽ リバロキサバンのワルファリンへの優越性を検討(ITT解析)


GCP遵守施設のITT患者集団(リバロキサバン群7081例、ワルファリン群7090例)を対象に、試験開始時から試験終了時までのイベントを解析(ITT解析)した。主要評価項目の発生率は、リバロキサバン群2.12イベント/100人・年に対し、ワルファリン群2.42イベント/100人・年(ハザード比:0.88、95%CI; 0.74~1.03、P値=0.117)で、リバロキサバンの優越性は証明されなかった。


◎Hylek氏「優越性検証はITT解析がゴールドスタンダード」


同試験の結果が公表された11月15日のLate Braking Clinical Trialsセッションで、ディスカッサントとして登壇したBoston大学のElaine M. Hylek氏は、非劣性試験について、「ITT解析ではノンアドヒアランスによるバイアスを生む危険性がある」と指摘し、今回の解析に一定の理解を示した。ただ、基本はITT解析であるとの考えを表明。“Per Protocol”解析や“On Treatment”解析は、ITT解析で示された非劣性を確認するために重要であるとした。加えて、Protocol Compliantの患者群を規定するために適用されたアドヒアランスの閾値がはっきりと示されていない以上、自身は“Per Protocol”解析に頼るのには慎重でありたいとの立場を示した。


あらかじめ非劣性を検討する目的で実施された試験における優越性の検証については、「非劣性が証明されたならば、ITT解析によって優越性を評価しても差し支えない」とする既報(JAMA. 2006 Mar 8;295(10):1152-60.)を引用。「ITT解析がゴールドスタンダードだ」と強調し、譲らなかった。また臨床の現場ではアドヒアランスが完全でないのが普通であり、ITT解析の結果が、むしろ実際の治療効果を反映するのではないかとも考察した。


◎Califf氏「ワルファリンへの非劣性証明がこの試験の第一の目的」


共同研究責任者の1人、Duke大学のRobert M. Califf氏は「両薬剤の効果の差がわずかで、(極端な話だが)仮に誰も薬剤を服用しない場合、結果は同等になり、(むしろ簡単に)非劣性が証明されてしまう。試験をデザインした当時、ワルファリンの代替薬がなかったこともあり、ワルファリンを服用しない、できない患者にリバロキサバンを用いた場合、非劣性の効果が得られることを証明するのが、この試験の第一の目的だった」と背景を解説した。


その上で、「今回用いた“On Treatment”解析は事前に規定されており、統計学的にも適切な処理がなされている。優越性については、今後出されるデータも踏まえた、総合的なリスク・ベネフィットのバランスで判断してほしい」と述べた。ただ、「一般的な臨床試験のルールで言えば、(今回の解析方法が)ゴールドスタンダードでないのは確か」であることも認めた。


両者の見解は、「現時点において “非劣性を証明”というのが、公平で適切な結論だ」という点で一致した形だ。


(医学ライター・リポーター 中西美荷)
 

プリントCSS用

 

【MixOnline】コンテンツ注意書き
【MixOnline】関連ファイル
関連ファイル

関連するファイルはありません。

【MixOnline】キーワードバナー
【MixOnline】記事評価

この記事はいかがでしたか?

読者レビュー(5)

1 2 3 4 5
悪い 良い
プリント用ロゴ
【MixOnline】誘導記事

一緒に読みたい関連トピックス

記事はありません。
ボタン追加
バナー

広告

バナー(バーター枠)

広告

【MixOnline】アクセスランキングバナー
【MixOnline】ダウンロードランキングバナー
記事評価ランキングバナー