三枝病変または左主冠動脈病変を持つ患者において、冠動脈バイパス手術（CABG）とパクリタキセル溶出ステントによる経皮冠動脈インターベンション（PCI）とを比較検討したSYNTAX試験で、健康関連のQOLについて評価した結果、差は小さいものの、6ヶ月目と12ヶ月目でCABGの方が有意に高いことが明らかになった。米ミズーリ大カンザスシティー校David J. Cohen氏らの研究グループが、学術誌「NEJM」3月17日号で報告した。

SYNTAX試験は、主要評価項目である、1年目の死亡、心筋梗塞、脳卒中、または再度の血行再建術の複合の発生率において、CABGが有意に低いことが明らかになっているが、これは、再度の血行再建術の必要性が大幅に低かったことによりもたらされたもので、残りの評価項目には両群間で有意差はなかった。これにより、患者にとって、狭心症の緩和や生活の質（QOL)といった要素が、血行再建術を選択する上で重要になると思われることから、同試験をもとにQOLに関するサブスタディーを実施した。

試験では、症状や機能障害、QOLといった健康状態に関するアセスメントを、ベースラインとランダム化から1、6、12ヶ月後に実施。疾患特異の健康状態は、シアトル狭心症質問票（SAQ)を使用し、全体の健康状態は、医療転帰研究36項目短縮版健康調査（SF-36)と欧州5次元QOL（EQ-5D)で評価した。このサブスタディーでの主要評価項目は、SAQによる狭心症頻度のスコアに設置。その他のスケールは全て副次評価項目とした。

対象被験者は三枝病変または左主冠動脈病変を持つ患者1800人。ベースラインの患者特性やQOLスコアで両群間に有意差はなく、平均年齢は約65歳、約12%が毎日狭心症の症状を呈し、一方約20%は症状がなかった。狭心症頻度スコアの平均は、PCI群69.6、CABG群69.5（高い数値ほど良好）であった（p=0.91）。

追跡の結果、両群ともランダム化後のSAQ狭心症頻度スコアは改善を見せ、調整前の数値で1ヵ月後はPCI群90.2 vs. CABG群88.7（p=0.17）で両群間に有意差はなかった。しかし6ヵ月後と12ヶ月後は、それぞれ91.1 vs. 92.8 (p=0.04)と、92.4 vs. 93.8 (p=0.03)となり、CABG群の方が若干ではあるが、改善度合いが有意に高かった。調整後の群間差は、6ヶ月目で1.8ポイント（p=0.03）、12ヶ月目は1.6ポイント（p=0.04）であった。

また、ベースラインから著しい改善を示した患者（SAQ狭心症頻度スコアが20ポイント以上上昇）が占める割合は、各追跡時点で52.4%～58.3%の幅で推移していたが、どの時点でも両群間に有意差はなかった。一方、狭心症の症状がない患者（スコアが100）の割合は、1ヶ月目と6ヶ月目で両群に差はなかったものの（1ヶ月目：64.4% vs. 61.6%、p=0.27, 6ヶ月目：68.5% vs. 72.0%、p=0.14）、12ヶ月目はCABG群の方が高い傾向が示された（71.6% vs. 76.3%、p=0.05）。

その他のSAQ項目である身体的制約と治療満足度、QOLのスコアは、いずれも1ヶ月目にPCI群で有意に高い改善を示したが（いずれもp<0.001）、身体的制約は6ヶ月目と12ヶ月目の両時点で、治療満足度は12ヶ月目で群間差がなくなり、またQOLは12ヶ月目にはCABG群が有意に高いスコアを示した（群間差2.4ポイント、p=0.03）。
またSF-36では、身体機能や肉体的苦痛、活力などを含む８項目のうち7項目で、1ヶ月目のスコアがPCI群で有意に改善していたものの（全てp<0.001）、殆どが6ヶ月目には両群間で差がなくなっていた。EQ-5Dについても同様の傾向を示した。

これらの結果から研究グループは、三枝病変または左主冠動脈病変を持つ患者において、6ヶ月目と12ヶ月目の狭心症の緩和は、両治療戦略間でのベネフィットの差は小さいものの、PCIよりもCABGの方が大きかったとまとめた。