スキルも経験も申し分ないKさん、面接の場で彼に欠けていたものとは…。

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転職徒然草は多くの方々にご愛顧いただき、1996年から15年以上続いているコラムである。なぜ、こんなにも長く続けてこられたかを考えてみると、概論・一般論を述べるのではなく、転職という場で起きた転職者・採用担当者の個人の物語であるという点が大きいように思う。
感動した話、奇妙な顛末、偶然の不思議、そんなストーリーをご紹介してきたのが、読者の方の共感を得たのではあるまいか、そんなふうに自己分析しているのだが…。

Kさん（30歳）はキャリア8年のシステムエンジニア。プログラミングから上流工程までの広い経験・テクニカルスキル・英語力、全てをもっており、やりたいことも明確で、お会いしてすぐに「この方ならすぐに内定するだろう」と感じた転職者であった。

Kさんは行く先々の面接で良い評価を得たのだが、我々が当初考えていたほど「引く手あまた」という感じにはならなかった。内定が出た企業もあったのだが、Kさんが望んでいた待遇・仕事内容のものには程遠く、思いがけず、二ヶ月以上たっても、Kさんの転職は先行き不明という状態になっていた。

そんな時、Kさんが転職活動をはじめて最初に「ぜひ行きたい」としながら不採用になったSI企業A社が、別部門で再度求人を出すことになった。もちろん、Kさんは再チャンレンジを決意したのだが、同時に「同じ轍をふまないよう、きちんと準備をしたい。前回の選考でどこかいけなかったのか、あらためてアドバイスをして欲しい」と、我々に連絡があった。

早速、A社の担当者に訊ねてみると、こんな返事があった。
「Kさんのどこがいけないということはまったくありませんでしたよ。ただ、他にもっと意気投合した人がいただけのことです。その人とは最終面接が二時間近くにもなってね、あのときは盛り上がったなあ」
一方、Kさんの最終面接は20分ほどだったとか…。これを聞いた時、気がついたことがあった。Kさんは他の会社でも、一様に面接時間が短く済んでいたのだ。

その後、Kさんと話して分かったことがあった。
彼が働く現職B社はかなり多忙な会社。そのため、新人の頃から「アウトプットは不足なく簡潔に」ということを徹底して教育されてきた。長話・長文メールは仕事がデキない証拠。細かい連絡や、ニュアンスを伝えなければならないような場合でも、短く的確にすることを常に求められてきたのだ。とくに、Kさんの上司はその点に一家言持っている人物だった。
「システムは出来るだけシンプルな方がいい。普段の業務連絡から『シンプル』を徹底していると、システムを考える時にも、脳が自然と素直で無理のないフローを考えるようになる」というのだ。

Kさんのシンプルで分かりやすいアウトプットは転職の面接でも変わらなかった。それが悪いことということではない。実際、Kさんの評価は、どの企業でも高いものだったのだ。しかし、それでも、「仕事がデキる」が即「採用したい」になるわけではない。
優秀か否かが選考の大きな物差しであることは言うまでもない。だが、最後の内定という判断にかかるときには、「その人と同じ空間を長時間ともにして働けるかどうか。その人と同じ方向を向いて仕事に取り組めるかどうか」という点が決め手になってくる。

我々はKさんと上のような話をして、最後にこうアドバイスをした。
「今までのやり方で9割は問題ありません。ただ、残りの1割、Kさんが一番こだわった仕事、自分が譲れないと思うことについては、ストーリーを語ってください」
「ストーリーですか…」
「はい。仕事をしてきたなかで、忘れられない一瞬。きっと、そこに至るまでには、きっとストーリーがあったはずです」
頭のいいKさんには、それで十分であった。

Kさんは程なく、抜群の評価でA社から内定をもらった。いや、ひょっとすると優秀なKさんのことなので、こんなアドバイスがなくても内定はもらえたかもしれない。しかし、「最後は彼と一緒に仕事をしている姿が、自然と目に浮かんできました」というA社のコメントはもらえなかったろう。

ストーリーには力がある。それは、我々が長年このコラムを続けてきた上での、ひとつの確信でもあるのだ。