年度末を迎え、初めて異動を経験する若手社員たち、彼らはついつい簡単に転職を考えがちなのだが…。

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3月は別れの季節。人事異動にともなう送別会は、早春の恒例行事となっている。言うまでもなく、企業が下す人事は転職にも大きく影響してくる。
若手の場合、希望通りの異動がかなうかどうかは、その後のキャリアを決定づける分かれ道。神経質になるのも分かるのだが、慌てすぎという印象を受ける方も少なくない。

アパレルA社に就職したKさん（23歳）は、異動の辞令を知ったその日のうちに我々のところにメールを出し、数日後、転職相談にやってきた。
「我慢できません」
Kさんは文字通り唇を震わせながら我々に言った。
「営業部門に異動になるなんて、思っていませんでした」

入社研修後、KさんはA社の経営推進部という名称の、社員指導をメイン業務にする部署に配属になった。A社の新入社員は、全員が営業部門配属になるのだが、Kさんは唯一の例外として、この部署に配属になったのだ。
「自慢になってしまいますが、A社に就職したなかで、僕は一番の有名大学出身者。それで最初から本社勤務になったと思っていました。それが、一年で営業行きなんて…」

だが、よくよく話を聞くと、最初の配置がきまったとき、特別待遇を約束されたわけではないという。それなら、A社がKさんを裏切ったとも言えないはず。我々は、Kさんによく上司と話し合うようアドバイスをした。
数日後、Kさんから電話があった。
「本部勤務になったのは、たまたま欠員があったからだと説明がありました。自分は特別に思われていると信じていたのに、勘違いだったなんて…」
Kさんはそう言って、あらためて転職希望を口にしたが、我々はもう一度、彼を諭す側にまわることにした。

「求人紹介をするのは構いませんが、やってもいない仕事を嫌う必要はないのではありませんか？営業をやってみて、その上でやはり本部業務の方が自分に合っていると思うのなら、異動を願い出てみればいい。それが叶わないとき、初めて転職を考えても遅くはありませんよ。それに転職したからといって、その会社が経験1年のKさんを特別待遇してくれることはないはずです」
その場でKさんから「分かりました」という返事は聞けなかったが、翌日メールで「もう少しA社で頑張ってみることにします」という連絡があったのだった。

大手食品B社の営業Tさん（25歳）の転職希望は、実に不思議なものだった。
「3月の辞令で北海道への転勤が決まったので、転職したいと思います」
Tさんは東京郊外の生まれで、幼い頃に両親とともに一度、近隣県への引越を経験したことがあるだけ。親戚・友人も首都圏に多いので、動きたくないというのだ。ここまでは理解出来る。しかし、Tさんの転職はひとつ条件がついていた。
「社格は落としたくないので、B社と同規模くらいの会社への転職を希望します」

最近の会社選びの基準は『安定』。若手でも、ベンチャー企業やスタッフの出入りの多い外資は避けられ、大手企業を希望する転職者が多数を占める。ただ驚くのは、大手企業ほど転勤が多いという事実に、無自覚である人が多数いることだ。
「大企業で働く以上、転勤は避けられません」
「地方はもちろん、海外転勤もありえるでしょう。それも大都市ではなく、初めて名前を聞くような場所へ行く可能性も考えなくては」
といった話をすると、面食らったような顔をして
「考え直してきます」
と、すぐに面談から立ち去ってしまうことすらある。

Tさんに至っては、すでに丸2年も大手企業に身を置きながら、自分が転勤することになるかもしれないということを、真剣に考えたことがなかった様子だった。
「僕が地方転勤とは…」
「就職の時に転勤のことは説明があったのでは？」
「まあ、それはありましたけど…」
「それに、この2年で、地方転勤になった先輩や上司もいたんじゃないですか？」
「それは実家がそちらにあるとか、そういう事情で本人が希望したものだとばかり思っていました。まさか、縁もゆかりもない北海道勤務になるなんて、考えてもみなかったんです」
と、Tさんは辞令はまったく心外という顔を変えなかった。

そこで、大手企業の営業職なら、どこへいっても転勤はつきもの。転勤がどうしても嫌なら、中小規模の企業の方が可能性が高いと説明すると
「う～ん、それは究極の選択ですねえ」
と、腕を組んで考え込んでしまった。

若手社員にとって、初めての異動は突然のことでショックも大きいのかもしれないが、過剰反応は禁物。転職が、本当の意味で解決策になるかどうか、しっかり考える必要があるのだ。