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法改正 医療従事者から差別の助長などで強い異論も

公開日時 2013/12/10 00:00

自動車運転死傷行為処罰法制定の臨床現場への影響を探る

2011年4月に栃木県鹿沼市で、病名未申告で運転免許を更新したてんかん患者がクレーン車を操作中に発作を起こし、児童6人が死亡した事件をきっかけに始まった道路交通法などの改正論議。正常な運転に支障が生じる可能性のあるてんかんなどの意識障害を伴う疾患の未申告による免許取得・更新の厳罰化を定めた道路交通法改正は既に国会で成立、6月に公布された。11月20日には、特定の病気の影響で起こした事故を危険運転致死傷罪に問えるようにした新法「自動車運転死傷行為処罰法」が成立している。しかし、これら法改正は患者だけでなく、医療従事者から差別を助長するなどの観点から異論が強い。また、てんかんの診療体制にはいまだ不備が多いとの専門医の指摘も多く、運転免許問題が患者の孤立化につながる可能性も指摘されている。(ジャーナリスト 村上 和巳)

 

11月16日、厚生労働科学研究費「てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究」研究班主催の市民公開講座「てんかんによる自動車運転事故を防ぐにはどうすればよいのか? わが国のてんかん医療の現状と対策」の模様から、てんかん診療をめぐる課題を探る。

 

現在未申告で免許取得患者は今後の更新時に罰則適応に

社団法人日本てんかん協会の副会長で国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター統括診療部長の久保田英幹氏は、今回の改正道路交通法の内容を改めて説明した。大きな変更点としては、患者がてんかんの病状を未申告で運転免許を取得・更新した場合に改正道路交通法では新たに1年以下の懲役又は30万円以下の罰金刑が科せられることやてんかんなどの症状がある患者を診察した医師が、任意で患者の診断結果を都道府県公安委員会に届け出ることができるようなったとした。
その上で、すでにてんかんを未申告で免許を取得した患者については、今後の更新時に申告を行うことになると説明。同法で過去まで遡及して罰せられるものではないことを強調した。
一方、医師の任意通報については現在、日本てんかん学会などでガイドライン(GL)を策定しており、医師は直接公安委員会に通報するものではないとした。
この法改正で影響を受けるてんかん患者について久保田氏は、推定患者数100万人、運転可能年齢を統計上15歳以上とした前提で、一般的な免許保持者などの割合から運転免許所持者が30万5000人、うち実際に運転している人は25万3000人と算出。これにてんかんに関する種々の疫学データなどを当てはめると、てんかん患者の最低限の免許取得条件となる過去2年以内の無発作条件を満たさないものは約3万人になるとの推計を示した。また、これとは別にてんかんの各年ごとの新規発症率に関する推計値を基に、既存の免許取得者で、毎年新たにてんかんを発症する人が約3万6000人、うち実際に運転している人は約3万1000人と推計。「法改正から3年間で影響を受ける患者数は10万人程度に上るのではないか」との見方を示した。
これらの影響について久保田氏は、免許を失った後の移動手段の保証がないことに加え、就職時に漫然と免許証の提示を求められるなど身分証明書代わりに利用されているなどの現状から、免許喪失を恐れる患者の病状申告があいまいになる可能性を問題視した。
また、医師側は免許を喪失する可能性のある患者の雇用や移動の問題への相談などに今まで以上にかかわらねばならず、非専門医も含め病名告知や診療負担が増加する可能性を指摘。さらに、任意通報制度の影響で民事訴訟のリスクも増大するなどの影響を受け、患者と医師の関係をはじめとするてんかん治療の構造そのものに影響を与える懸念を訴えた。

 
大槻氏「法改正での厳罰化 交通事故の抑止につながらない」

一方、国立精神神経医療研究センター病院脳神経外科診療部長兼てんかんセンター長の大槻泰介氏(厚生労働科学研究費「てんかんの有病率等に関する疫学研究及び.診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究」研究班代表者)は、研究班での成果から、法改正での厳罰化は、新たに免許を取得しようとするてんかん患者の不正取得に対して抑止力を発揮する可能性はあると認めた上で、既に確定診断を受けたてんかん患者では一層の病歴秘匿を招く恐れがあり、結果として交通事故の抑止にはつながらないとの見解を示した。
大槻氏は、国際的な疫学推計を基に日本国内のてんかん患者数は約100万人と推定されながら、厚生労働省患者調査では20数万人に過ぎないと説明。また、国内のてんかん外科手術件数が諸外国の半分程度の年間5000件にとどまる現状に疑問を呈し、日本ではてんかんに対する適切な医療提供が行われていない可能性が高いとの見解を示した。
患者数に関しては、イギリスでの疫学調査では年齢別で小児期、高齢期に患者が増加をすることが明らかになっていると説明。一方で、国内では高齢期患者の報告は成人期などよりも減少する特異的な動態を指摘。この原因について「小児期では小児神経科医などが中核を担うのに対して、成人では神経内科、精神科、脳神経外科などの複数の診療科に患者が分散するため主たる診療科が不明確になり、医師のてんかんに対する関心も薄れるからではないか」と分析した。

 

地域医療体制の整備が急務

一方、てんかん患者を担当する神経内科、精神科、小児科、脳神経外科の医師455人に対する調査から、過去2~3年間でてんかんの地域医療体制に関して行政から情報提供がなかったと回答した医師は93%に上ると報告。また、同調査で都道府県あるいは50~100万人の圏域内で難治性てんかんの診断・治療に関するコンサルテーションがあるかとの問いに関しては、回答医師の4割が「ない」あるいは「分からない」に達する現状を説明した。
その上で「これまではてんかんを中軸に据えた対策がなされてこなかった。発作があっても運転が不可欠な人がてんかんの病名申告により生活の破たんではなく、支援とよりよい医療の提供の恩恵に預かれる医療体制の整備が急務」と提言。現状の厳罰化は、病名や病状の虚偽申告や運転免許の取得・更新を容易にする非専門医への患者の逃避を招く危険性があるとし、「治療や指導もできず、患者は結局大事故を起こす可能性が高まる」と懸念を表明した。
これらを受け研究班では、都道府県別にてんかん患者の初診、救急対応、抗てんかん薬処方を行える一次診療機関、脳波・MRIによるてんかん診断が行える二次医療機関、非てんかん疾患との鑑別診断や外科治療が行える三次医療機関を掲載した「てんかん診療ネットワーク」を日本医師会や日本てんかん学会をはじめとする関係5学会で整備し、昨年7月にHPの運用を開始した。
ただ、大槻氏は現状のネットワークも相互連携が不十分なモザイク状態であると指摘。将来的なてんかんの地域医療計画・地域診療連携パスとして、人口30万人単位で1次診療機関と2次診療機関の連携を図り、これらを10単位集めた人口300万人単位に3次診療機関を1カ所以上配置するのが理想とした。
その上でてんかんでは就労、教育などの日常的な局面で問題になるため、長期の生活・福祉などを行う行政部門と各次診療機関の連携を構築するのが望ましいとの考えを示した。

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