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ディオバン問題 薬事法違反で東京地検がノバルティス元社員を逮捕

公開日時 2014/06/12 03:52

ARB・ディオバン(一般名:バルサルタン)をめぐる臨床研究不正問題で、ノバルティスファーマ元社員の白橋伸雄容疑者(63)を東京地検特捜部は6月11日、薬事法違反(誇大広告)の疑いで逮捕した。容疑は、京都府立医科大学などで実施された「KYOTO HEART Study」のサブ解析で、2群間の割付や脳卒中の発生率、統計学的有意差を示すP値の操作などディオバン群で良好な成績となるようデータ操作を行い、虚偽のデータに基づいた論文をWeb上に掲載させた疑い。薬事法66条第1項では「虚偽または誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない」とされており、東京地検はWebサイトに掲載された論文を通じ、虚偽の記述が広まったことを問題視している。


問題視されている論文は、2011年10月に「Clinical and Experimental Hypertension」誌のオンライン版に掲載された「Combination Effect of Calcium Channel Blocker and Valsartan on Cardiovascular Event Prevention in Patients with High-Risk Hypertension;Ancillary Results of the KYOTO HEART Study」。


同論文は、「KYOTO HEART Study」のサブ解析として実施された。日本人高リスク患者3081例におけるディオバンとCa拮抗薬併用の有用性を検討することが目的。Ca拮抗薬投与の有無で、Ca拮抗薬投与群1224例(ディオバン+Ca拮抗薬群:773例、Ca拮抗薬単剤群1034例)、Ca拮抗薬非投与群(ディオバン単剤:744例、プラセボ:480例)にわけ、治療効果を比較した。Ca拮抗薬の服用は、12か月以上と定義づけ、12か月未満の服用例はCa拮抗薬非投与群としている。


主要評価項目である複合心血管イベントの発生率は、Ca拮抗薬投与群7.6%、Ca拮抗薬非投与群8.1%。Ca拮抗薬投与群で有意な抑制効果がみられており(p=0.037)、特に急性心筋梗塞で有意な抑制効果が示されている(p=0.0299)。また、ディオバン+Ca拮抗薬群は、Ca拮抗薬単剤に比べ、有意な抑制を示した(p=0.0013)。そのほか、Ca拮抗薬非投与群では、ディオバン単剤群でプラセボ群に比べ、脳卒中抑制効果が高いことも示されていた(p=0.0052)。


これに対し、東京地検では、白橋容疑者が2010年10月~11年9月までの間に、▽Ca拮抗薬投与群は12か月以上と定義づけられているが、割付時にはこれが守られず、Ca拮抗薬投与群、Ca拮抗薬非投与群に割り付けた、▽ディオバン非投与群での脳卒中のイベント数の水増しした、▽P値の操作、▽論文掲載時の虚偽の図表の作成――などの改ざんを行ったとみて捜査を進めている。論文中のCa拮抗薬併用による複合心血管イベント抑制効果(p=0.0370)や、ディオバン単剤群の脳卒中抑制効果(p=0.0052)は虚偽とみられている。


急性心筋梗塞や脳卒中の発生率については、KYOTO HEART Studyの外部調査委員会の本解析についての調査結果でも、“解析用データセット”と研究に携わった医師がデータを入力した“Web収集用データセット”との間に発生率に違いがあることが指摘されていた。


ノバルティスは同日、「事実を厳粛に受け止めている。引き続き捜査に全面的に協力する。更なるご心配とご迷惑をおかけすることになり、改めて深くお詫びする」とコメントしている。
 

◎桑島氏「すべての製薬企業、医師が襟を正すべき」

以下、弊誌取材に対する有識者コメント


臨床研究適正評価教育機構・桑島巖理事長
(厚労省・高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会委員)

「今回の問題は、検討委員会でもある程度予測はしていた。ただ、個人の問題ではなく、企業が関与したことには疑いがない。一連の問題に協力し、誇大広告に加担した医師側の責任も免れられない。医師側も製薬企業側も責任追及は拡大するだろう。今回の問題を受け、ノバルティスに限らず、すべての製薬企業、医師もこれを機会に襟を正すべきだ。特に製薬企業と医師との関係については襟を正す必要があると考える」


京都大学医学部附属病院循環器内科・由井芳樹氏
(KYOTO HEARTほか、ディオバン問題をめぐる統計解析上の問題点を最初に指摘)

「このサブ解析では、(臨床研究不正解明の発端となった)KYOTO HEARTなど3研究と同様、48か月後の血圧値の平均値が4群すべてで一致している。誤ったデータが公表されることで、一番迷惑を被るのは患者だ。医療財政上の影響も大きい。今後は、全貌解明を進め、国際的に日本の臨床試験の信頼を取り戻すことが重要だ。そのためには、二重盲検下、GCP基準に則った質の高い臨床試験の実施が必要と考える」


【解説】ディオバン問題からみる製薬業界と医療界の構造的癒着 健全な連携構築を

「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない」。薬事法第66条第1項にはこう記載されている。

66条への抵触が疑われるケースとしては医薬品の広告、記事広告などが想定されるが、刑事事件にまで発展した今回のケースでは、虚偽データに基づいて執筆された論文がWebを通じ、広く伝播された点が問題視された。
 

◎エックスフォージ市場浸透 論文発表時期と一致 


ここで、論文公表時2011年10月のマーケットに目を向けてみたい。ブロックバスターに成長を遂げたディオバンだが、09年度の1400億円を境に、10年度は1344億円、11年度は1201億円と減少の一途をたどる。1000億円を超える高い売上高は維持したものの、苦戦を強いられていた。

この減収を補うべく、成長が期待されたのが、ディオバンとCa拮抗薬・アムロジピンの合剤であるエックスフォージだ。ノバルティスはディオバン単剤ではなく、合剤を含めた“ディオバンファミリー”としてプロモーションを展開。合剤を含めた売上高でディオバンの売上高を維持する戦略を敷いた。

エックスフォージは、10年4月16日に発売、同年12月には長期処方も解禁されている。論文公表時の11年は、長期処方解禁後で伸長が期待されていた。実際、エックスフォージは11年度に139億円、12年度に224億円、13年度に262億円と伸びをみせる。

同論文で示されたディオバンとCa拮抗薬の併用による脳卒中や心筋梗塞などの抑制効果は、エックスフォージの有用性と重なる。同剤の市場浸透を図る上で、有用性の訴求することは必須だったタイミングで同論文が公表されていることへの恣意性は否めないだろう。


弊誌の取材で確認できた範囲では、パンフレットや基本資材などのプロモーションツールには、KYOTO HEART Studyの本解析は用いられているものの、同論文の図表などは掲載されていない。


しかし、2012年3月号の日経メディカルに掲載されたノバルティスファーマ提供の記事広告では、KYOTO HEART Studyの主任研究者である京都府立大学循環器・腎臓内科部門教授(当時)の松原弘明氏が同論文について解説している。


「Ca拮抗薬を併用した方が有意に予後は良いこと、そしてCa拮抗薬にディオバンをadd-onすると一層予後が改善することが分かりました」「KYOTO HEART StudyそしてJIKEI HEART Studyの良好な成績は、ディオバンとCa拮抗薬との併用が好影響を与えたためだと思います」、「ARB/Ca拮抗薬合剤は、(KYOTO HEART Studyなど)ディオバンのclinical evidenceからみて推奨されるべきもの」――。

同論文に基づいた合剤・エックスフォージの有用性を強く発信している。

今回指摘された虚偽データに基づいた論文掲載への加担という観点からは、製薬企業の責任は免れられない。しかし、製薬企業のいわば“広告塔”として、虚偽データを発信、多くの臨床医の処方に影響を与えた医師の責任はどうか。今後捜査が継続されるデータ改ざんへの関与だけでなく、医師側の責任も重い。

事件の背景には、医師と製薬企業の構造的課題がある。生活習慣病などマスマーケット市場で、製品を訴求する上でエビデンスに基づいた差別化戦略が必須だった。そして医師側も、製薬企業に協力し、研究を実施することで、自身の成果だけでなく、名声、地位、金銭など多くのものを得ることができた。しかし、こうした時代は終わりを告げなければいけない。

今回の問題は、ノバルティスファーマ一社、ましてや個人の社員の問題ではない。製薬業界、医療界全体の問題として業界を挙げて取り組むべきだ。今回の問題を契機に、臨床研究の体制構築だけでなく、健全な形での製薬企業、医療業界の連携、そして医療の発展の形の構築に向けた議論が進むことに期待したい。

(Monthlyミクス編集部 望月英梨)
 

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