デロイトトーマツ コンサルティング合同会社とメディデータ・ソリューションズは5月９日、「治験のデジタル変革がもたらす価値〜国内の分散型臨床試験発展に向けて〜」と題するホワイトペーパーを公表した。両社が行った実態調査を踏まえ、ヘルスケア・ライフサイエンス業界におけるデジタル化の現状と課題を紹介。欧米のDCT普及状況と日本国内の動向、課題、検討事項を掘り下げた。その上で日本でのDCT普及に向けた「これから求められるアクション」について、規制当局、ライフサイエンス企業、医療機関、テック企業のそれぞれについて提言した。

ホワイトペーパーは、①はじめに、②ヘルスケアにおける地殻変動、③分散型臨床試験への注目、④グローバルにおける分散型臨床試験、⑤日本における分散型臨床試験、⑥これから求められるアクション―の６章から構成される。

臨床試験を取り巻く変化については、「2020年度の治験計画届出件数は789件あり、国際共同治験が占める割合は過半数である57％に上る。もはや治験においては国際共同治験が主流であると言わざるを得ない」と指摘した。一方で、「研究開発の生産性は、2010年～19年の10年間で研究開発の生産性が8割低下した」と分析、被験者登録の期間短縮やグローバル治験でのオペレーション標準化を伴う国際共同治験こそが生産性向上の源流になっているとの認識を示した。

◎米国の医療機関　今後2年間でDCTはさらに普及するとの見方

一方、グローバルでDCT（分散型臨床試験）を経験した米国の医療機関に行った調査結果を紹介。「今後2年間で分散型臨床試験もしくは分散型臨床試験ハイブリッドの試験を半分以上実施するであろう」との回答が56％に達したと指摘。医療機関からの回答をみると、eCOAやePRO、オンライン患者募集の頻度が高く、さらにウェアラブルデバイスやオンライン診療、患者への治験薬直送も「今後2年間で使用機会が増加する」との見通しを示した。

◎日米間のDCT普及度「大きな差がある」

では日本のＤＣＴはどうか。2022年8月に公表した製薬協医薬品評価委員会の調査結果を用い、「米国との直接比較はできない」と断りながらも、「両国の分散型臨床試験の普及度には大きな開きがある」と指摘した。各プレイヤーが抱える課にも言及。まず、規制当局に対しては、「米国のように分散型臨床試験の推進を包括的に後押しするようなガイダンスが発出されていない」と指摘した。また、ライフサイエンス企業の抱える課題では、「長期的なビジョンや全体設計がおざなりのまま順次進めていくケースや、ボトムアップによる部分最適が先行し、既存の運用体制にシステムを合わせてしまうケースなども多く、求める効率性が得づらいという実態もある」と強調した。

医療機関側の抱える課題では、「医療機関のＤＸが遅れている。要因としては医療現場の投資余力の低さに加えて、日々の診療に追われている中で、欧米と比較するとテクノロジー導入がオペレーションや事業モデルの変革を伴わず、投資でなくコストとして捉えられていること」などをあげた。さらにテック企業の課題にも触れ、「テック企業が提供するソリューション自体が分散し、プロセス全体の改革を伴わないことから、利用者側が生産性向上やデータ活用などのメリットを享受しづらい状況を生んでいる」と分析した。

◎ライフサイエンス企業「DCT導入に必要な初期投資を必要投資と捉えることが肝要」

その上で、「求められるアクション」として、規制当局には、「具体的な方法論に踏み込んだガイダンス作成」を求めた。一方、ライフサイエンス企業に対しては、「長期的なROI向上を見据えて、分散型臨床試験導入に必要な初期投資を必要投資と捉えることが肝要」とした。

◎医療機関「DXビジョン策定と投資計画策定。DCTを戦略的取り組みに位置づけに」

医療機関に対しては、「医療機関全体のDXのビジョン策定とビジョン実現に向けた投資計画を作成し、分散型臨床試験への対応を戦略的取り組みの一つに位置づけることが必要」と強調した。テック企業に対しては、「周辺領域のプレイヤーと合従連合を組むなどで、治験に止まらない医療プロセスに関するソリューションを一元的に提供し、分散型臨床試験の運用構築に貢献する姿勢が求められる」と強調した。