年に5回開催される、外資系製薬企業のトップ経営者が集まる勉強会・交流会があることをご存知ですか。基本的に、社長・CEO・COOの肩書のある方々を対象とした、インビテーションオンリーの集まりです。長年続いている会で、毎年12月にセールス・マーケティングのテーマを取り上げるそうで、先週、初めてその勉強会でスピーチをしてきました。

　まず驚いたのは、そのオープンな雰囲気です。各参加者が、スピーチの途中でも大変鋭いコメントをしたり、分からないことについては素直に質問したり、自分の社内状況や悩んでいる問題点を遠慮なく取り上げたりと、臆することなく熱心にディスカッションに取り組んでいました。世の中に勉強会は山ほどありますが、いつも表面的な話に終始し、物足りなく感じることがほとんどです。もちろん、今回ご参加された経営者の方々が社内秘密をペラペラ話したという訳ではありませんので、そういう意味で会話の内容そのものが珍しかったわけではありません。
では何が印象的だったのか。それは、彼ら全員（15名の中には女性は一人しかいませんでしたので、ほとんど「彼ら」です）、一人一人が実に自信をもって積極的に参加していたことです。

• せっかく時間をかけて参加している勉強会なので、周囲の目を気にせず何か一つでもヒントになる情報を得て帰りたいという強い気持ち
• それぞれが建前なく意見を交わしてこそ、価値のある勉強会を作り上げることができるという共通認識
• 自らの地位におごることなく、「まだまだ勉強することがある」という謙虚さと覚悟

従来の勉強会との大きな違いは、経営者たちが持つこれらの姿勢にあるのではないかと、強く感じた次第です

　尚、私のスピーチの内容ですが、コンサルタントとしての客観的な立場から、日本の製薬業界のセールス・マーケティングにおける課題を投げかけました。幾つかディスカッションした中で、各社共通の課題として経営者たちに注目されたのは以下の三点です。

1） 従来の営業ディテーリング以外の、医師とのコミュニケーションツールの導入及び効果検証。「従来のモデルはナンセンス」という共通認識は強かったですが、より費用が低く抑えられ、より効果的な複数のオプションのなかで、どれを組織レベルで選択するべきか悩んでいるように見えました。

2） 患者を中心とした「インサイト」（＝深い理解）を、組織としてどう強め、各治療領域のマーケティング活動でどう活かすかという能力向上のプロセス。これはＤＴＣなど患者へ直接コミュニケーションするためではなく、患者に影響を与えそうなステークホルダー（医師はもちろんのこと、看護師、コメディカル、薬剤師など）へフィードバックできるようなインサイトが欲しいということでした。

3） 物流の改善。大きく変遷してくることは間違いないですが、後発品のビジネスが拡大してくる中、卸の役割はどのように変わってくるのか、その中で自分の会社が有利な立場になるためにはどうすればよいのか。このシナリオが見えないという声が多かったです。

　久しぶりにトップの方々と直接議論ができて、本当に刺激になり、また勉強になりました。
読者の皆様も彼らに倣い、次に参加される勉強会では、最低でも何かひとつ質問をしてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

 ジェフリー・シュナック（Jeffrey B. Schnack）　1967 年米国生まれ。 米国とヨーロッパの大学院で国際政治経済学修士およびＭＢＡを取得。1990年来日。外資系コンサルティング会社にて欧米企業のアジア戦略プロジェクトを 実行。その後ＪＲ東日本初の海外子会社代表などを務める。スリーロック株式会社は2004年より、製薬企業を対象に営業・マーケティング分野のコンサル ティング及び能力開発プログラムを実施している。
スリーロックＨＰ　http://www.3rockconsulting.com　本人ブログ　http://blog.3rockconsulting.com/