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EASD/ADAの治療アルゴリズムを日本人へ適応すべきか?

公開日時 2010/06/02 04:00

EASD(欧州糖尿病学会)/ADA(米国糖尿病学会)提唱の治療アルゴリズムを日本人患者に適用すべきか――。岡山市で開催された第53回日本糖尿病学会学術集会2日目の5月28日に開かれたディベートセッション「EASD/ADA提唱の治療アルゴリズムを日本人患者に適用することの是非」の模様を紹介する。


EASD/ADAの治療アルゴリズムは、生活習慣の改善+メトホルミンの投与をSTEP1(第一段階)とし、これを柱に薬剤を上乗せしていくというもの。STEP2(第二段階)の治療薬は、基礎インスリンまたはSU薬を「十分に検証された中核となる治療法(Tier1)」、ピオグリダゾンとGLP-1アゴニストを「十分に治療されていない治療法(Tier2)」に位置付けた。ピオグリタゾンやGLP-1アゴニストで効果が不十分な症例はピオグリタゾン+SU薬、基礎インスリンを考慮するとした。STEP3(第三段階)では、強化インスリン療法を行うことを推奨している(Tier1)。


◎九州大・井口氏  薬剤の導入、ステップアップが遅れている現状を指摘


Pros(賛成)の立場で講演した九州大先端融合医療レドックスナビ研究拠点の井口登興志氏は、自身が福岡県内で行った疫学研究「DIFE」の結果から、依然としてHbA1c<6.5%を達成する患者が約3割にとどまっていることを紹介した。その上で、この原因として、HbA1c≧8.0%の患者であっても、経口薬のみ投与されている患者が62%と大半を占めることを示した。井口氏は「薬の導入、インスリンのステップアップが遅れていることが、ガイドライン(GL)の目標を達成できない1つの障壁」と述べ、早期の薬物介入を後押しするEASD/ADAの治療アルゴリズムを評価した。


第一選択薬のメトホルミンについては、有効な血糖効果作用がある一方で、低血糖や体重増加がみられないなど有効性、安全性が高いと説明。これらの効果は約50年の使用経験とエビデンスによって裏打ちされているとした。また、安価であることから医療経済面も優れているとした。


また、STEP2での投与が推奨されているSU薬についても、インスリン分泌不全を基盤とする「日本人の病態を考えると理にかなった選択」とし、「非常に有効な治療GLになりうるだろう」と述べた。


◎聖マリ・田中氏 薬効評価はHbA1cだけでない多面的な検討を


Cons(反対)の立場から講演した聖マリアンナ医科大代謝・内分泌内科の田中逸氏は、最近になって欧米の医師からもEASD/ADAの治療アルゴリズムに疑問を投げかける声が挙がっていることを紹介した。その上で、日本人に適応する上での問題点として、①なぜ生活習慣の改善だけをSTEP1とせず、最初から薬物を用いるのか②αグルコシダーゼ阻害薬とグリニド薬がアルゴリズムに含まれていない③インスリン療法について基礎インスリンのみが推奨されている④BOT(経口血糖降下薬+インスリン療法)に用いる経口血糖薬がメトホルミンだけなのか――の4点を挙げた。


田中氏は、EASD/ADAの治療アルゴリズムでの選択薬の評価基準が、HbA1cの降下度に重きが置かれているとした上で、動脈硬化の進展度合いがHbA1cだけでは推し量れないことを実際のデータを示しながら指摘。薬効評価に当たっては、HbA1cの改善に加え、血糖変動改善(食後血糖改善)、低血糖リスク、膵β細胞保護の「4つの観点から薬剤をみてもよい時代ではないか」と述べた。その上で、治療アルゴリズムに記載されていないαグルコシダーゼ阻害薬やグリニド薬は、HbA1cの改善効果は強くはないものの、「血糖変動改善効果については非常にメリットがある」とした。一方で、第2選択薬とされるSU薬については、HbA1c改善効果は強いものの、低血糖リスクやβ細胞保護の観点からは「要注意」とした。


田中氏は、日本人の糖尿病患者の中にも多様な病態の患者が含まれていることから、「個々の症例に応じて治療計画を個別に考えることが必要」と強調。「GLには、個別性、多様性をもたらす必要性がある」と述べ、EASD/ADAの治療アルゴリズムは日本人には向いていないとした。


◎治療アルゴリズム日本人適用に反対が約6割


セッションでは、会場の参加者に、EASD/ADAの治療アルゴリズムを日本人患者に適用することの是非をアンサーパッドで問うた。ディベート前はPros(賛成)37%、Cons(反対)63%。ディベート後はPros35%、Cons65%だった。


座長を務めた東京大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科の門脇孝氏は、「EASD/ADAのGLをそのまますべての日本人に適応しようということには、ほとんど誰も賛成ではないだろう」とした上で、「薬剤の特徴が一定の範囲内で明らかになってきている中、病態に応じた使い分けをしたいということではないか」とまとめた。


セッションでは、病態ごとに選択薬の明示したGLの作成を求める声も挙がったが、「それに対する十分なエビデンスがあるのかという問題点もある」とした上で「エビデンスを積み重ねる中で、病態別の分かりやすいGL作成に向け、チャレンジしていくことも大事なのではないか」と今後への展望も述べた。

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