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大日本住友 ロイバントに30億ドル投資 ポスト・ラツーダ品、テクノロジープラットフォーム獲得

公開日時 2019/11/05 03:50
大日本住友製薬の野村博社長(写真右)は11月1日、東京本社で、欧州の製薬ベンチャー・ロイバントサイエンシズ(本社:英国とスイス)と戦略的提携契約を締結したことを受けて記者会見した。年間売上が2000億円近くの抗精神病薬ラツーダの特許切れ影響を最小化する「ポスト・ラツーダ品」の獲得に加え、人工知能(AI)やIT技術を駆使したテクノロジープラットフォームとデジタル人材の獲得につながる提携だと説明。「我々の課題に対する答えが、今回のロイバントとの戦略的提携で得られた」と述べた。

提携に向けて基本合意したと9月に発表していた。詰めの協議を行い、両社は10月31日付けで戦略的提携することで正式に契約した。

大日本住友は契約に基づき、▽ロイバントの子会社5社、計9つの開発品▽ロイバント株式10%以上▽ロイバントのヘルスケアテクノロジープラットフォームとデジタル人材――を獲得した。対価として総額30億ドル(約3300億円)を支払う。ロイバントグループに残る子会社6社の交渉権も得た。

■レルゴリクスとビベグロン 米国で19年度申請へ 「発売間近のブロックバスター候補」

獲得した9品目のうち、子宮筋腫治療薬レルゴリクスと過活動膀胱治療薬ビベグロンの2品目を2019年度中に米国で承認申請する予定。野村社長は、両剤を「発売間近のブロックバスター候補」と紹介し、「レルゴリクスとビベグロンの成功が買収目的。優先順位を高く置いて取り組む」と述べた。

大日本住友の連結売上の4割を占めるラツーダは2023年2月に米国で特許切れする。この減収影響をポスト・ラツーダ品を創出・獲得して最小化するのが、同社の最重要の経営課題となっている。ポスト・ラツーダ品と位置付けたレルゴリクスとビベグロンの両剤で、いわゆる“ラツーダクリフ”から脱却できるかどうかに関しては、「この2品目で23年度に、(ラツーダの減収影響を)全てカバーできるかと言えば厳しい。タイムラグはやむを得ないと思う」との認識を示した。ただ、「全体の経費をしっかりコントロールする」とも述べ、ラツーダクリフ直後に減収となっても、一定の利益は確保していく姿勢をみせた。

レルゴリクスは婦人科領域、ビベグロンは泌尿器領域の品目。今回導入するほかの主な開発品は小児希少疾患、呼吸器系希少疾患、嚢胞性線維症の遺伝子治療――となる。精神神経(CNS)領域、がん、再生・細胞医薬分野の3つを重点領域とする大日本住友の戦略と合致しない導入品が多い。この点について野村社長は、ベスト・イン・クラスとなり得るレルゴリクスとビベグロンを中心に安定的にキャッシュを生み出し、重点領域でのファースト・イン・クラス薬の研究開発にあてる考えを示した。

■2つのテクノロジープラットフォーム取得 自社データとRWD組み合わせたエビデンス構築も

大日本住友は今回、テクノロジープラットフォームとして、▽独自のデータ分析によりパイプライン獲得と臨床開発を加速させる「Drug Omeテクノロジー」▽ITによって各種ビジネスプロセスを最適化する「Digital Innovationテクノロジー」――の2つと、これらテクノロジーに携わるデジタル人材を獲得した。また、ロイバントグループに残るヘルスケアテクノロジー子会社のDatavant社(外部の複数のヘルスケア関連データを匿名化の上で連結させ、分析を促進するプラットフォームを持つ会社)が提供するサービスを、大日本住友が利用できる契約を別途締結する予定という。

これらにより例えば、Drug Omeでは、医薬品データ、標的分子データ、保険請求データ、FDA文書、有価証券報告書、学術論文などでデータベースを構築し、専用アプリを用いて競合状況や適応症の分析を行ったり、臨床試験費用や対象患者数の推定などを行い、臨床開発の支援や有望アセットの探索につなげる。臨床開発から市販後までの自社データと、リアルワールドデータ(RWD)を組み合わせたエビデンス構築も念頭にあるようだ。

Digital Innovationでは例えば、専任のテクノロジーチームがビジネス部門と密に連携して課題を特定し、課題解決や業務効率化に必要なアプリを迅速に開発する。同様の課題を抱える部門に横展開して、会社全体のビジネスプロセスの最適化につなげる。

■プラットフォーム活用で専任部門新設

野村社長は、大日本住友の社内にDrug OmeとDigital Innovationを推進する専任部門を新設すると表明した。各ビジネス部門と連携して会社全体でデジタルプラットフォームを展開・活用できるようにする。

ロイバントグループでチーフ・インフォメーション・オフィサーを務めるダン・ロスマン氏が大日本住友のチーフ・デジタル・オフィサーを兼務し、大日本住友グループ全体にデジタルイノベーションを展開する役割を担ってもらう。社内のデジタルトランスフォーメーションを加速させる考えだ。

■ロイバントのラマスワミーCEO テクノロジー活用したい大日本住友は「非常に良いパートナー」

ロイバントは14年4月に設立された新薬開発・ヘルスケアテクノロジー領域における子会社の設立・管理、ヘルスケアデータ解析を行う企業。製薬各社の重点領域や戦略から外れるなどした開発候補品を獲得し、機敏性などを重視した「Vant(バント)」と呼ぶ子会社を複数設立している。ロイバントは現在、非臨床段階を含む45以上の開発品や複数のヘルスケアテクノロジーを備えた20の子会社(Vant)で構成されている。

この日の会見に同席したロイバントのビベック・ラマスワミーCEO(写真左)は、「ロイバントの新しいビジネスモデルの価値が、今回の戦略的提携の成功で証明される」と話すとともに、提携拡大が期待できる長期的パートナーを獲得できたとの認識を示した。

大日本住友をパートナーに選んだ理由については、「薬剤開発にテクノロジーを適用していくという点で、非常に良いパートナーになると思った」「大日本住友は、ひとつ、ふたつの開発品にしぼって提携したいということではなかった。今後パートナーシップを広げていきたいと思った」と述べた。ビッグデータの分析ツールは、活用すればするほどツールが成長する。大日本住友は現在、デジタルを活用して新たな価値の創造とオペレーション改革の両方を目指す「デジタル革命」に取り組んでおり、データ分析に対する取り組みや考えで一致した部分があったようだ。

■ナパブカシンの膵がん適応の開発中止で投資先の判断加速

大日本住友の最重要の経営課題は、23年に米国で特許切れするラツーダの「ポスト・ラツーダ品」の創出・獲得。その施策のひとつが、がん幹細胞性阻害薬ナパブカシン(一般名)を21年度に日米で膵がんと結腸・直腸がんの適応で上市し、発売2年目に900億円を売り上げることだった。

しかし、膵がんの開発は、生存期間の延長を示すことは難しいとして今年7月に中止を発表。900億円の半分程度をナパブカシンの膵がん適応で稼ぐ算段だったため、ポスト・ラツーダ品の創出戦略の見直しを迫られた。

一方で、持続成長に向けて、22年度を最終年度とする現中期経営計画で、3000億~6000億円の戦略的投資の予算を組んでいた。ナパブカシンの膵がん適応の開発中止もあり、投資先の判断を加速。その結果が今回のロイバント社との戦略的提携となる。
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