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【有識者会議・9月22日 GE薬協、PhRMA、EFPIAのヒアリング・発言要旨(その2)】

公開日時 2022/09/26 04:52
厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の第1回会合が9月22日に開催された。この日は日薬連など製薬5団体から業界の現状と課題に係るヒアリングを行った。本誌は、GE薬協、PhRMA、EFPIAの各団体のヒアリングの内容を発言要旨として公開する。

遠藤座長:次に日本ジェネリック製薬協会からお願いします。

【日本ジェネリック製薬協会 高田浩樹会長】

日本ジェネリック製薬協会の高田でございます。本日はこのような場で発言させていただくお時間をいただき、誠にありがとうございます。まず、本題に入る前に、後発医薬品の品質問題、供給問題により、皆様に多大なご迷惑をおかけする事態となっておりますことを心よりお詫び申し上げる。

私達は現在、後発医薬品を製造販売する業界として信頼回復に向けて掲げた取り組み課題に不退転の決意で臨んでいる。国民の皆様、関係者の皆様が抱く後発医薬品に対する不信感を解消しなければならないと考え、真に医療に貢献すべく、引き続き信頼回復に向けた取り組みを行う考えだ。

さて、薬価制度の抜本改革で始まった毎年薬価改定によって、ジェネリック医薬品企業の事業環境は劇的に変化している。加えて、原材料の高騰による収益への影響も今後顕著になるため、このままだと多くのジェネリック医薬品企業が不採算品目の製造中止を余儀なくされるなど、安定供給に関わる緊急非常事態となる。このため現在の流通、薬価制度のもとでは、多くの後発医薬品の供給継続は困難であり、ジェネリック業界は、次回の中間年改定について受け入れられる状況にない。本日は、特許切れ医薬品セグメント全体にかかる品質確保と安定供給を可能にする制度への抜本的な見直しが必要であることをご提案させて頂く。

3ページをご覧ください。ジェネリック医薬品産業、企業のあるべき姿について示す。ジェネリック薬品企業は、単なる製造販売企業ではなく、人々の生活、生命に直結し、保健衛生の向上に寄与する生命関連産業の位置であり、高い倫理を持ち、コンプライアンス経営を推進するとともに、品質が担保され、有効で安全な医薬品を市場に安定的に供給することが私達の社会における存在意義であると認識している。ジェネリック医薬品企業の多くは、後発医薬品の品質確保と安定供給の責務を果たすため、品質面では、製剤工夫による服薬アドヒアランスの向上や、識別性、安定性の向上、安定供給面では、契約の複数ソース化や工場設備の新設および生産体制の工夫などに取り組んでいる。私達は、人々から信頼され選ばれるジェネリック医薬品企業となるべく、自らの責務と存在価値を示すべきとともに、公的制度の枠組みの中で事業を進め、医療社会のインフラとしての自覚が欠如している企業は市場から撤退せざるを得ないというふうに考えている。今後、流通、薬価制度においても、信頼され、選ばれるジェネリック医薬品企業の取り組みが評価されることにより、存在意義のある製品については、その価値が適切に価格に反映される制度の導入が必要であると考えている。

スライド4をご覧ください。これまでジェネリック医薬品企業は後発医薬品の数量シェア80%達成に向けて、増産体制を敷いてきた。いまや後発医薬品は医療超不可欠な医薬品となっている。

5ページをご覧ください。後発医薬品供給企業について示す。後発医薬品を1品目でも供給する企業は約190社ある。そのうち100品目以上供給している企業は30社だ。50品目未満の企業には、先発企業や剤型に特化した後発品等が含まれる。従って190社全てがジェネリック医薬品企業という認識ではない。

6ページ目をご覧ください。ここからジェネリック医薬品企業の近年の状況について示す。これまで、数量シェアを高める期間においては2年に1回の薬価引き下げによる売上収益低下を新製品の導入と、既存品の数量増加、あるいは原価低減によって吸収することで、事業を維持し、発展させた。たとえ採算であっても供給を継続してきた。このスライドでは、あるジェネリック医薬品企業の例を示す。2016年度から2021年度の6年間に新製品の投入で供給品目は100品目以上増加したが、この間5回の薬価改定によって、いわゆる赤字品目は約220品目に倍増した。

7ページ目をご覧ください。ジェネリック医薬品企業は、現在の流通、薬価制度のもとで既に多くの後発医薬品が不採算となっている。その中で毎年改定が行われれば、ジェネリック医薬品企業は、収益の急激な悪化を予測しており、企業の規模を問わず、事業継続に影響が出かねない。スライドに示したように毎年改定は、企業の収益に与える影響が極めて大きく、既存品は数量の伸びが鈍化し、経営が図れない水準まで来ている。また新製品についても毎年改定を前提にすれば上市しても早期に不採算となることが予測され、開発や販売を見送る新製品も出るなど、毎年改定による収益悪化を吸収できないことも予測している。原材料の高騰と円安が続く状況で、現行の流通、薬価制度のもとでは、中間年改定による引き下げを行える状況にない。

8ページをごらんください。こちらの図は、後発品を含む低薬価品の一般的なコスト構造と、今後顕在する収益悪化の要因について示したものだ。低薬価品は薬価に対する原価率が極めて高く、原価構造として高い原材料費に加え、人材、設備など品質確保と安定供給に欠かせない経費の割合が大部分を占める。既に低薬価品については、長いライフサイクルを経ており、原薬購入価格など低減する余地が少ない。毎年改定に加えて急激な原材料価格の高騰、さらには為替変動によって、低薬価品の収益性は急激に悪化している。

9ページ目をご覧ください。医療用医薬品においては例外なく原材料費が高騰している。このスライドはその現状について示したものだ。昨年末から現在まで原薬購入価格が上昇している。価格交渉中のものも多く、今後大きな影響が本格的に顕在化すると予測している。
このほか包装資材価格も上昇している。

11ページをご覧ください。あるジェネリック医薬品企業の内用薬のうち、製造原価が対薬価80%上回っている製品だ。製造原価の時点で販管費を乗せると赤字となる品目を示したもの。原材料費と、の高騰の影響を受ける前の段階で、全内用薬653品目のうち17%に上る品目が、今後急激に増加すると予測している。これは製品ごと企業ごとの区別でなく、低薬価品全体の問題との認識だ。

12ページをご覧ください。これは医療用医薬品の薬価と販売数量の関係を示したものだ。後発医薬品は、20.00円未満の薬価のものが、83.3%を占めており、医薬品全体においても、低薬価品が毎年薬価改定や原価高騰の影響を強く受けている。13ページをご覧ください。こちらのスライドは内容薬の最低薬価5円90銭の品目の、2018年と2021年の収益状況をみた。いずれの品目も最低薬価の5円90銭なので、基本的にこれ以上薬価が下がらないものだ。このうち製品Aは製造原価+販管費に卸に支払う経費を乗せても利益が確保できている製品だが、今後は原材料価格の上昇等により利益が確保できなくなる可能性が高い。
製品Bは、製造原価+販管費に卸に支払う経費を上乗せすると既に利益が確保できておらず、原材料価格の高騰により、今後供給中止を検討せざるを得ない。製品Cは大幅な赤字で、今後供給中止を検討せざるを得ない状況となる。

14ページをご覧ください。こちらのスライドは後発医薬品の数量の60%を占める薬価10円10銭以下のものだ。現在薬価10円10銭の品目には、これ以上薬価が下がらない局方品と最低薬価まで引っ張る品目がある。多くの製品で、現状の流通、薬価制度では、既に利益を確保できない状況であり今後供給の中止を検討せざるを得ない状況にある。

15ページをご覧ください。現在の流通と薬価制度における課題を説明する。医療用医薬品の多くは、医薬品メーカーから卸売販売業者に販売され、その後、卸売販売業者から、医療機関や薬局に販売されている。多くの医薬品を扱う市場において、自由取引によるメカニズムの中では、たとえ低薬価であったり、不採算な品目であっても、一定の価格乖離が生じるのが実態だ。現在の流通や製造のもとで、薬価改定が続けば、今後加速して、製造原価が薬価を上回るような不採算製品が増加する。このため低薬価品の安定供給に支障をきたさないためには、価格乖離の扱いも含めた流通、薬価制度について今後の検討に日薬連ともに参画させて頂きたい。

16ページをご覧ください。後発医薬品は、医療用医薬品の数量ベースで50.3%を占め、いまた医療のあらゆる分野でインフラとして不可欠な薬品となっている。一方、薬価ベースでは16.8%で、後発品への切り替えが進むことで医療費適正化効果を生む。今後、低薬価品の持続的な品質確保と安定供給を可能にする観点での取り組みがより重要となってくる。

17ページをご覧ください。最後のスライドとなる。後発医薬品を含む特許切れ医薬品セグメントについては、ライフサイクル全体における中で、品質確保と安定供給を可能にする。流通、薬価制度への抜本的な見直しが必要であることを提案したい。後発医薬品に関しては、初収載の時点で十分低い薬価で収載され、短期間で薬価が低下している。不採算やサプライチェーンの問題により供給に懸念が生じないよう、継続的な安定供給の確保が必要な医薬品に対する薬価制度上の措置が講じられ、不採算品再算定ルールや、基礎的医薬品、安定確保医薬品、G1撤退ルールなどのルールが制定されているが、製品ごとの価値が価格に反映され、医療上必要性の高い製品の継続的な安定供給が下支えされるような、既存のルールの見直しが必要と認識している。

遠藤座長:次に米国研究製薬工業協会からお願いします。

【米国研究製薬工業協会(PhRMA) 関口修平在日執行委員会委員】

PhRMA在日執行委員会委員の関口です。本日は、発表の機会をいただき誠にありがとうございます。PhRMAからはバイオ医薬品産業が置かれている現状と、薬価制度に関する意見を申し上げる。

最初にバイオ医薬品産業が果たす3つの貢献について申し上げたい。第1に、「患者さんと人々の健康を守る」ということ。新型コロナの革新的ワクチンを接種した日本人は1億400万人に上り、世界的にも、このワクチン接種で2000万人の死亡を防いだ。第2に「社会の活力を維持」する。革新的な新薬やワクチンにより疾病の予防により、人々が健康に仕事に従事し、仕事と治療の両立が図られる。がんと診断された患者が1年以内に復職する割合は81%にも上る。新薬によって社会経済活動を支持することができる。第3に「経済成長に寄与」する。バイオ医薬品産業はワクチンや治療薬の研究開発に膨大な時間とリソースを注いでいる。世界で最も研究開発集約型の産業として、バイオ医薬品産業が雇用と投資の両面で、経済に貢献している。

日本では14万人以上の直接的な雇用を創出。過去10年間における日本における研究開発投資額は14兆円にも上る。

このようにバイオ医薬品産業が3つの貢献を続けるため、人々の健康の向上と経済成長を目指す日本政府にとってバイオ医薬品イノベーションエコシステムを強化することが急務だ。これにより、患者が革新的な医薬品やワクチンに早期にアクセスするだけでなく、日本が公衆衛生を推進する上で、世界のリーダーであり続けるなど、重要な施策の達成に貢献できる。

私達が提案するバイオ医薬品イノベーションエコシステムは、研究開発の努力に始まり、安全で、効果的な医薬品を迅速に承認する国際的に調和された薬事規制、そして患者のタイムリーなアクセスアクセスを確保し、イノベーションを適切に評価する保険償還によって成り立っている。これにより、バイオ医薬品企業は、新薬の研究開発に再投資する機会を得ることができる。次のスライドから、このイノベーションの適切に評価することが不可欠な現行の薬価制度において、バイオ医薬品産業の置かれている現状に、フォーカスして話を進めたい。

スライド4をお願いします。日本の薬価施策はバイオ医薬品業界の研究開発の水準に強い影響を与える。2010年に導入された新薬創出等加算制度のようなイノベーションを促進する政策は大変好ましい効果をもたらした。日本におけるバイオ医薬品業界の投資は、2009年から2015年の間に22%成長し、世界平均の16%を上回った。しかし、近年の日本政府の施策は革新的なバイオ医薬品産業にとって、ますます予見性に欠ける困難なものとなってきた。2015年以降、50以上もの薬価算定ルールの変更が導入され、投資を阻害するような好ましくない施策の影響が表れている。バイオ医薬品業界の研究開発投資は2015年から2020年にかけて、世界平均で33%増加した。一方、日本政府が導入した100薬価施策の変更受けて、日本の傾向が急激に反転し、9%減少した。PhRMA在日執行委員を務めている各日本法人社長も、この現状を踏まえ、開発への投資や国内の雇用など、ビジネス意思決定を既に行っている。

次のスライドお願いします。このような好ましくない政策変更は、結果的に革新的サイエンス分野における日本の競争力を危険に晒すだけにとどまらない。それは日本の患者にとって革新的な医薬品への早期のアクセスを損なう可能性があるということを示している。日本政府がイノベーションを阻害する薬価政策に変換し始めたことで、日本における最新の医薬品が上市されるスピードは低下している。2016年には過去5年間の世界の新薬の51%が日本で発売された。しかし、2020年にはその割合が43%に減少した。一方、米国では84%に上昇し、最新の医薬品がより早期に入手できるような傾向が見られる。

スライド6をお願いします。主要国におけるバイオ医薬品市場の成長予測を示しているが、日本は世界のトレンドと大きく異なるトレンドを、この先5年間を歩むことになりそうだ。つまり、日本は唯一マイナス成長が見込まれる国だということ。このように、日本におけるバイオ医薬品の現状は、投資環境の悪化、ドラッグ・ラグの再燃の兆しに加えて、市場の成長予測の極めて悪い見通しとなっている。

次のスライドをお願いします。日本の市場成長を妨げている主な要因は、薬価の引き下げだ。2017年度から2022年度までの薬価基準収載品の市場成長率をスライドで示した。平均成長率は0.11%だった。過去5年間、ほとんど成長していない。仮に、この間、薬価改定が全く行われていなかった場合の推移は、年平均4.28%成長となる。まさに。他国の成長率に近い数字になっている。つまり、この4%の数量成長をほぼ完全に相殺する薬価の引き下げが行われてきたということになる。

次のスライドお願いします。このように、薬価の引き下げが市場の成長を妨げているわけで、その背景には近年実施されてきた薬価制度改革の影響があると考えている。スライドの左側の図は、新薬創出加算が導入される以前の新薬の売上推移をイメージしたものだ。新薬は2年ごとに薬価改定を受けるため、売り上げの上昇カーブは緩やかである。一方、後発品への置き換えも小さいため、長い時間をかけて投資を回収することが一般的だった。2010年には新薬創出等加算が導入され、特許期間中の薬価を維持する一方で、特許失効後は後発品への速やかに置き換えるが行われた。これによって、新薬のライフサイクルを通じて得られる収益の大部分が、特許期間中に前倒しされ、次の新薬開発への再投資をより早期に行うことが可能となった。問題は、2018年以降に行われてきた近年の薬価制度改革だ。新薬創出等加算の見直し、薬価再算定の強化、毎年改定の実施など度重なる薬価制度改革により、一部の新薬特許期間中の薬価が維持できないにもかかわらず、特許失効後は、後発品への速やかな置き換えを求め、その結果、研究開発投資を十分に回収できない状況になりつつある。

様々な改革を短期間に行った結果、新薬創出等加算は、新薬創出サイクルを促進する政策として今や、十分に基準をしていないと考える。

次のスライドお願いします。このまま毎年薬価改定を継続すると薬価は倍速で下落していくことになる。その結果、様々な問題を引き起こす。まず、新薬価の急速な下落は、研究開発の投資力を削ぐことになる。また、日本の低い薬価が、中国などの他国に参照される懸念から、日本で早期に上市を見送ったり、遅らせたりすることにつながりかねない。さらに、将来の新薬価格だけでなく、将来の後発品の薬価水準にも影響し、安定供給に支出さらなる支障をきたす可能性もある。

次のスライドお願いします。PhRMAが重要と考える課題が2つある。1点目は、市場実勢価格に基づく改定だ。現行制度のもとでは必然的に発生する薬価差を是正するために薬価改定が行われている。特許期間中のみの新薬の定期的に市場実勢価格改定を行うというのは日本独特の仕組みだ。近年の制度改革により、実勢価改定の影響が拡大しており、日本市場への投資インセンティブにネガティブな影響を与えている。

2点目は、市場拡大再算定だ。新薬創出等加算の対象品目であっても、市場拡大再算定の対象品目となれば、大幅な薬価の引き下げを受けることがある。現行ルールでは効能追加が再算定を引き起こす要因となることから、効能追加への投資判断を困難にしている。また、再算定対象品目の類似薬も道連れとなるため、これは不合理であり、予見性も欠いている。

スライド11をお願いします。制度改革を行う際は、改革を通じて目指すべき姿を定めることが必要だと考える。PhRMAが考える目指すべき姿をスライドに示す。1点目は、国際水準と同等の一桁台の市場成長率が期待できること。現在は日本のみマイナス成長が続いている。2点目は、特許期間中の新薬の80%が、特許失効までの間、薬価が維持されることだ。新薬創出等加算の導入当初はこの姿だった。現在は半数の新薬の薬価が引き下げられている。3点目は、限られた資源の効果的、効率的な配分を行うための国民的議論が展開されることだ。現在は官民の戦略的な対話は不十分と考える。

12ページをお願いします。今後の改定に向けてPhRMAの意見を述べる。まずは2023年度の中間年改定に対する意見だ。直近5年間を振り返ると、2年に1回の薬価改定に加えて、2019年の消費税改定や、2021年の中間年改定が行われたこともあって、5年連続で薬価改定が行われている。5年連続の薬価改定の影響が出始めていることを考えると、2023年度の中間年改定は見送るべきではないかと考える。

中間年改定について議論するのであれば、過大な薬価差が生じている品目に限定し、特許期間中の新薬や安定供給に支障が生じる品目への影響を最小化すべきではないか。

最後のスライドになる。2024年度以降の改革に対する意見を述べる。まず、特許期間中は薬価が維持され、特許失効時に大幅に薬価が引き下げる制度に再構築すべきだと考える。また、市場拡大再算定は、類似薬への適用も含め、そのあり方を抜本的に見直すべきだ。これらの改革で、日本市場は成長を取り戻したことになる。特許失効後は後発品やバイオシミラーへの置き換えを着実に進めることにより、薬剤費の伸びを適正化することが可能となる。また、薬剤価格と卸、医療機関、薬局の流通マージンをそれぞれ分けて定めるなど、過剰な薬価差や薬価差の偏在が生じない。仕組みへの移行を検討すべきと考える。

遠藤座長:最後に欧州製薬団体連合会からお願いします。

【欧州製薬団体連合会(EFPIA) 岩屋孝彦会長】


欧州製薬団体連合会会長の岩屋です。本日はこのような発言の機会をいただき、誠にありがとうございます。EFPIA会員企業の売り上げは全日本市場の26%、近年上市された新薬に占める割合は28%となっている。

2016年頃に始まった高額薬剤にかかる薬価の議論や、2018年度の薬価制度抜本改革から現在に至る議論により、日本の薬価制度は大きな変革の波にさらされている。今回、有識者検討会で議論する医薬品を迅速かつ安定的に供給するとの主旨を考えた場合、この一連の制度改革との関連性について注意深く分析をする必要があるだろう。とりわけ、医薬品の迅速な供給という観点で申し上げれば、昨今話題のトラック・ロス、ドラッグ・ラグの問題は中長期的に日本国民の健康長寿を考えたときに必ず早急に解決しなければいけない課題だと考えている。

EFPIAが考える薬価制度のあるべき姿を申し上げる。まず、制度によって決定される薬価に高い予見性があることが必要だ。また、革新的な医薬品が適切に評価され、他国に先駆けて日本の国民に革新的な医薬品を早期に届けることができる魅力的な市場にすること。そしてそれを実現する制度は、持続可能な仕組みであることが重要だと考えている。日本では新薬が製造販売承認後に、比較的速やかに薬価収載され、償還される仕組みとなっている。これは他国の市場と比べて非常に大きな魅力である。この点についてはどのような形の制度設計であっても、堅持されるべきと考える。

EFPIAジャパンは、日本の薬価制度や市場環境について調査を実施した。その結果をスライドに示す。理事会構成社10社を対象に9月前半に調査を行ったもので、10社全てから回答を得た。主な質問は、2018年の薬価制度抜本改革以降、各社の開発品目について日本の薬価制度または市場環境が日本市場の上市に影響を与える事象となったかを聞いた。事象として三つを想定した。1つ目は日本での上市を中止したもの。2つ目は、日本市場での上市を延期ないしは遅延したもの。3つ目は、これら状況に至らないまでも、社内で中止や延期の可能性について実際にグローバル本社と議論したかをたずねた。

1つ目の上市中止の事象だが、10社中4社が実際にあったと回答した。関連質問として、薬価制度抜本改革以前と比較して、増えたかどうか回答を求めたが、これについては具体的な回答は得られなかった。2つ目の上市延期の事象は10社中6社で回答があった。また6社全てが、「薬価制度の抜本改革前と比較して増えた」と回答した。3つ目の上市中止・延期に至らなかったもののグローバル本社と議論したかについては10社中10社が回答。うち9社は、このような事象が以前からあったものの、薬価制度抜本改革前と比較して増えたと回答した。

いずれの企業とも日本で長い間、根を張って医薬品を供給し続けている会社からの回答だ。昨今のドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスの分析を眺めれば、日本法人を持たない新興バイオファーマのバイオ医薬品について日本市場の導入が行われていないことが主な原因という見方もあるが、実際は老舗と呼ぶような、歴史が長く活動している外資系製薬会社においてもこのような傾向が見られ始めているということについては注意深く考える必要があると考える。

次のページをお願いします。欧州に本社を構えるグローバル医薬品企業から見た、日本市場の重要性に関する調査を行った。その結果、10社中8割の会社が「やや低くなった」または「低くなった」と回答した。要因についても回答を得た。その結果、薬価収載時と薬価収載後の薬価を比較した製品のライフサイクル上の将来価値と予見性が下がっていることが大きな原因であると考えられた。具体的には、現在の制度では開発段階で新薬創出等加算が取得できるか予見が困難であること。新薬創出等加算が取得できなければ、今の制度では薬価は毎年下落し、将来価値が著しく下がる。それが先にわからないというのは非常に投資しづらいということにつながる。また、中間年改定については、2021年改定時のように対象範囲で予見性に欠ける意思決定が行われたことに海外のグローバル本社は懸念していた。そもそも毎年薬価改定は日本市場の将来を可能な限り予測しようとすると悲観な状況にならざるを得ない。加えて、このように、日本市場の重要性が相対的に下がり続ける中で、例えば、14日間処方日数制限ルールなど、日本独特のルールが存在し、場合によっては日本市場専用の製剤開発が必要となるといったことが難しさに拍車をかけている。

一般的に製薬会社は、ある化合物が臨床試験に移行し、開発する段階において、その物質の開発を継続するかどうかで投資判断を行う。この投資判断には、この物質が製品として上市されるタイミングからライフサイクルを終了するに至るまでの全体の価値が重症な要素となる。このため、世界各国でビジネスを展開する製薬会社は、各国での薬価収載時から特許期間終了に至るまでの薬価ないしは患者数を想定し、各国の売上を算出する。その薬価想定においては、相互に参照される国際薬価の影響を考慮し、最終的に各国における上市の可否や上市の時期を決定する。先ほど申し上げたいくつかの問題点に起因して、日本の想定薬価が低く見積もられる場合は、日本の価格を参照する他国の市場におけるビジネスを優先するため、あえて日本で上市しない判断や、そもそも日本での投資回収の見込みができないと判断し、国際共同治験への組み入れられないなどの事象が起きている。治療必要とする日本の患者への医薬品の迅速かつ安定的に供給するための薬価制度が必要であると考えている。

次のページをお願いします。このスライドは海外に先行して革新的新薬を呼び込める薬価制度の整備を示したものだ。このスライドで示した通り、各国で実施されている企業主導の臨床試験数は日本の585に対して、米国5567、英国1207、ドイツ1454、フランス1108で、中国の960よりも少ない。先ほど説明した通りだが、医薬品の開発には10年から14年の時間を要す。つまり開発早期の段階から、グローバルの開発戦略に日本を含めることができないと日本の患者に新薬を届けることができない。我々EFPIAジャパンは、他国に遅れることなく、日本の患者に新薬を届けるためには、安定的で予見性のある薬価制度が必要であると今一度申し上げるとともに、いくつかの提案をさせていただきたい。

次のスライドお願いします。ここからは、現行の薬価制度を新薬品の薬価算定と上市後の薬価改定に分け、その課題について論じる。まず、新規医薬品の薬価算定における大きな課題のうち、品目によって欧米主要国の価格と比較して著しく低薬価となることがある。これは、第1回(前回)の検討会で菅原先生が示した図でも明確であるが、実際の算定結果だけでなく、開発早期から後期にかけて、各段階で企業が想定する薬価に関しても同様のことが言える。このスライドに示したように、日本の薬価が低くなる場合には、中国をはじめとした日本の薬価を参照して自国の償還価格を決定する他の国々への影響を避けるため、日本での上市を遅延させる、あるいは中止すべきではないかといった議論がグローバル本社において行われ、上市を見送る事象が非常に増えている。この課題認識のもとEFPIAジャパンは、欧米に先んじて日本で上市する動機付けとなる仕組みの構築が必要ではないかと考えている。

次のページをお願いします。画期的・革新的な新薬を早期に日本市場に呼び込む仕組みとして先駆的医薬品指定制度が設けられているが、米国のブレークスルーセラピー制度、欧州のプライム制度と比較した場合、日本の先駆的医薬品指定制度の指定品目数は大幅に少ない。また、日本における直近4年間の指定品目数も年々減少傾向にあり、昨年(2021年)はわずか1品目にとどまった。対象要件やプロセスの厳しさの観点で企業が利用を躊躇する事象が多い。また、薬価で得られるものは希少疾病用医薬品と同等の10%加算と新薬創出等加算にとどまる。これでは十分とは言えず、企業として積極的に活用したいと考える仕組みになっていない。EFPIAジャパンとしては、この制度をより利用しやすいものへと改善し、欧米並みにして指定数を拡大するとともに、薬価の魅力を強化し、革新的新薬を欧米より先んじて、日本で上市することに対する動機づけとなる環境を整えていくことが、日本市場の魅力を高めることになると提案する。

次のページをお願いします。続いて上市後の薬価のあり方に関する課題認識について述べる。スライドに英独仏3カ国の上市後の薬価を見直す仕組みを示した。いずれの国においても、特許期間中の新薬の薬価が定期的かつ強制的に引き下げる仕組みを制度として設けている国はない。一方、日本においては市場実勢価格に基づき、特許期間中であっても薬価が下落する仕組みとなっている。新薬創出等加算制度によって、一部の新薬の薬価は維持されるが、18年度の薬価制度抜本改革以降、企業要件の厳格化に伴い、加算の対象のみならず、特許期間中であっても、薬価が下落する品目が増加している。さらに中間年改定は、薬価の下落をさらに加速するものであり、実施の是非を含め、慎重に検討するべきであると考える。

このような特許期間中にも関わらず、多くの新薬の薬価が早期に下落する状況は、欧米主要国では見られない。日本市場の魅力を著しく毀損し、開発投資の判断においても、日本の優先順位に悪影響を与えている。EFPIAジャパンとしては、欧米同様に、日本も、特許期間中の医薬品の薬価が基本的に維持される仕組みとすることで、日本市場の優先順位を向上、維持することが重要であると考えている。

次のスライドお願いします。これまで上市後の薬価は、市場実勢価格が医薬品の価値に基づき形成されるという考え方に基づき、市場実勢価格加重平均値調整幅方式により改定されてきた。しかしながら、この方式が導入された22年前と現在の市場環境を比較すると、医薬分業の進展、医薬品のモダリティの変化、ボランタリーチェーンの形成など、多くの変化がある。このため医薬品の価値が正確に市場実勢価格に反映されているかどうかは、今日的な視点で改めて検証を行うことが必要であると考える。薬価差を放置すれば、患者負担、保険料負担、公費負担がいたずらに高止まりする。それらを解消する考え方のもと2021年4月に薬価中間年改定が導入されたが、その直後の薬価調査においても、薬価差の縮小は認められていない。このことは、薬価差益が実態として保険医療機関や保険薬局の重要な経営資源となっており、医療経営あるいは安定的な医療提供に一定の役割を果たしているとも言える。単純に解消すべきものなのかどうなのかを含めて慎重に議論すべきではないかと考える。

このほか市場拡大算定は効能追加に対する意欲を低下させており、そのあり方や仕組みをさらに検討する必要があると考える。また、市場拡大算定の類似品への適用、いわゆる「友連れ」は、企業にとっての薬価の価値を著しく毀損するもので廃止を含めた抜本的な見直しが必要であると考えている。

これら上市後の薬価を見直す仕組みが国民皆保険制度の持続性を高めることに一定の役割を果たしている側面もあるが、過度に薬価を抑制することによる弊害も多いため、従来とは全く異なる発想により、上市後の薬価のあり方を考える時期に来ているのではないかと考えている。EFPIAジャパンとしては、欧州の事例などを参考にしながら、医薬品のカテゴリーごとに固定マージンを導入する、あるいは購入価格で保険償還する制度の導入の可能性、あわせてイギリスのVPAS等、価格を引き下げるのでなく、企業の得た利益の一部を払い戻すといった仕組みの検討など、幅広く考える余地があると思う。欧州に母体を持つ我々の特性を生かし、そうした議論を積極的に参画して貢献していきたいと考えている。以上でございます。ありがとうございました。
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