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薬事検討会 国際共同P3前に企業責任で複数人種での安全性確認を条件に「日本人P1データ不要」も一考

公開日時 2023/08/08 05:45
厚労省の「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」は8月7日、国際共同治験を実施する場合の日本人第1相試験の要否について議論を行った。日本人第1相試験は国際共同治験に参画する日本人の安全性の観点から実施の必要性が指摘される一方で、日本だけで追加実施が必要となるケースもあり、治験の遅れにとどまらず、ドラッグ・ロスのリスクにつながることが指摘されている。成川衛構成員(北里大薬学部教授)は、日本人での安全性確認は「フェーズ3でやるべき」と指摘。「フェーズ3前に複数の人種間で安全性やPKプロファイルの違いがないことを企業の責任できちんと確認するのであれば、必ずしも第1相試験を日本でやらなくてもいいくらいの方向性を出してもいいのではないか」と提案した。このほか、オーファンドラッグの扱いを変えることや、類似薬を踏まえて対応を明確化するなど、制度設計を明確にする必要性を指摘する声があがった。

◎国際共同治験における日本人P1データは「現状も一律に求めず、総合的に判断」

創薬環境が変化し、新興バイオ医薬品企業がシーズを創出するケースが増加。このため、大手企業が導入した後に日本での開発が検討され、大規模国際共同治験を実施する前に、日本人の第1相試験を実施している場合が多く、結果として第3相試験の開始の遅延や、日本の開発不参加の恐れがあることが指摘されている。このため、厚労省はドラッグ・ロスへの対応として、国際共同治験実施前の日本人第1相試験の必要性を議題にあげた。

日本人の第1相試験の要否をめぐっては、2007年の課⾧通知で「原則として日本人の第Ⅰ相試験が必要」とされたが、14年の事務連絡では、「日本人での第Ⅰ相試験を実施しないことが許容されうると考えられる場合の例」が示されており、「総合的に検討したうえで判断」されている。実際、PMDAに相談または治験届が提出され、日本人第1相試験の実施が議論となったのは2018~22年度の間に40件あり、実際に必要と判断された例は3割弱の11件あった。一方で、欧米では国際共同治験参加前に第1相試験の実施を求められるケースはなく、実際に自国・地域だけで第1相試験を追加実施した件数は日本で突出して多い状況にある。

PMDAの田宮憲一執行役員(新薬審査等部門担当)は、「一律に日本人第1相試験の実施を求めてはいない」と説明。民族差が推定されるケースや明らかにないケースなどでは、日本人第1相試験を求めないケースもあり、「具体的な説明をいただいたうえで、個別に判断させていただいている」と説明した。

◎柏谷構成員 安全性説明できればP1実施せずとも国際共同治験参加を「原則に」 共通認識を

製薬業界代表の柏谷祐司構成員(日本製薬工業協会薬事委員会委員長)は、「日本の薬事行政の歴史から考えても、日本人での安全性について論ずることなく、一足飛びにMRCT(国際共同治験)参画のために日本人フェーズ1試験を不要とするものではない。我々企業側の人間にとっても、日本人の安全性があることは極めて重要であると考えている。07年の課長通知以来実施されているPMDAの審査そのものに異論を唱えるものではない」と強調した。そのうえで、16年の事務連絡において日本人で第1相試験を実施しないことが許容される例が示されるも、「限定的であり、許容される場合についても業界と行政で共通認識がないというところが問題点」と指摘した。

日本人第1相試験の要否をめぐるPMDAの相談にも時間やコストがかかり、結果として国際共同治験に間に合わない、もしくは参加できず、開発を断念するケースもあると説明。また、こうした時間の遅れを見据え、相談せずに第1相試験に着手する企業もあるという。そのうえで、利用可能なデータから安全性・忍容性のリスクが説明でき許容・管理可能な場合には、日本人第I相試験を実施せずとも、国際共同治験に参加できる考え方を「原則」とすることを提案。これまでの通知を整理して一本化した通知の発出などを求めた。

◎PMDA・田宮執行役員 日本人P1実施の必要性「要素を示すことは可能」 企業に具体的説明も求める

PMDAの田宮執行役員は、「考え方は基本的には同じだと思っている。実際の例において、私どもが非常に判断に苦慮する場合がある。相談者あるいは製薬企業に色々な情報、あるいはその考え方の説明を求めたときに、どうしても具体的でないケースも多々ある。しっかりと説明していただくということがやはり重要なポイントになるのではないか」と述べ、安全性についての説明責任を企業側に求めた。

日本人第1相試験の必要性を判断するにあたり、医薬品の特性、対象疾患、開発ステージなど様々な要素があるとして、「一律に非常に簡単な目安を示すことは難しいかもしれない」としたうえで、「日本人第1相試験が必要な場合、必要とせずに国際共同治験に参加可能な場合に考慮される要素を示すことは可能だと思う。製薬企業の開発中の品目なのでどれくらい具体的に書けるかは検討が必要だが、バックグラウンドがある場合には日本人第1相試験を要せずとも国際共同治験に参画できる事例をできるだけ出すということで、開発の参考にするということはあり得るのではないか」との考えを示した。

◎オーファンドラッグでは「原則必要ないのでは」の声も

国際共同治験を実施する場合に、日本人第1相試験を“原則実施しない”として、必要なケースを示す必要性があるか、などに議論の焦点が当たった。

成川衛構成員(北里大薬学部教授)は、日本人の第1相試験の実施しないことによる「フェーズ3の国際共同治験に参加する日本人参加者のリスク」をあげた一方で、実施を求めることで、「特に海外発の新薬が日本市場に入って来なくなるかもしれないというリスク」の2つのリスクがあるとの見方を表明。「異質なリスクではあるが、両者のバランスの上で議論しないといけない」との考えを表明した。一方で、「小規模なフェーズ1の試験をやることが、フェーズ3に参加される日本人被験者の方のリスクの軽減をどれくらいつながるのかという意味でのリスク軽減にどれくらいつながるのか」と問題提起した。

花井十伍構成員(特定非営利活動法人ネットワーク医療と人権理事)は、「極論すれば、医薬品は市場に出て、ある程度こなれたところで日本に導入した方が安全性は有利だ。それが有効で、非常に効果の高い薬品であれば遅れることによって逆に患者さんの命が奪われるというジレンマがある」と指摘した。そのうえで、「安全に妥協するするというのは、“うん”とは言えないが、疾病のリスクとのバランスを考えると、ブロックバスター的なものまで(日本人第1相試験をやらないでも)いいとは言えない。ただし、一定程度オーファンドラッグに関しては、デフォルトで(日本人第1相試験は)なしでいいと言ってもいいのではないか」と述べた。

小川千登世構成員(国立がん研究センター中央病院小児腫瘍科長)は自身の経験から、海外の新興バイオ医薬品企業に相談内容が的確に伝わらず、結果として新薬開発に至らなかったケースを紹介。「少なくとも患者数の方のレベルの数を明確に出していただくことで、やらなくてもいいというラインがもう少し今と違ってくるのではないかと思っており、非常に大事だと思っている」と述べた。

成川構成員は、「一つの提案として、フェーズ3をやるときにはフェーズ1、2を色々な国、人種で試験を実施しているはずだ。例えば白人と黒人と、体格も様々だが、複数の人種間で安全性やPKプロファイルの違いがないことを企業の責任できちんと確認するのであれば、必ずしも第1相試験を日本でやらなくてもいいくらいの方向性を出してもいいのではないか」と主張した。また、「日本の医療の中で薬の有効性・安全性を確かめるべきというのはその通りだが、それはフェーズ3でやるべきだ」との考えも示した。

◎日本人P1スキップで「薬物動態解析の考え深まる」 柏谷構成員

こうした見直しにより国際共同治験が増加するかを問われた業界代表の柏谷構成員は、「明言は個人的にはできないが、第1相試験が足かせとなっており、それが取れると必然的に数は増えていくのではないか」との見解を表明。日本人第1相試験を実施しない代わりに、臨床薬理試験などに注力する考えも示した。中村秀文構成員(国立成育医療研究センター開発企画主幹)の「薬物動態解析をやらないとかそういう方向にはいかないか」との念押しに対し、「そういう方向にはいかない。逆にその考え方が深まっていくと考えている」と述べた。

◎英語でのコミュニケーション不足の指摘やPMDAの体制強化求める声も

この日の議論では、英語など言語によるコミュニケーション不足を指摘する声や、PMDAの人員体制強化などを求める声があがった。厚労省は検討会での意見を踏まえ、次回の検討会に対応案を示し、議論を深める方針。


◎未承認の小児抗がん剤で成人承認済が16品目 小川構成員「このまま承認できるか検討を」

このほか、この日は小児用医薬品の国内開発・承認状況の分析も報告された。抗悪性腫瘍薬では、成人で承認されているものの、小児効能では未承認である品目が16品目あるとのデータも示された。小川構成員は、「日本人で成人承認済みということは、日本人の安全性データ、PKデータ等がある程度ある。米国で小児がんに関して承認済みということは、そのがん種に対しての有効性データもある」と指摘。「もうこれ以上の試験を何もやらないでこのまま承認にしていただくということを検討いただける余地があるのではないか。早急にすぐ使える体制に持っていくことができないかどうかを、ぜひご検討いただきたい」と要望した。


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