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レカネマブの介護費用軽減、薬価算定時に評価せず 費用対効果で議論も診療・支払各側から慎重論

公開日時 2023/10/19 05:01
中医協費用対効果評価専門部会・薬価専門部会合同部会は10月18日、アルツハイマー病治療薬・レカネマブ(製品名:レケンビ)の薬価算定に際し、補正加算について、既存ルールにしたがって有用性などを評価することを診療・支払各側が了承した。エーザイが提出した薬価基準収載希望書には、介護費用の軽減についてのデータが含まれていたが、薬価算定時には評価されないことになる。介護費用の軽減については費用対効果評価の枠組みで検討されるが、この日の合同部会では「技術的・学術的な課題」が指摘され、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)が「引き続き研究を進める必要がある現状を踏まえると、介護費用にかかわる制度の見直しは慎重に判断すべき」と述べるなど、診療・支払各側から慎重論があがった。

現行の薬価制度では、画期性加算・有用性加算は臨床上有用な新規の作用機序や、類似薬に比べ、高い有効性又は安全性などの項目を定量化して評価されている。介護については評価が困難で、同剤に限った特例的な取り扱いを決めなければ、評価されないことになる。一方で、同日の合同部会では、「費用対効果評価の枠組み」で検討することも診療・支払各側が了承した。

◎公的介護費用の評価「技術的課題」に加え、「学術的課題」も

ただ、介護費を含む分析が製造販売業者から提出されたことはこれまでなく、費用対効果評価による評価にもハードルがある。参考人の福田敬氏(国立保健医療科学院保健医療経済評価研究センター)は、「仮に、製造販売業者から公的介護費用を含む分析が提出された場合、医療費のみの分析と同様のプロセスにより公的分析を実施することになる」との認識を表明した。なお、現行の費用対効果評価制度では、製造販売業者による分析が提出された後、公的分析として、6か月以内に分析レビューと再分析が行われている。

福田参考人は、「公的介護費用の推計に関する技術的な課題」に加え、「公的介護費用を費用対効果評価制度に含めることの学術的な課題」があると指摘した。介護データベースを活用して、公的介護費用を推計する場合には、認知症の重症度として活用される「MMSE」などがレセプト上に含まれていない。このため、独自に介護費用推計を行うことが困難な場合が想定され、この場合の対応方法について検討が必要となる“技術的課題”があると指摘。さらに、「公的医療よりも幅広い費用を含める場合、その範囲をどこまでとすべきか、どのように推計するか、その際にどのような問題が生じるかなど、さらなる研究等が必要」などとして、“学術的な課題”もあると説明した。

これに対し、診療・支払各側から「研究」への期待の声があがったものの、制度への反映には慎重論があがった。診療側の長島委員は、「介護費用の推計についてなど、まだ研究を進めるべき技術的な課題を数多くあり、引き続き研究を進めていただくものであり、今後の研究の進展に期待している。特に介護データベースに関しては、現時点で使用経験がないとのことだが、介護データベースを用いることで、初めて明らかになる課題もあるかと思う」と期待感を示した。そのうえで、「様々な課題があり、引き続き研究を進める必要がある現状を踏まえると、介護費用にかかわる制度の見直しは慎重に判断すべき」と述べた。

診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)も、「現状では介護データベースの利用経験が少なく、公的分析での使用経験がなく、技術的な課題についての整理も十分できる状況ではないと考える。課題の整理とともに、引き続き研究を行う必要がある」と指摘。「それらがある程度クリアされてから、評価に組み込んでいくことも一つ」との考えを示した。

支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も、「技術的な観点からもかなり困難な作業になることが予想されるので、分析を進めようということであれば、体制を含めて慎重対応、慎重な検討が必要だ」と指摘した。

◎市場拡大再算定 「今の段階で本当に適したルールを結論付けるのは難しい」 患者増はNDBで対応可

同剤の薬価算定方法は、類似薬効比較方式または原価計算方式を通常通り、薬価算定組織で判断することも了承された。年間1000億円超となる可能性があることから、収載後の価格調整(市場拡大再算定)についても議論された。

高額医薬品として、同剤に限った市場拡大再算定の特例が導入された例としては、新型コロナ治療薬・ゾコーバがある。厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は「急な感染拡大により短期間で急激に投与対象患者数が増大することにより、現行ルールでは引き下げになった場合に引き下げ率の上限値にすぐに達してしまうこと、また市場規模を把握する手段であるNDBでは急激に患者が増大してからデータの把握、再算定の適用までに時間を要することが課題であり、その課題解決のために特例的な対応を検討したもの」と説明した。

一方で、レカネマブについては「認知症治療薬で、投与対象患者数が増大する可能性はあり得るが、短期間での急激な増加は考えにくい。引き下げ上限値まで達してしまうようなことにはならないのではないか。また、増大したとしても通常のNDBによる把握で迅速な対応は可能と考えられる」と述べた。一方で、使用可能な医療機関の体制や使用実態の変化に加え、「投与前の患者選択のために現時点でPETや脊髄液検査を用いることになると考えているが、より簡便な検査方法が使用可能なる等の状況の変化により、患者数が増加する可能性もある。また、患者あたりの投薬期間がどれくらいあるかによって使用される薬剤の量も変わってくる」として、「これらの状況を踏まえながら考える必要があり、今の段階で本当に適したルールを結論付けるのは難しいのではないか」と述べた。

◎診療側・長島委員「“改めて議論”をルール化」 支払側・松本委員「個別の検討は不可欠」

これに対し、診療側の長島委員は、「現時点で価格調整ルールのあり方を検討するのは困難だ。市販後に全例調査が実施されるので、収載後の状況を把握しながら、現時点においては、一定期間経過後に必要に応じて、改めて議論することをルール化しておくことを提案する」と述べた。診療側の森委員は、「使用状況の変化により、本剤の市場規模は収載時の予測よりも大きくなる可能性が否定できないと考えている。また、市販後のARIAの発現割合などの影響もあり、どのように増加していくのか、現状では推計が困難な部分があり、この時点で何かルールを決めることも難しいため、収載後の価格調整ルールは、必要なタイミングで議論や見直しができるようにしておくことが必要と考える」と述べた。

一方、支払側の松本委員は、「収載後に患者数が上振れすることや、投与期間が長期化する可能性が否定できず、保険財政に極めて重大な影響を及ぼす懸念がある。市場拡大再算定について、個別の取り扱いを検討することは不可欠であると考えている」と指摘した。支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「投薬そのものではなく、周辺状況も考慮できるような取り扱いを考えていただきたい」と述べた。

このほか、同様のアルツハイマー病治療薬の上市が見込まれることを問われ、安川薬剤管理官が「仮に(MCIなどを適応とするアルツハイマー病治療薬が)承認される段階になってくると、本剤も含む全体的な市場規模予測を考えることになろうかと思う。ただ、承認内容や必要な安全対策の内容によっても(市場規模が)変わり得るものと考えている。そういった薬剤が出てくる段階で改めて整理が必要と認識をしている」と述べる場面もあった。
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