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新薬創出等加算 創薬環境整備、ドラッグ・ラグ解消へ 革新薬評価の“シンプルな形”も一考 中医協

公開日時 2023/10/19 05:05
厚生労働省は10月18日の中医協薬価専門部会に、新薬創出等加算について、導入当初からの目的だった、「薬価制度の観点からの創薬環境の整備、ドラッグ・ラグの解消」を踏まえた見直しについてを俎上に上げた。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「結果として、業界が想定した通りに、未承認薬・適応外薬の解消ができないということは、業界において、別の要因があったと考えるべきではないか」と指摘。「(新薬創出等加算は)革新的な新薬は評価するという基本に立ち戻って、シンプルにできるところがないか、検討していくこともが考えられるのではないか」と指摘した。一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「基本的には新薬創出等加算の枠組みを維持したうえで、保険財政の持続可能性の確保とイノベーションの評価が両立できる仕組みに改善すべき」と述べた。

◎診療側・長島委員 未承認・適応外薬の解消進まず「別の要因があったのでは」

厚労省はこの日の論点として、新薬創出等加算が試行的に導入された2010年度当時の目的、薬価制度抜本改革で新薬創出等加算の見直しがなされた18年度改定での経緯を踏まえた検討の必要性を指摘。導入当初から、「薬価制度の観点からの創薬環境の整備、制度導入当初の目的であったドラッグ・ラグの解消の意義」を踏まえた検討を求めた。

診療側の長島委員は、「新薬創出等加算の導入およびその見直しの際に、これで開発が促進されるかどうか、薬価専門部会や総会において何度も確認させていただき、その回答は“する”ということだった。結果として、業界が想定した通りに、未承認薬・適応外薬の解消ができないということは、業界において、別の要因があったと考えるべきではないか」と指摘。「2回の見直しを経て、だいぶ精緻化が進んできたが、革新的な新薬は評価するという基本に立ち戻って、シンプルにできるところがないか、検討していくこともが考えられるのではないか」と述べた。

診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「医薬品のサイクルなど、企業の予見性をさらに高め、ドラッグ・ラグ/ロスの解消につながるよう、もう少しシンプルな形に見直すことや、メリハリをつけていくことは一つの対応と考える」と述べた。

◎支払側・松本委員「保険財政の持続可能性、イノベーション評価両立できる仕組みに改善すべき」

一方、支払側の松本委員は、「そもそも製薬業界が財政中立で薬剤費の上昇を抑える前提で提案された内容がベースになっていると認識している。その後、革新的な新薬の開発状況等の企業努力を反映したものに修正されたが、その考え方は必ずしも間違ってはいないと感じている。基本的には新薬創出等加算の枠組みを維持した上で、保険財政の持続可能性の確保とイノベーションの評価が両立できる仕組みに改善すべきだ」と述べた。

◎企業指標・区分 ベンチャー企業を無条件に区分Ⅰに診療・支払各側から慎重論

製薬企業が企業規模の影響を受けるとして撤廃を求めているのが「企業指標・企業区分」だ。20年度薬価制度改革では、革新的新薬の収載実績の有無で評価する項目を企業指標に追加する見直しがなされている。ただ、ただ、現行ルールで、「区分Ⅲに分類された場合であっても、区分Ⅱ」という特例が適用される医療系ベンチャーで、「区分Ⅰ」となる企業はないなど、ベンチャーやスタートアップで薬価が維持されにくいことが指摘されている。

診療側の長島委員は、「ベンチャー企業やスタートアップ企業であることで、無条件に区分Ⅰとすることは、少し飛躍があるように思う。新薬創出等加算の趣旨である革新的新薬の創出や、ドラッグ・ラグ対策等の評価が骨抜きにならないように配慮しつつ、どのようなベンチャー企業であれば評価に値するのか検討が必要」と指摘。支払側の松本委員も、「まず、公平性の観点が最も重要だ。薬価が維持されにくいからということではなく、イノベーション努力に対する評価が不当に低いということであれば、企業指標のポイントで考慮することも考えられるが、ベンチャーだからという理由だけで一律に企業区分Ⅰにすることが果たして妥当なのかどうかについては、長島委員と同様の意見だ」と述べた。

一方で、診療側の森委員は、「医療系ベンチャーやスタートアップ企業は厳しい状況であり、企業規模の影響を受けやすくなっているように感じる。不利になりすぎないよう、何かしらの見直しや配慮があっても良いのではないか」と指摘。「企業要件、企業指標が、企業にとってうまく機能していないようであれば、撤廃も含め、企業の開発促進をより促す形に改めることも一つと考えるが、10年度の試行的導入当初から未承認薬や適応外薬の解消のために、企業を促していた側面もある」として、業界の意見を踏まえた検討を求めた。支払側の眞田享委員(経団連社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)も、「企業規模によって不利になるような現状があるのであれば、制度上の工夫をするということは必要ではないか」と述べた。

◎石牟禮専門委員「企業指標、企業区分は、その役割を終えているのではないか」

業界代表の石牟禮武専門委員は、医薬品の研究開発が多様化する中で、「一定の指標で企業の優劣をつけるということは、ある程度の限界があるのではないか」と指摘。「もはや長期収載品からの収益は期待できない状況で、新薬から得られる収益を次の新薬の創出に向けて回していくサイクルを加速させなければ、企業は存続できないという危機感を持っている。相対評価によって決められる企業区分で、75%の企業の品目では薬価が維持されないという仕組みは、私どもにとっては、むしろディスインセンティブが与えられていると感じている」と主張。「新薬創出等加算が収載された新薬の革新性を評価する仕組みとなったことにより、企業指標、企業区分は、その役割を終えているのではないか。こういった新薬を開発しているという結果をもって評価していただければ十分ではないか、と考えている」と主張した。

◎平均乖離率超の減算に石牟禮専門委員「致し方ない」

企業区分が区分Ⅰであっても、現行の計算式では平均乖離率以上であれば薬価が維持されない仕組みとなっている。2023年度改定に際し、新薬創出等加算品目の9割以上が平均乖離率以内で、半数は平均乖離率の半分以下となっている。

診療側の長島委員は、「乖離率には、市場での評価も反映されていると理解すれば、平均乖離率を超えている品目について薬価を下げていく現行の対応方法は一定の合理性があると考える」と指摘。支払側の松本委員も、「少なくとも平均乖離率を超える品目の場合、それなりに値引きをして販売されているということが明らか。それでも薬価を維持する妥当性については乏しいと言わざるを得ない」と述べた。

一方で、診療側の森委員は、「区分2、区分3を含めて、もう少し薬価が維持されるよう計算式の見直しや配慮が必要」との見解を表明。「メリハリをつける観点から、高く売られているものについては薬価を維持しやすくする一方、安く売られているものについては加算額を減らすといった形に改めることも一つ」と提案した。

石牟禮専門委員は、平均乖離率を超える品目があることについて、「医薬品の特性や競合状況、取引量など複数の要因があると推察する」として、「結果として現在のルールにおいて、平均乖離率を超えた品目に減算という仕組みが設けられていること自体は、元々業界が当初を提案した考え方を踏まえると、致し方ないと専門委員としては感じている」と述べた。

◎支払側・松本委員 毎年改定時の累積額控除「特許期間中の薬価引き下げ猶予の条件」

品目要件をめぐっては、「現在の内容で、革新性、有用性の高い医薬品はカバーされているように思う」(診療側・長島委員)、「特に真に革新性や有用性のある医薬品の範囲を広げることに異論はない」(診療側・森委員)と診療側で意見が割れた。

支払側の松本委員は、品目要件の見直しについて「ドラッグ・ラグ/ロスが生じたのであれば、患者アクセスを確保する観点で議論をすることは否定しない」としたうえで、「評価と適正化はセットで議論すべき」として、新薬創出等加算の累積額控除とセットで議論することを求めた。松本委員は改めて、「後発品が上市された場合に速やかに先発品の市場を譲るという基本的な考え方の下、年2回ある後発医薬品の収載時に累積額を控除することが最も公平だと考えている。少なくとも毎年の薬価改定時に累積額を控除することは、特許期間中に新薬の薬価引き下げを猶予する条件だ」と強調した。

一方、診療側は「薬価改定は、2年に一度の診療報酬改定と同時期に行うことが基本。最近の毎年改定がドラッグ・ラグ/ロスに与えた影響も考えれば、中間年における累積額控除については、慎重に検討すべき」(長島委員)、「現状の2年に1回のサイクルで行われているもので、影響もある程度大きいため、慎重に見て影響などを議論しつつ、新薬の薬価の維持とあわせて検討していくべき」(森委員)と累積額控除のタイミングの見直しに慎重な姿勢を示した。

◎承認から収載までの期間短く 診療側・長島委員「日本の予見性の高さ、見事に表れている」

診療側の長島委員が日本と欧米の承認から薬価収載までの日数の比較を求めたことを受け、この日の薬価専門部会ではデータも示された。米国研究製薬工業協会(PhRMA)の分析したデータによると、承認から収載までの平均期間は日本で2.4か月。フランスの19.7か月、イギリスの14.1か月、ドイツの4.5か月など欧州諸国と比べて迅速であることがわかった。また、日本は承認されたものの、99.1%が承認されていたが、フランスでは72.7%、イギリスでは82.2%にとどまっていた。

診療側の長島委員は、「日本における予見性がいかに高いかということが見事に表れている」との見解を表明した。この結果について問われた厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、「実態として、各国の保険制度、医療制度全体の中で個別の判断の中で出てくる結果だろうと思っている」としたうえで、「日本はむしろ、(承認後原則60日以内で収載される)むしろきちんとしたルールに基づいて行っている国だというところがあると思う」との見解を示した。

なお、PhRMAなど欧米製薬団体は業界意見陳述で再三、日本市場の“予見性の低さ”を主張していた。

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