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健保連・松本理事 長期収載品の自己負担「OTC類似薬で見直しを」 OTCのみで対応処方額919億円と試算

公開日時 2023/10/23 04:53
健康保険組合連合会の松本真人理事は10月22日、日本フォーミュラリ学会学術総会で講演し、焦点となっている“長期収載品の自己負担の見直し”について、「OTC類似薬の給付範囲の見直しを図っていかないといけない」と述べた。レセプト分析の結果から、“OTC類似薬のみ”が処方されている実態が少なからずあると指摘。「機械的な荒い試算」を行ったところ、65歳未満の患者で、結果的にOTCで対応が可能だったと見込まれる処方額が919億円と推計されたことを紹介した。患者負担の観点からも、「仮にOTC医薬品の価格が処方薬の3倍程度であれば、OTC医薬品を購入した方が患者負担が軽減される」と指摘。「OTC類似薬の保険給付の見直しは、丁寧に検討すれば現実的な選択肢になり得る」との考えを示した。

◎少子高齢化、高額医薬品の登場が医療保険に影響

中医協支払側委員を務める松本理事は、医療保険が厳しさを増している現状を説明した。背景には、日本社会が直面する少子高齢化がある。支出に当たる、高齢者等への拠出金、法定給付費は受診控えのあった2022年度を除き、一貫して増加傾向をたどっている。一方で、報酬水準に影響される保険料は横ばいから減少基調にある。支出に当たる「保険給付費+高齢者等へ拠出金」と収入に当たる「標準報酬月額」との乖離は、年を追うごとに広がっており、いわゆる“ワニの口”の状況にある。さらに、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる25年度が近づくなかで、医療保険財政は持続可能性の観点から厳しさを増すことが想定される。

さらに、医療技術の進歩や高額医薬品も登場も医療保険に大きな影響を及ぼしている。薬剤費をめぐっては、「高止まりで、横ばい」との認識を表明。この要因としては、「高額医薬品の登場はあるが、薬価改定による薬価引下げ、ジェネリック医薬品の普及もあって何とか凌いでいる状況にある」と説明した。高額レセプトの件数は10年間で10倍に増加し、22年度における1000万円以上のレセプト件数は1792件にのぼった。

◎高額医薬品「医療保険の性格上、確実に給付しなければならない」

高額医薬品は個人での負担が困難であることから、松本理事は、「医療保険の性格上、やはり確実に給付はしなければいけないものだと考えている」と表明した。ただ、現在までの高額医薬品は再生医療等製品・ゾルゲンスマやキムリアなどに代表されるように、投与回数が1回であるものが多数含まれている。中医協で支払側委員を務める松本理事は、現在中医協で薬価収載に向けた議論が進むアルツハイマー病治療薬・レカネマブにも触れ、「レカネマブは、認知症対応なので処方が長期に及ぶ可能性がある。価格のみならず、投与期間、患者数をトータルで見る必要がある」との考えも示した。

◎OTCが処方薬の“3倍程度”の価格であれば患者負担は軽減 OTC使用促進の環境整備を

そのうえで、健保連がOTC類似薬についての分析結果(21年10月~22年9月)を提示した。OTC類似薬のみが処方されているケースが少なからずあることから、「処方薬がOTC類似薬のみのレセプト」を抽出し、「機械的な荒い試算」を行った。その結果、OTC類似薬の処方額を全国に当てはめて推計したところ、「65歳未満の患者について、結果的にOTC医薬品で対応が可能だったと考えられる医薬品の見込み額」が919億円にのぼるとの推計を示した。

「処方薬がOTC類似薬のみのレセプト」の1件当たりの医療費は1万3694円(OTC類似薬の処方額1182円を含む)。3割負担の患者では自己負担額は約4100円となる。松本理事は、「医師が診察や検査を行って判断した結果であり、医療機関の受診を否定するものではない」と断ったうえで、「一般的にOTC医薬品は広告費等もかかるので、処方薬よりも高いことが多いが、仮にOTC医薬品の価格が処方薬の3倍程度であればOTC医薬品を購入した方が、患者負担が軽減される」と指摘。「OTCの使用促進につながる環境を整備することにより、医療費の適正化も期待できる」との見解を示した。

松本理事は、「少子高齢化、医療技術の進歩、高額医薬品の登場等、医療費の増大が今後も見込まれ、国民皆保険を維持していくためには、個人で負担が難しいものは保険給付をしていく一方で、OTC類似薬の給付範囲の見直しを図っていかないといけない」と強調した。

長期収載品の給付範囲の見直しをめぐっては、今年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)に「長期収載品の自己負担の見直し」が盛り込まれ、年末の予算編成に向けて焦点となることが想定される。厚労省保険局は9月29日の社会保障審議会医療保険部会に、薬剤自己負担の見直しの選択肢の一つとして、「市販品類似の医薬品の保険給付のあり方の見直し」をあげ、「保険給付範囲からの除外や償還率の変更、定額負担の導入など、保険給付のあり方を見直す」ことを考え方として示していた。

◎フォーミュラリ「患者への説明責任を果たす観点でも積極活用を」 患者の納得性を高める

松本理事は講演で、フォーミュラリについても見解を表明した。フォーミュラリをめぐっては、24年度からスタートする第4期医療費適正化計画で、“後発品のさらなる使用促進策”として、「フォーミュラリに関する医療関係者への周知をはじめとした必要な取組を行うこと」が盛り込まれた。

松本理事は、「フォーミュラリを推進する際には、単に長期収載品を後発品に切り替えるということだけでなく、“根拠に基づく合理的な医薬品の選択”を推進するという意識が肝要だ」との考えを示した。

保険者の立場として、フォーミュラリ推進は、「最終的に医療費の適正化につながることが理由であることは間違いない」と断ったうえで、「同じ疾患でも多数の似た医薬品があるなかで、“なぜ、この医薬品(成分)を使用するのか”、という患者の納得性を高めるためにも、フォーミュラリは極めて重要なツールと言える」と表明。「医療機関には患者への説明責任を果たす観点でも、フォーミュラリを積極的に活用していただきたい」と強調した。そのために「フォーミュラリは公開していることが望ましい」との考えも示した。

フォーミュラリの導入が医師の処方を制限するものではないことを明確にしたうえで、「患者の個別性や医療の不確実性を考慮すれば、逸脱することは当然あり得る」として、その際にも患者に十分説明することが必要として、患者への説明責任の重要性を強調した。

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