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【FOCUS オピニオンリーダーが伝えたいメッセージ】 いまこそ製薬業界としての“大義”を示すとき

公開日時 2022/09/06 04:52
「製薬企業の出発点となるのは、日本国民の健康だ。後発品で言えば、良質廉価が求められる。医薬品を安定供給し、かつ技術革新を取り入れ、革新的な医薬品を自社から創出したいと思うこと。これがまさに、製薬企業にとっての大義だ」――。薬価流通政策研究会・くすり未来塾の長野明共同代表(元日本製薬団体連合会保険薬価研究委員会委員長)は、議論に臨むに際し、製薬企業の“大義”の重要性を強調する。革新的新薬の登場や後発品の増加など、市場変化が大きいなかで、新薬創出等加算にとどまらず、あらゆるセグメントでの議論、そして提案の必要性を指摘する。「過去の制度論の延長ではない議論をする必要性が高まっている」と話す同氏に話を聞いた。(望月英梨)

Monthlyミクス9月号では、「ステークホルダーが語る流通・薬価制度 焦点は社会情勢と市場実勢価格主義」をテーマに特集を組みました。厚労省の城審議官、日本医師会の城守常任理事、健康保険組合連合会の松本理事、日本保険薬局協会の原氏にお話をうかがいました。記事はこちらから(会員限定)



薬価流通政策研究会・くすり未来塾 共同代表
一般社団法人医療・医薬総合研究所 理事長
元 日本製薬団体連合会 保険薬価研究委員会 委員長
長野 明 氏


現在の医療用医薬品売上高は、抗体医薬を中心とした革新的新薬、高薬価品が上位を占めている。循環器領域や消化器系領域などの低分子医薬品が上位を占めていた2010年頃と比べると大きく様変わりした。核酸医薬や遺伝子・細胞治療、さらにはプログラム医療機器(SaMD)の登場など、技術革新も進んでいる。後発品の浸透も進んだ。市場が大きく変わるなかで、過去の制度論の延長ではない議論をする必要性が高まっていると感じている。

一方で、薬価制度をめぐるいまの政府の議論は、国民、患者のためとは思えないところがある。経済財政諮問会議の場でさえ、財務省主導で予算編成の財源確保しか、念頭にない議論になっている印象を受ける。財政当局が薬価制度に過度に介入しすぎていると危機感を覚えている。

16年の4大臣合意による薬価制度抜本改革以降、官邸主導がさらに強まっている。その結果、外部からわかりづらい不透明な政治決着が常態化している。これでは財政目線、予算編成目線でしかなく、国民目線にならないのではないかと感じている。わかりづらい政治決着では、国民の医薬品や医療への信頼失墜につながりかねない。技術革新は日進月歩だが、国民が恩恵を受けられなければ意味がない。こうした危機感の下に、私はくすり未来塾の共同代表のお誘いをお受けした。

◎くすり未来塾の提案「購入価償還制度」はもっと深掘りしたい

 薬価流通政策研究会・くすり未来塾の提案は、現行薬価制度の何がおかしかったのか、現行薬価制度の何をどう変えるべきなのかが柱となっている。直接の当事者ではない立場から、薬価制度を取り巻く情勢分析と、改革に関する提言を発信した。提言を叩き台として当事者間の改革論議が進み、国民にとって、明るい医療の未来が描ける希望に満ちた社会ができることを期待している。

特に、医薬品流通については問題意識を抱いている。総じてチェーン調剤薬局は、市場取引の結果ではあるが薬価差が拡大し、卸段階では赤字品目も増加している。保険料や国費、自己負担で賄われている我が国の医療費が、薬価差という形で収益の源泉であり続けてよいのか、疑問を持っている。保険調剤薬局というのであれば、薬価差ではなく、調剤報酬で支えるべきだ。少なくとも、こうした循環を断ち切る薬価制度とする必要があると考えている。

くすり未来塾では、不採算品目の制度の運用上の課題、速やかな改革を昨年末以来提言を発信してきている。今後も引き続き共同代表の武田俊彦(元厚労省医政局長)さんとともに深掘りしていきたいと考えている。

◎新薬創出等加算に導く業界提案「皆が近未来に対する危機感を持っていた」

課題解決の一つの方策として、くすり未来塾では購入価償還制度を提案した。提案のルーツは、「届出価格承認制」、「エグゼンプト・ドラッグ」にもつながるところがある。製薬業界は05年7月に「申請価格協議方式」を中医協で提案した。その後、07年に革新的創薬のための官民対話で、申請価格協議方式をリニューアルした「届出価格承認制」を提案。さらに議論を加えて、届出価格承認制とエグゼンプト・ドラッグを提案、さらに年月を経て、日本製薬団体連合会(日薬連)から薬価維持特例を提案した。これが結果的に、10年度の新薬創出等加算の試行的導入につながった。

新薬創出等加算につながる議論をしていた当時、製薬協、日薬連薬価研、PhRMA、EFPIAを加えた実務レベルの検討を何年も行ってきた。さらに、経営トップによる議論を繰り返し、ようやく5、6年の時間をかけて新薬創出等加算の試行的導入にこぎつけた。

近未来に対する危機感があれば、薬価制度を変えなければ未来は開けないと思うはず。私が議論していた当時は少なくとも、皆が近未来に対する危機感を持っていて、これを変えなかった。これが制度の実現に至ったキーポイントだ、といま感じている。

◎製薬協、GE薬協それぞれで議論を深めて日薬連からワンボイスで発信を

新薬創出等加算に至る議論をしていた当時、政府は後発品の使用促進にも力を入れていた。我々の目線は、新薬だった。新医薬品の薬価政策、特許期間中の薬価改定のあり方などが議論のテーマだった。ところが現在は、新薬創出等加算は日薬連薬価研が抱える多くのテーマのごく一部に過ぎない。いまは、長期収載品や後発品、局方品などのセグメントにより、製品特性が大きく異なっている。数量や金額の大小ではなく、セグメント別に薬価改定ルールを検討する必要がある。さらに言えば、長期収載品や新薬、後発品なども一括りにできない。新薬の中でも違いがある。

課題となるべきテーマが拡散していることが、私が日薬連薬価研の委員長を務めていた当時と大きく異なることだ。一つひとつセグメント別に議論を進め、深め、結論を得るという過程にはご苦労があるのではないかと想像する。

それを乗り切るためには、日薬連傘下の製薬協、日本ジェネリック製薬協会などから、今日的な提案をしてもらうことが必要ではないか。その際に、メーカー視点ではなく、医薬品から見るべきだ。提案を受ける日薬連薬価研は、薬価研らしくセグメント分けして、再整理、仕分けして取りまとめ、ワンボイスで発信することが必要だ。

傘下の団体で意見が異なる場合は、さらに議論を重ねることも必要だ。欧米製薬団体ともまず、実務レベルで議論を重ねるべきだ。熱意、強い想いがあれば必ずできる。一人、一社では成し遂げることはできない。くすり未来塾としてもサポートしたいと考えている。

◎依存心を捨て去り当事者意識を旺盛に持ち続けてほしい

製薬業界には、依存心を捨て去り、当事者意識を旺盛に持ち続けてほしい。ひょっとして当事者意識が欠如していませんか。海外市場の伸びが経営を支えるなかで、海外市場への依存心が、製薬企業の国内を担当している社員レベルでも生じているのではないかと懸念している。私の誤解かもしれないが。

薬価の実務に携わっていたころ、日本経済団体連合会(経団連)で社会保障制度について議論を重ねた委員会に縁あってメンバー登録していた。自動車メーカーなどと意見交換するなかで、彼らが「大義」を持っていることを感じ、学ばせていただいた。若手が大義を持っているのは、経営者が大義を持ち、そうした教育を行っているからだと感じた。

研究開発型メーカーであろうが、ジェネリックメーカーだろうが、製薬企業の出発点となるのは、日本国民の健康だ。後発品で言えば、良質廉価が求められる。医薬品を安定供給し、かつ技術革新を取り入れ、革新的な医薬品を自社から創出したいと思うこと。これがまさに、製薬企業にとっての大義だ。製薬企業で仕事をする人皆が、持ち続けなければいけないマインドだと思う。

心意気も忘れてはならない。強い気持ちを持ち続け、また出発点に立ち戻らなければ、良い仕事はできない。そうでないと、国民、患者、医療従事者からそっぽを向かれてしまう。私は現役を退いてから6年程経つが、こういった心の持ちようは、いまでも揺らがず感じている。
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