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中医協・長島委員 “安くなるから高くしてくれ”では「ルール作る意味がない」 新創品で仕切価率下げも

公開日時 2023/07/13 04:52
中医協診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は7月12日の中医協薬価専門部会で、「歴史の積み重ねで、薬価算定ルールを作成、手直ししてきた。このルールに基づいて計算すると、“安くなるから高くなるようにしてくれ”ではルールを作る意味がない」と断じ、製薬業界側に薬価制度への正しい理解を求めた。製薬業界はドラッグ・ラグ/ロスを主張し、加算の新設などで「欧米並み」の薬価水準を求めている。長島委員は、「米国の桁外れの薬価設定は、米国自体でも問題になっており、欧米と同じ薬価を設定できるようにすることで、ドラッグ・ラグがなくなるというのは言い過ぎではないか」と指摘した。このほか、製薬業界が特許期間中の薬価維持を求める中で、新薬創出等加算品目であっても、製薬業界側が仕切価率を下げている品目があるとのデータも提示され、業界の主張に対して「慎重な議論」を求める声もあがった。

◎「研究開発費を医療保険財源で手当てするのは違う」、「薬事の改善も加味した薬価制度見直しを」

この日の中医協薬価専門部会では7月5日の業界意見陳述を踏まえて、新薬に焦点を当てた議論がなされた。製薬業界がドラッグ・ラグ/ロスに対する薬価制度上の対応として、革新的新薬を国内に迅速導入した場合の薬価上の評価として、「迅速導入評価制度」などの新設を訴えている。

ただ、ドラッグ・ラグ/ロスをめぐっては、薬事制度の課題の大きさを指摘する声もあがる。「研究開発段階の要素が大きいので、まずはその見直しをするのが先決ではないか。医薬品のイノベーションの研究開発費等について、公的医療保険の財源で手当するのは違う、ということを重ねて主張させていただく」(診療側・長島委員)、「薬価の下落のみによるものではなく、薬事承認や研究開発の支援体制など、複合的な要因が絡み合っている。(薬事などの)対策を講じることで想定される改善も加味しつつ、メリハリを付けた形で薬価制度の見直しを議論すべきではないか」(支払側・安藤伸樹委員、全国健康保険協会理事長)などの声があがった。

◎米国の薬価設定は「米国自体でも問題」 「欧米と同じ薬価設定でラグ解消は言い過ぎ」と釘 

診療側の長島委員は、「これまでの歴史の積み重ねで、薬価算定ルールを作成、手直ししてきた。このルールに基づき計算すると、“安くなるから高くなるようにしてくれ”ではルールを作っている意味がない」と指摘。さらに、「米国の桁外れの薬価設定は、米国自体でも問題になっており、欧米と同じ薬価を設定できるようにすることで、ドラッグ・ラグがなくなるというのは言い過ぎではないか」と指摘した。

◎ラグ・ロスの中身に診療・支払各側の疑問集中 「本当に日本に必要なのは何品目か?」

ドラッグ・ロスをめぐっては、製薬協が欧米で承認されているが国内開発未着手の医薬品が86品目あると主張。数字が独り歩きしている状況にある中で、界の主張するドラッグ・ロスの内容如何を問う声がこの日もあがった。

「単に品目数だけ示すのではなく、本当に日本に必要なのにドラッグ・ロスになっている品目はどれくらいあり、どのような傾向があるのか」(診療側・森昌平委員、日本薬剤師会副会長)、「国内未承認薬の合計数はヒアリング資料で示されているが、実際に患者に対してどれくらいの影響があるのか」(支払側・佐保昌一委員、日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、「ドラッグ・ラグ/ロスは懸念材料ではあるが、患者にとって実際にどのような問題が起きているのか。品目の数字だけでなく、代替品の有無など、具体的な内容を細かく見る必要がある」(支払側・松本委員)との指摘が相次いだ。

7月5日の業界ヒアリングでは、製薬協の上野裕明会長は、「(86品目の中には)国内で承認に向けて開発したが、色々な理由で開発を中断したものや、日本で発生していないような感染症もある」と発言している。

◎石牟禮専門委員 小児用薬のインセンティブ主張「再審査期間中に回収できるレベルと言えない」

業界代表の石牟禮武志専門委員(塩義製薬渉外部長)は、業界団体エビデンスを提示する「準備を進めている」と応じた。そのうえで、小児用医薬品の薬価上のインセンティブの必要性について強調。「一般的に成人に比べると患者さんが少ないということで、かかる費用に比べて収益が見込めないという観点から、なかなか手をつけにくい領域であるということ。それから一般的には成人の効能を取った後に小児の効能を取るというようなことがある」と説明。薬価収載時・改定時の加算についても、「実際の加算率がほとんど下限値の5%にとどまっている。こういう状況から、コストを再審査期間中に回収できるレベルとは言えないというのが現状かと認識している」などと説明。「小児に対する医薬品の開発を強く要請されているということは十分承知している。成人と異なる開発の難しさや、剤形規格の必要性も考えてルールの見直しが必要と認識している」と主張した。

なお、小児用医薬品をめぐっては、7月10日に開かれた「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」で議論がなされた。同検討会は薬価上のインセンティブについて議論する場ではないにもかかわらず、業界代表が「インセンティブを並行して議論すべき」と強く主張。インセンティブについては中医協の議論などで時間がかかるため、課題解決に向けて早期に取り組みたい厚労省側や座長、構成員が議論を進めるよう説得したが、製薬業界側は議論継続に反対姿勢を崩さず。製薬企業が議論に応じなかったために、小児用医薬品の開発促進に向けた結論は先送りされている状況にある。

◎石牟禮専門委員 仕切価は「自社の製品構成、使われ方で判断」 支払側は不採算の仕切価データ要望

もう一つの焦点となったのが、新薬創出等加算の品目要件・企業要件だ。製薬業界側は「特許期間中の薬価維持」を主張しており、新薬創出等加算に代わる新たな制度の必要性も訴えている。厚労省はこの日の中医協に、流改懇に提出された製薬企業を対象とした調査結果を提示。新薬創出等加算品目であっても、製薬企業が卸に対して設定する仕切価が下がっている品目があるとの“エビデンス”を示した。

支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、このデータに注目。「業界ヒアリングでも経済環境の厳しい中でというご説明が(業界側から)あったかと思う。一方でそうした主張と、こうした数字で見た行動の中に少し乖離が出ていると感じている。低下させた理由も、「その他」ということで具体に示されていない。この辺りを踏まえて新薬創出等加算の要件については慎重に議論すべき」と指摘した。松本委員は、2023年度に臨時・特例的に実施された不採算品再算定に触れ、「不採算品再算定品目の仕切価がどう変動したかというのを絞って次回以降データとして提示いただきたい」と事務局側に要望した。

これに対し、専門委員の石牟禮氏は、「そのデータを知り得ないので回答することは難しい」として、「一般論」と断ったうえで、「企業が仕切価率を変更する主な理由としては、実際に卸に提示する取引条件の中で自社の製品構成および市場での使われ方といったところも踏まえた上で判断された結果」と述べた。

◎「乖離率を無視してまで薬価維持は難しい」 薬価は製販業者、卸含む自由取引の結果

新薬創出等加算の企業要件をめぐっては、ベンチャー企業の企業区分なども俎上に上っている。診療側の長島委員は、「ベンチャーが開発した品目の薬価が維持されにくいというのは、薬価調査に基づいた要件が満たせなくなった。すなわち乖離率が大きいということではないか」と投げかけた。現行の薬価制度は市場実勢価格主義を貫いている。長島委員は、「市場(価格)を反映するという国の姿勢に基づき、薬価が維持されるかどうかは、製造販売業者と卸、そして購入する我々(医療機関)の自由取引の結果が反映されるものと理解している。薬価調査結果の乖離率を無視してまで薬価を維持するというのは難しい」と釘を刺した。

◎有用性系加算 「期待に基づく加算は適切でない」、「具体的な影響を示すべき」 エビデンス求める

有用性系加算など補正加算について製薬業界側は、患者視点の評価軸など有用性系加算の見直しを訴えている。「薬価において、期待に基づく加算は適切ではなく、臨床試験等による実証データ、エビデンスに対する国の評価に基づく加算のあり方について議論することが重要」(診療側・長島委員)、「イノベーションの重要性は理解できるが、評価の方法を見直すということであれば、定量化の具体的な方法や、それによる影響が示されなければ、議論をするのはなかなか難しい」(支払側・松本委員)など、ここでも“エビデンス”を問われた。なお、業界ヒアリングの場では、「現時点では明確に示されたものはない」と製薬業界側は発言している。

◎支払側・松本委員 原価計算の開示度について問題意識露わ

このほか、支払側の松本委員は、原価計算の開示度についても問題意識を露わにした。松本委員は、「原価計算方式における原価の開示度が高まらないことは、薬価が透明性の観点からも極めて重要な問題だと考えている。原価計算のあり方について、しっかり議論させていただきたい」と強調した。厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、「22年度改定でも開示度についての規定も改正したところだ。状況がどうなっているかも含め、タイミングを見て資料提示したいと考えている」と応じた。


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