元バイエル薬品会長の栄木憲和氏（EIKI CONSULTING,LLCプレジデント）は2月６日開催のIQVIAジャパンメディアセミナーで講演し、日本の創薬力強化に向けて、米国バイオクラスターのアカデミアやEBP（新興バイオファーマ）に対する研究開発投資を増やすべきと訴えた。財源については、米NIHの６兆円に対し、日本は1.5兆円くらいのアロケーション（配分）が必要と提案。一方で、もともと資金力が脆弱なアカデミアやEBPが直面する「死の谷」を乗り越えるためには「米国のVC投資を活用すべき」と指摘、日本の製薬企業は「積極的に米国に足場を置き、自分達の存在を知らしめる活動を行う必要がある」と強調した。

この日のセミナーは、「新薬アクセスの実効性を高めるヒント～ドラッグロスからみた考察」をテーマに行われた。栄木氏は、すでに2018年段階で米国の開発品目数（3457品目）の62％がEBPのオリジンであると説明。ボストンやサンフランシスコに代表される「バイオクラスター」が複数形成され、アカデミアやバイオ創薬ベンチャーを軸に、欧米系のメガファーマを巻き込んだ新たな製薬ビジネスのモデルが出来上がっていることを紹介した。一方で日本の製薬産業は、1995年～2020年にかけてグローバル売上が21％から８％に低下したと指摘し、その原因として、バイオ創薬の遅れが欧米に比べて顕在化したことをあげた。

◎導入、導出、M＆A、パートナリングなど「あらゆる手を使う」

その上で、創薬力について栄木氏は、「良いシーズだったら日本だけでなく、欧米を含めた全世界の患者に一番早く届けることを考えるべき」と指摘。「それを実現するためには、導入、導出、M＆A、パートナリングなど、ありとあらゆる手を使うのが（現代の）製薬企業だ」と強調した。

◎日本企業は米国バイオクラスターに足場を置き、存在感をアピールすべき

一方で、創薬力を強化するための資金調達については「米国のVC投資を活用する」と述べ、日本の製薬企業は積極的に米国ボストンなどバイオクラスターとのネットワークを構築し、存在感をアピールするなどの活動をより強化する必要があるとした。さらに、最近はCVC（コーポレート・ベンチャーキャピタル）をもってボストンに足場やオフォスを開設する企業の動きがあることを歓迎し、もっとR＆D人材を米国に派遣すべきと提案した。また、VC投資を念頭においた人材採用にも触れ、「日本からメールでコンタクトする程度では（VCから）無視される可能性が高い」と見通し、「むしろ米国のVCと直接交渉したことのある経験者やバイオベンチャーやメガファーマに在籍し、CVCなどに携わった人材などを現地採用することが求められる」と提案した。

◎国がん・山本副院長　EBP側のニーズ「日本の対象患者がイメージできていない」

セミナーでは国立がん研究センター中央病院の山本昇副院長／先端医療科・科長が米国のEBPを自ら訪問した際の体験談を交えて講演した。山本氏は、「東海岸はアジアに渋いって言われており、ボストンエリアは結構ハードル高いと感じた」と振り返る一方で、「学会で会ったことがあるなど、顔馴染みの関係があれば比較的ネットワークに入りやすい」との認識を示した。また、EBP側のニーズとして、「日本の対象患者がイメージできていない」と指摘。がん研究振興財団の「がん統計」を示しても、「使えない！」とダメ出しされたエピソードも披露した。

◎日本の薬価制度に関するEBP側からの質問や苦言は「今のところありませんでした」

このほか、日本の薬価制度に関するEBP側からの質問や苦言などは無かったと語り、「断定はできない」と断りながらも、「薬価制度は、もっと大きな製薬企業側の案件なのでは」との見解を示した。山本氏はまた、「EBPの開発品は希少疾患などを対象としたものが多く、大きな承認を取るような医薬品を開発していない。たとえば自分達で開発せずに、ファイザーやノバルティスなどのメガファーマに買収してもらうことも想定している。その意味でEBPは薬価の前に自分達が優先すべきことがあるのではないかと感じた」と話してくれた。

◎日本の医療制度や開発環境がEBP側に認知されていない

山本氏はまた、日本の医療制度や開発環境がEBP側に十分知られていないと指摘。特に患者数（遺伝多型等）の詳細な情報や、申請プロセス、開発コスト、タイムライン、オーファン申請、治験国内管理（ICCC）による開発支援などの情報をもっと伝えてあげる必要があるとした。