世界最大規模の医療情報管理システムのイベント「HIMSS 24」が米国フロリダ州オーランドで3月11日開幕した。オープニング・キーノート（12日）では医療変革を実現するＡＩに焦点があたった。HIMSSプレジデント＆CEOのハル ウルフ氏（写真左側：HIMSS提供）は、「高齢化の進展と、それに伴う医療従事者の不足は疑いの余地がない。世界中の医療システムに影響する」と警鐘を鳴らした。これに対しHackensack Meridian Health CEOで世界経済フォーラムのグループ議長を務めたロバート ギャレット氏（写真中央）は、「ＡＩ技術が重要であることは明らかだ。すべての医療変革の優先事項にリンクする」と語り、直面する財政的課題、医療の人材不足と燃え尽き症候群の解消、依然として根強い医療格差の是正などでゲームチェンジャーになるとの見解を強調した。米国では医療分野のＡＩ活用も実践段階に入っており、25年には検証フェーズに進む構えだ。（米国・オーランド　沼田佳之）

ロバート ギャレット氏は世界的なヘルスケア改革の優先事項として、①医療アクセスの改善、②アウトカムの改善と医療システムに対する価値提供、③健康の公平性、④気候変動への対応－の4項目をあげ、いずれもＡＩが課題解決に寄与すると強調した。また、「ＡＩは、これまで想像できなかった規模の症例（大量データ）に対応でき、より健全なコミュニティを構築できる可能性がある。病気を早期に発見し、医薬品やワクチンをより早く開発できる。さらに、患者の高齢化とそれに伴う臨床チームの人員不足に伴う“燃え尽き症候群”を回避できる」と語る。加えて「ＡＩは人類への脅威が増大する気候変動の緩和にも役立つ」とまで言い切った。

◎ロバート ギャレット氏「健康データが迅速に分析され、正確な診断が可能となる」

とくにＡＩと医療システムとの親和性について同氏は、「ＡＩアルゴリズムにより健康データが迅速に分析され、正確な診断が可能となる。 そしてタイムリーに介入できる。 ＡＩを活用した予測モデルは、病気の予防と個別の治療に役立つパターンと傾向を検出できる」と指摘。一例として、インドではGoogle Cloud と提携し、「ＡＩを活用した遠隔医療を実現することで国全体の治療アクセスが拡大した」と報告した。一方で、「急速に進歩するＡＩに規制が追いつくか」との問いに対し同氏は、「そう思わない」と発言。「医療セクターから自発的に発すべきであり、それにより協力的なパートナーシップを規制当局と緊密に協力することができる」との見方を示した。

◎ハル ウルフ氏　各国の医療制度の持続可能性に根本的な脅威をもたらすと警鐘

HIMSSプレジデント＆CEOのハル ウルフ氏（写真）は、「エコシステム全体で見て人口の高齢化が進む。 そして（医療・介護職の）人手不足は疑いの余地がない」と指摘。「それは世界中のあらゆるシステムに影響を与えている」と発言し、世界各国の医療制度の持続可能性に根本的な脅威をもたらすだろうと見通した。また、「多くの医療機関が前進するための明確な戦略的道筋を見つけられないようだ」とも語り、「現状では、ケアの問題を迅速に変更する必要がある。今後起こりうるギャップを踏まえて、私たちはデジタルに目を向けなければならない」と断言した。また、「私たちがいま行うことは、新たなトリアージと再構築され始めている階層的アプローチを認識することだ。これらが持続可能性への重要なパスになる」とも付け加えた。

同氏はキーノート終了後の記者会見で、サイバーセキュリティ―の課題について触れた。同氏は、「サイバーセキュリティについて実行せず一日を過ごすことはできない。政策の観点から見ると、以前にもサイバーセキュリティが強化されたが、これは本当に重要なものである。いまそれが目に見えている」と述べ、ＡＩの実現可能性と並行して重要な課題だと強調した。

このほか米国以外のアジア地域での活動については、「台湾、韓国、インドネシア、そしてその周りに多くの市場がある。 私たちは成長し、政府と協力してきた」と強調。引き続き「ヘルスケア業界が協力して資金を拡大する必要があると人々は認識し始めている」と述べた。