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一見バラバラな経歴から自分だけのキャリアを構築

エディタV2

製薬マーケの経験礎に医療ベンチャーを起業

ハート・オーガナイゼーション
代表取締役 菅原俊子さん

医療ベンチャーのハート・オーガナイゼーション(本社:大阪市淀川区)の代表取締役 菅原俊子さんのキャリアは華やかです。短大を卒業後、百貨店に就職。販売員やバイヤーを経て、外資系航空会社のCAに転職した後、外資系ホテルのコンベンション担当として勤務しました。そしてスカウトをきっかけに製薬企業に転職。マーケティング部門で経験を積んだ後、医学系研究会事務局を運営するコンベンション事業で独立しました。現在は、医用画像共有プログラムなどを提供する医療ベンチャーの代表を務めています。
一見バラバラのように見えるャリアですが、どのようにして自分だけのキャリアを手にしたのでしょうか。

Q 現在の会社を立ち上げた経緯を教えてください。

A.現在の会社は、医師向けライブ研究会プラットフォーム「e-casebook LIVE」などを運営する医療ベンチャーです。「e-casebook LIVE」は、エキスパート医師による手術を実際のオペ室・カテ室から生中継したり、各地で開催される学会・研究会の様子や実際の臨床で役立つ症例検討やレクチャーをライブ配信するプラットフォームです。
地域によって差がある日本の医療格差をICTの力でなくしたいと考え、上記のようなシステムを運用しています。

Q なぜ医療格差に注目されたのでしょうか?

A.CA時代にインドを訪れた際に、子どもたちがタクシーに群がり、金銭などをねだる様子を見て、貧困の現実を知ったこと、製薬企業勤務時代に、資本主義における製薬企業の限界について考えたことが背景にあります。製薬企業勤務時代、市場性のない薬は、医薬品としてのニーズがあったとしても開発に至ることは珍しいのではないかと感じ、違和感を抱いていました。
そんな中、カテーテル治療の普及を目的とした研究会を主催していた医師から、「医療技術を広める活動を一緒にやらないか」と声をかけられ、独立を決意しました。2000年、病院の手術室と会場をライブ中継し、手術をしている医師から技術を学んだり、ディスカッションをしたりする研究会の事務局業務を個人事業として始め、2004年に法人化しました。

Q 主な事業を学会の事務局から現在の形にしたのはなぜですか?

A.事業が大きくなっていくなかで、大きなピンチが訪れました。特に影響が大きかったのは2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災です。学会の延期や中止が相次ぎ、収入が途絶えました。法人化して従業員も増やしていたため、このままでは安定した会社経営ができず、学会事務局だけではいけないと考えていました。そこでしばらく代表を代わってもらい、IBA(関西学院大学大学院経営戦略研究科)に通いました。そこで出会ったのが、情報システムやクラウです。ICTが持つ力に可能性を感じました。
当時は、これまでのコンベンション事業で、研究会の参加者が増えるにつれ、会場に収容できる人数に限界を感じてきたことに加え、医療以外の業界ではインターネットを活用して、技術などをWeb上で共有する動きが相次いでおり、医療業界でもこれからはWebを活用して情報共有を行うことで、もっと効率よくできるのではないかと考えました。
  実は、学会事務局をしていた際に、病院外の医師が専門医に治療についての相談する際、医用画像をCD-Rに焼き付けて宅急便で送り、実際の指導には、電話やメールを使う様子を目にしていました。Web上にデータをアップロードしてやりとりすれば、手軽に早く相談できていいのではないかと考え、医師向け症例検討プラットフォーム「e-casebook」の構想が出来上がりました。法人設立から10年が経った2014年、45歳の時に「e-casebook」が公式にスタートを切りました。

Q 現在はどのようなシステムを提供されているのですか?

A.冒頭説明した「e-casebook」と「Caseline」と呼ばれるシステムの運用が主な事業です。「Caseline」は、現場にいる救急隊と遠隔地の病院にいる医師を音声通話で繋いだり、コミュニケーションアプリ「LINE」のような簡単な操作で医用画像や映像、心電図などの情報を共有できるシステムです。搬送にかかる時間や受け入れ準備の短縮が目的です。医療格差を埋めるという観点でシステムを作っています。

Q 女性の経営者はまだまだ少ないのが現状。難しさはありましたか?

A.女性であることはメリットの方が多いような気がしています。例えばビジネスコンテストでも、女性起業家だけを対象としたものがあります。注目してもらえることはありがたい。仕事をする上で女性であるからどうなのか、ということはあまり感じたことはありません。

Q 製薬企業での経験は活きていると感じますか?

A.製薬企業での勤務がきっかけで、医療に関わり始めました。製薬企業での仕事を通じて医師のコミュニティについて理解が深まったし、独立するきっかけになった医師とも出会いました。

Q 古巣である製薬企業に対して今思うことはありますか?

A.コロナ禍によって、MRはリアル面会の機会が減ってしまいました。でも実際に会った時に、強いインプレッションや印象的な行動ができれば、逆にチャンスになるのではないかと思います。例えば昔だったら、医局の前で先生がどんな患者さんを持ってるかとか、先生がどんなことに興味持ってるかをわざわざ見に行かないといけなかったけど、システムの使い方によってはウェブ上で把握できると考えています。私たちのシステムでは、企業ごとに、製品の最新のエビデンスや医療機器の使い方のトレーニングなどを視聴できるサイトがあるのですが、承諾を得た医師については、視聴履歴を確認できるようになっています。先生がどんなことに興味を持っているか把握したうえで、リアル面会で先生が本当に必要なものをプレゼンしたり、提供したりすることができればチャンスが広がるのではないでしょうか。

Q 今後どのようなことに力をいれていきたいですか?

A.現在、循環器内科、整形外科、脳神経外科、消化器科の4診療科が主な対象ですが、今後は希少疾患に対するアプローチを進めていきたいです。希少疾患は患者や診察できる医師を見つけにくいという現状がありますが、Web上であれば、各地の医師を集めることができます。治療器具や薬剤の情報についても伝え、患者の治療につなげるサポートができるサービスにしていきたいです。

※掲載内容は取材当時(2月)のものです。


〔略歴〕
航空会社などでの勤務を経て、2000年4月に医学系研究会事務局を運営するコンベンション事業で独立。2004年1月、株式会社ハート・オーガナイゼーションを設立した。2014年6月、医師のための症例検討クラウドサービス「e-casebook」をスタートさせ、2019年2月にはコンベンション事業を譲渡し、クラウドサービス事業に一本化した。2019年4月、オンライン研究会「e-casebook LIVE」を公開。2021年には、医用画像共有プログラム「Caseline」提供を開始した。日本政策投資銀行主催「第2回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」ファイナリスト選出、2019年日経優秀製品・サービス賞 優秀賞 日経産業新聞賞、2019年度グッドデザイン・ベスト100・ グッドフォーカス賞[新ビジネスデザイン](経済産業省 大臣官房 商務・サービス審議官賞)など、起業家としての受賞・登壇多数。


【取材を終えて…】
穏やかな口調と華やかな経歴。苦労知らずの人なのではないかという印象が間違いだと気づくのに時間はかからなかった。痛烈に感じたのは、リーマンショックや東日本大震災で会社存続の危機を経験したあと、「このままではいけないと思い、しばらく代表をある人に代わってもらって、IBA(関西学院大学大学院経営戦略研究科)に通った」という言葉だ。そこで得たヒントから今運用するシステムを思いついた。
一見バラバラのように見えるキャリアを繋ぎ合わせ、自分だけのキャリアをつかみ取った菅原さん。自身の弱点から目を背けずに勉強を重ねたこと、常に問題意識を持っていたこと、そしてピンチをチャンスだと言い切れる発想の柔軟さが彼女の必勝ポイントだ。

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