前回のコラムでは、変化の激しいヘルスケア業界において「自分の軸を持つこと」の重要性をお伝えしました。今回はその具体的な第一歩として、「強みの棚卸し」に取り組んでいきます。そのためにまず、「強みとは何か」という問いから始めてみたいと思います。
そもそも「強み」とは何か
強みの棚卸しを始めようとすると、多くの人が最初の問いでつまずきます。「自分の強みって、何だろう?」と。
強みというと、「他の誰よりも優れているスキル」をイメージしがちです。しかしその定義では、強みを持てる人はごく一握りになってしまいます。私はそう捉えていません。
強みには、大きく二つの種類があると思っています。一つは、他者と比べて客観的に秀でていること。もう一つは、自分の中で相対的に得意なこと——他の人と比べなくても、自分の資質の中で際立っているものです。後者も、れっきとした強みです。
私自身、これまでキャリアの中で多くの優秀な人たちに出会ってきました。その中で自信をなくすことも少なくありませんでした。しかし、世の中には自分より優れた人がいくらでもいる。そのことに気づいてから、「比較すること自体がある種の無駄だ」と思えるようになったのです。
大切なのは、まず自分軸で強みを確認し、そのうえで磨き、挑戦することです。他者との比較は、市場における自分の価値を測るときに活用すれば十分です。その順番を間違えなければ、強みを冷静かつ前向きに語れるようになるのではないでしょうか。
強みを発見するための「振り返り」
強みとは何かを理解したとして、では自分の強みをどうやって見つけるのか。そのための鍵となるのが「振り返り」だと思っています。私が考える振り返りの手法には、大きく三つのアプローチがあります。
内省する
「内省」と言葉からネガティブなイメージを持ってしまう方がいるかもしれませんが違います。内省は自分自身と向き合い、起こったことや感情、価値観を見つめ直すために行うものでありとてもポジティブなものだと私は考えています。
「どんな仕事のときにエネルギーが湧いたか」「自然と没頭できた経験はどれか」「周囲から感謝されたのはどんな場面か」——こうした問いを自分に投げかけることで、強みの輪郭が浮かび上がってきます。日記やメモに書き出す習慣があると、振り返りの材料が積み重なり、パターンが見えやすくなります。内省は地味な作業ですが、自己認識の精度を高める土台になります。
他者からフィードバックを求める
内省だけでは、どうしても見えない盲点があります。自分では当たり前だと思っていることが、実は他者にとって際立った強みである——そういうケースは少なくありません。信頼できる上司、同僚、部下に「私のどんな点が仕事に貢献していると思うか」を率直に聞いてみてください。フィードバックを求めること自体に抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、多くの場合、成長意欲の表れとして前向きに受け取ってもらえます。一方、日本はハイコントラストな文化であり、ストレートな物言いを避ける傾向が強い国です。相手との関係性が強くなければフィードバックを得ることは容易ではないでしょう。長年、求め続けてきた私が強く感じるところです。相手が外国人の場合は率直なフィードバックが得られやすい傾向があると思いますが日本人であればフィードバックが得られる関係性をつくることが大切になってきます。
360度調査を活用する
より体系的に自己認識を深めたい場合は、360度フィードバック(多面評価)の実施をお勧めします。上司・同僚・部下など複数の視点から自分のコンピテンシーを評価してもらうこの手法は、自己認識のズレを可視化するうえで非常に有効です。実際、自己評価と他者評価が一致する人の割合は15%程度という報告もあり、自己認識の難しさを物語っています。自分では高く評価しているのに他者評価が低い領域は過信のサイン、逆に自己評価が低いのに他者評価が高い領域には、まだ気づいていない強みが眠っている可能性があります。このギャップを丁寧に読み解くことが、コンピテンシーの自己認識を深める近道です。
この三つを組み合わせることで、「自分が思う自分」と「他者が見る自分」の両方から、強みを立体的に把握できるようになります。強みの発見は一度きりの作業ではありません。経験を積むほどに強みは変化・深化するため、定期的に振り返る習慣を持つことが重要です。
次に、自己紹介を更新してみる
振り返りと並行してやってほしいことがあります。自己紹介の更新です。
「そんな基本的なこと」と思われるかもしれません。しかし自己紹介を難しいと思った方も多いのではないでしょうか?経歴、専門性、趣味、嗜好など自分を掘り下げて紹介することは容易ではありません。
次に職務経歴書を更新してみてください。私自身、以前は職務経歴書の更新をほとんどしていませんでした。いざ書こうとしたとき、気づいたのです——「書くことが何もない」と。
ここに記載できるレベルの仕事をしてきたのか、と自問したとき、答えに詰まりました。それが、自分を変えた出発点でした。
それ以来、毎年の業務棚卸しをルーティン化しています。棚卸しで整理した内容のうち、対外的にアピールできる実績や成果を、職務経歴書に転記していくのです。この作業を続けることで、自分のキャリアの「見える化」が進んでいきます。
具体的には、毎年12月上旬に1年間の業務を振り返って整理し、12月下旬に翌年の行動プランを作成しています。このとき大切なのは、「目指す姿とのギャップを埋める」という視点で実行計画を書くことです。なりたい自分と現在地の距離を測り、自分の強みやスキルをどう活かして課題を乗り越えるかを熟考する。それが現実的なプランにつながります。
身近な例で言えば、「健康維持のために体重を5キロ減量する」という目標を、「半年後に3キロ減、1か月後に1キロ減」と段階的に落とし込み、必要な運動や食事管理のアクションを決めていくイメージです。業務の目標設定も、これと同じ考え方です。
さらに、年単位のプランをQ(四半期)単位のKPIに落とし込み、定期的に振り返れる状態にしておくことをお勧めします。大きな目標は、月次・週次・デイリーの行動に分解されて初めて実行可能になるからです。
強みは「つくる」こともできる
強みは発見するだけでなく、意図的につくり出すこともできます。
方法はシンプルです。世の中の変化を予測し、その分野に先んじて強くなることです。トレンドを「感じている」人は多いですが、それをチャンスと捉えて行動に移す人はごく一部です。
私自身の経験をお話しします。コロナ禍の最中、私はデジタルが社会全体に浸透していくことを確信しました。そこで「マーケティング×デジタル」をユニークな強みとして意図的につくると決め、行動しました。その選択が、結果的に自分のブランディングにつながっています。
ヘルスケアの領域は、これからも大きな変化が続きます。規制環境、テクノロジー、患者ニーズ、産業構造——どの軸をとっても、変化の波は止まりません。その変化を脅威ではなくチャンスとして捉え、自分の強みに転化できる人が、次の時代に活躍するプロフェッショナルになると私は確信しています。
夢の解像度が、行動の精度を決める
最後に、プランニングの本質についてお伝えします。
夢や目標に対する「想い」の強さが、実現の可否を大きく左右すると私は思っています。なぜなら、想いが強いほど目指す姿の解像度が上がるからです。そして解像度が高ければ高いほど、年単位・月単位・日単位の行動プランは現実的かつ具体的になります。
「なんとなくキャリアアップしたい」では、今日何をすべきかが見えてきません。しかし「3年後にこのポジションで、こういう仕事をしている自分」を鮮明に描ければ、今週の行動から変わります。
まずは職務経歴書を開いてみてください。そこに「書けること」がどれだけあるか——それが、あなたの現在地を正直に映す鏡になるはずです。
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