血行再建術を行った冠動脈疾患(CAD)症例において、拡張期血圧値が低い症例は総死亡を有意に増加させ、長期予後不良の予測因子となることが分かった。拡張期血圧については、血圧値を下げすぎることで返ってイベントリスクが増加する、いわゆる“J型現象”が存在することを示唆する結果となった。久留米大心臓・血管内科の甲斐久史氏が3月6日のLate Breaking Clinical Trialsで、「CREDO-KYOTO Registry」のサブ解析結果を報告する中で明らかにした。
収縮期血圧と冠動脈疾患の発症リスクとの関連性については、高血圧と診断される前の前高血圧(prehypertension)の段階から血圧値の上昇につれ、高まることが知られている。一方で、拡張期血圧と冠動脈の発症リスクの関係については、「INVEST」研究では、J型現象を示唆する一方で、「HOT」試験の結果はこれに反する結果となっている。拡張期血圧低下症例には、陳旧性心筋梗塞、心不全症例や、収縮期高血圧患者ですでに動脈硬化が進展している症例が含まれており、「降圧に関係なく、もともと高リスクな症例を多く含む可能性」(甲斐氏)があることから、J型現象があるか明確にはなっていなかった。
今回のサブ解析は、日本人の慢性冠動脈疾患患者において▽拡張期血圧が低いと長期予後が悪化するのか▽拡張期血圧が低いことによる長期予後の悪化因子は何か―を検討するのが目的。すでに公表されたCREDO KYOTO Registryに登録された初回CABG(冠動脈バイパス手術)または初回PCI(経皮的冠動脈インターべーション)を行った患者のうち、安定した慢性冠動脈疾患患者7180人を対象に、登録時の血圧値とイベント発症率との関係を検討した。
ベースライン時の平均血圧値は、135/75mmHg。高血圧と診断された患者は、69.8%、降圧薬を服用している患者が81.7%で、高血圧以外に心不全などの目的で使用されている患者も含まれている。
拡張期血圧と死亡率との関係をみると、拡張期血圧値70mmHg未満で全死亡が有意に増加した。心血管死亡だけでなく、非心血管死亡も拡張期血圧値が低下すると有意に増加していた。ただし、非致死性心筋梗塞の発症は、血圧値によらないものであることも分かった。
拡張機能血圧低値例を対象に、心血管死亡の予測因子をStepwise Logistic重回帰解析を行うと、最も強い因子として浮き上がったのが腎機能を示すeGFRの低下だった。そのほか、▽心不全の既往▽左室収縮能低下(LVEF<0.40)▽脈圧増大▽脳血管障害の既往▽心筋梗塞の既往――などの因子が浮かび上がった。一方で、▽降圧薬の服用▽残存冠動脈病変数――は、心血管死亡に影響を与えていなかった。なお、非心血管死亡の予測因子としては、▽悪性腫瘍▽高齢▽貧血▽肝硬変――の項目が浮かび上がった。
甲斐氏は、「フォローアップ期間の血圧コントロール状態が不明」と試験に限界があったことを断った上で、拡張期血圧については“J型現象”が存在するとの見解を表明。この原因として、試験結果から「降圧薬による過剰な血圧低下ではなく、▽低心機能(収縮不全)▽進行した動脈硬化およびその合併症の存在▽全身状態の悪化――である可能性が示唆された」と述べた。