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ディオバン問題 JIKEI HEART Study中間解析結果を主任研究者らが熟知“統計解析者と綿密な打ち合わせ”

公開日時 2013/10/07 03:52

降圧薬・ディオバン(一般名:バルサルタン)をめぐる大規模臨床試験「JIKEI HEART Study」の中間解析段階で、主任研究者である東京慈恵会医科大学循環器内科の望月正武教授(現・客員教授)に対し、共同主任研究者のスウェーデン・イェーテボリ大学准教授のBjorn Dahlof氏が、「統計学者とも綿密に打ち合わせて、ぜひ、有意差が出る地点まで試験を継続させてください」と指示していたことが分かった。両氏はまた、中間解析の時点から、薬剤の有効性をはかる主要評価項目(プライマリーエンドポイント)の結果を熟知していたことも明らかになった。これら内容が事実だとすれば、厚労省の「高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」(森嶌昭夫委員長)の中間報告や、東京慈恵会医科大学Jikei Heart Study調査委員会(橋本和弘委員長)の調査委員会報告書とも反する。医師主導臨床研究における主任研究者側の研究に対する知識や倫理観の欠如、さらには臨床研究体制の不備など、研究者側も大きな問題を抱えていたことが浮かび上がってきた。


この会話は、望月正武教授とBjorn Dahlof氏の対談として、日経BP社の日経メディカル2005年4月号にノバルティスファーマ提供の記事広告として掲載された。両氏の会話を以下に抜粋する。


Dahlof:「この中間報告ではプライマリーエンドポイントに両群間に有意差はないとのことですが、その差は約30%ですから、この違いが保持されたままイベント数が倍になれば有意差が出てくると考えられます」
望月:「最終的にプライマリーエンドポイントの数は約300例になると予測しています」
Dahlof:「そこまでいくと有意差が出るでしょうね。臨床試験ではプライマリーエンドポイントで有意差が出ることが最重要です。担当の統計学者とも綿密に打ち合わせて、ぜひ、有意差が出る地点まで試験を継続させてください」
望月:「セカンダリーエンドポイントについてはいかがでしょうか?その詳細はまだ分からないのですが…」。


◎研究者側が主要評価項目の内訳まで熟知


望月教授は対談の中で、試験デザインに加え、2002年1月16日~04年8月20日までのデータを対象とした中間解析を解説した。中間解析時点で発生したイベントについては、「狭心症42例、脳卒中33例、心不全24例、心筋梗塞9例、腎不全1例、大動脈解離1例、死亡17例(そのうち心血管によるもの4例)でした」と説明。試験登録時の患者背景として疾患の内訳を示したほか、試験解析から30か月時点までの血圧値も、いずれの群であるかは明記されていないものの、2群に分け、推移を示した。

 

JIKEI HEART 年譜

2002/01/16 試験の患者登録を開始
2004/07/01 試験デザインの論文がCardiovascular Drugs and Therapyに掲載
2004年9月~12月頃 中間解析を実施
2004年11月末 試験の患者登録を終了
2005/04/01 東京慈恵会医科大学望月正武教授、スウェーデン・イェーテボリ大学Bjorn Dahlof氏対談掲載
2005/12/01 経過観察を終了、「両群のエンドポイントに有意差が認められた」として試験を終了
2006/09/05 第28回欧州心臓学会議(ESC)・第15回世界心臓学会議(WSC)(スペイン・バルセロナ)のHot Lineセッションで結果を報告
2006/10/18 第21回国際高血圧学会(ISH)(福岡)の「Late-breaking Clinical Trials」セッションで結果を報告
2007/04/28 医学誌「The Lancet」に論文掲載

 

望月教授はまた、日経メディカル2005年7月号の記事広告の中で、副次評価項目(セカンダリーエンドポイント)の発生数にも言及している。この段階で望月教授やDahlof氏は、患者背景に加え、同剤の有効性を示す主要評価項目の内訳まで熟知されていたことがうかがえる。


本来、統計解析者はデータの信頼性確保の観点から、主任研究者から独立し、解析を行うことが求められている。ところが、両氏のやりとりを見る限り、本来行ってはならない、主任研究者から統計解析者への“指示出し”する発言など、解析への介入を口にしている。


東京慈恵会医科大学Jikei Heart Study調査委員会の中間報告では、「望月教授らは、これらの統計解析には一切関与しておらず、ノバルティス元社員から受領した解析結果を所与のものとして受領していた。望月教授らにとって、患者データの統計解析過程は、ブラックボックスになっていた」とされている。


さらに、同大が7月30日に開いた記者会見でも、橋本和弘委員長は、「統計解析は、この試験に限らないが、独立したところで実施するのがほぼルール。この方に統計解析を任せることになる。統計解析については、(同大研究者の)責任は問えない」と述べている。これらの発言も実態とは相反することになる。


◎中間解析段階でデータの詳細を主任研究者、製薬企業が把握 結果に影響?


これら内容は“記事広告”であったため、望月教授も、掲載前に自身の発言や掲載データについて確認していたとみられる。同時に、ノバルティスファーマの社内でも担当部署でのチェックが行われていた。つまり、中間解析段階から、主任研究者、企業の双方が、データを熟知し、“ディオバンの有効性を示し、一流誌LANCETに掲載する”ことを目的とした臨床研究が行われていたとみられる。



【解説】問われるべき研究者の知識不足、倫理観欠如の“責任”


一連のディオバン問題の背景には、研究者側の臨床試験への知識不足、そして倫理観の欠如がある。この問題は、一社の製薬企業の責任ではすまされない、日本の“医師主導”臨床試験が抱える構造的課題を示している。


中間解析の詳細を主任研究者側が知っていたことの意味を考えたい。中間解析とは、本来データモニタリング委員会が臨床試験の中間データをレビューし、患者に不利益がないか検討することを目的に実施される。解析結果を踏まえ、当初の予定通り試験の継続の可否を主任研究者側に勧告する。たとえば、いずれかの群で明らかに有効性が高い場合は早期中止を勧告する一方、安全性に懸念があれば中止を主任研究者側に勧告を行う。2群間の有効性を比較するためのものではない。さらに言えば、一般的にこの時点でデータの詳細を主任研究者側に伝えることもない。主任研究者が中間解析段階で詳細なデータを知ることで、それ以降の研究が主任研究者の意図する方向に、“バイアス”が働く可能性があるためだ。


日本製薬工業協会 医薬品評価委員会データサイエンス部会、日本 CRO 協会 統計・DM ワーキンググループの合同タスクが2012年6月にまとめた「中間解析実施とデータモニタリング委員会運営のためのガイダンス」でも、「中間解析の結果が試験完了前に漏洩すると,試験治療の比較にバイアスをもたらす危険性があるため,中間解析後の試験運営に中間解析結果を必要としない関係者が知ることがないようにするなど、情報管理にはとくに配慮すべき」とされている。


特に、JIKEI HEART Studyで用いられた、“PROBE法”では、研究者、患者がどちらの治療群に割り付けられたかを知った上で、試験が進行する。発生したイベント(エンドポイント)は、患者がいずれの群に割り付けられたことを知らないエンドポイント委員会が判定する。中間解析段階から詳細なデータを知っていたとすれば、その後研究者による意図的な介入が働く可能性も否定できない。


複数の関係者によると、「(同試験の)データ安全性評価委員会は形骸化していた」とも指摘されており、本来検討すべきデータ安全性評価委員会がこれらデータを検討せず、主任研究者自身がデータを確認していたとみられる。データを熟知することで、目的とした結果を出すために誘導していた可能性も高い。


試験が実施された2000年初頭、日本では大規模臨床試験の黎明期ともいえる時期だった。国際的に通用する臨床試験を行おうという試みは、JIKEI HEART Studyが最初と言っても過言ではない。しかし、その分当時の臨床試験の実施体制は脆弱だった、と言わざるをえない。本来独立していなければならない統計解析者をはじめ、製薬企業のサポートなくして、“医師主導”の臨床試験を行うことは難しいのが現状だったと言える。


一方で、この現状は依然として十分改善しているとは言い難い。現在でも、臨床試験について医師に対する教育は十分行われておらず、臨床試験と治験の違いも十分に理解されていないのが現状だ。信頼性の高い臨床試験の実施に必須と言える、統計解析者の養成やデータセンターの整備も進んでいないのが現状だ。独立したデータセンターや統計解析者を一大学で擁することは、コスト面、人材面ともに難しいことも指摘されている。このような、日本の臨床研究体制の未熟さが、一連のディオバン問題のような、研究者と製薬企業との癒着ともとられかねない状況を招いたともいえる。本来であれば、これを機に、ひとつの大学や地域だけではなく、国としての臨床試験の教育体制や、統計解析をはじめ、臨床試験運用のサポート体制の整備も求められるところだろう。


ただ、忘れてはならないのは、臨床試験の対象は患者であることだ。医学を研究する者にとって、一流誌LANCETに論文が掲載されることは、世界的に優秀な研究者として称えられる名誉を手に入れることを意味する。本来、臨床試験は、臨床現場で行われたクリニカル・クエスチョンに対する答えを出すことを目的に行われるべきだ。“医師主導”で行う臨床試験であれば、なおさらだ。仮に、名誉のために“結果”ありきの医師主導の臨床研究が行われていたとすれば、医師である研究者の“罪”は重い。
(Monthlyミクス編集部 望月英梨)
 

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