政府の未来投資戦略2017を決定 遠隔診療を18年度診療報酬改定で評価を明記
公開日時 2017/06/12 03:51
政府は6月9日午後の臨時閣議で「未来投資戦略2017」を決定した。団塊世代が75歳以上になる2025年を見据え、医療ICTを活用したオールジャパンでのデータプラットフォームを構築し、予防から治療まで一貫して個人に合致した医療・介護を提供する新たな体制を2020年までに構築する。このための実証事業もスタートさせる。あわせて岩盤規制と指摘されることの多い医療・介護市場についても、予防分野などで民間企業に市場を開放し、新たなビジネスを創出することで生産性の向上を目指す。焦点となっている2018年度診療報酬・介護報酬同時改定では、「かかりつけ医等による対面診療と組み合わせた効果的・効率的な遠隔診療の促進」、「介護ロボット等の導入促進」の評価や人員・設置基準の見直しを求めた。
政府が決定した未来投資戦略2017(成長戦略)では、第4次産業革命を各市場で誘発させるイメージを政策の具体例として明記した。「市街地から離れた実家に暮らす父親は、遠隔診療により、かつての週に1回から今では月に1回へと負担が軽減され、データ・AIを活用した、かかりつけ医による診療を無理なく受けられる」-。「医師はこれまでばらばらだった患者の健診・治療・介護記録を、本人同意の下で確認し、初診時や救急時に医療機関において患者情報を活用し、個人に最適な治療がいつでも可能に」-などがこれに相当する。戦略分野のひとつに「健康寿命の延伸」を位置づけ、IoTやAIによる技術革新が、医療の現場の課題を解決する姿を打ち出した。
IoTやAI、ビッグデータ、人工知能、ロボットが起こす第4次産業革命の波は医療界にも例外なく及んでいる。糖尿病の重症化予防など、予防から治療の全ての段階にIoTやAIの活用を求めた。遠隔医療についても、「糖尿病など生活習慣病患者」と具体的な事例にあげた。血圧計やウエアラブル端末などを活用して、血圧・血糖値などを把握し、テレビ電話やメール、SNSなどを活用した遠隔診療による管理・指導を明記している。また、この概念を実現する手段として、18年4月実施の診療報酬改定で点数評価することを求めた。遠隔での服薬指導については、「国家戦略特区での実証等を踏まえて検討する」とした。
このほか健診データやレセプトデータをAIにより統合・分析し、保健指導施策立案を行うモデルについても検証を行う。健保組合・共済組合などの保険者については、後期高齢者支援金の加算率・減産率ともに上限の10%まで引き上げるなど、インセンティブを強化する。企業の健康経営との連携を促進する。また、ウエアラブル端末などのIoTの健康情報収集による生活習慣病の予防サービスの確立については、2016年度までの実証事業の結果を踏まえ、今後3年間実証事業を行うことを明記。「AIアルゴリズム開発を通じ、新たな民間による健康情報利活用サービス・創出の高度化を図る」とした。
カギを握るのが、国民の健康・医療情報を一元化するデータプラットフォームの整備だ。今年4月には、次世代医療基盤法が成立し、法的整備も進める。個人が自身の情報を経年的に把握できるPHR(Personal Health Record)として、「全国保健医療情報ネットワーク」を整備する。患者基本情報や健診情報、さらには救急時に活用できるデータを含む。今年度中に実証事業をスタートさせる。一方、医師や薬剤師など医療・介護従事者が活用するネットワークであるEHR(Electoronic Health Record)についても、広域連携やマイナンバーの活用などについて実証事業をスタートさせる。
◎医薬品開発にもAI、リアルワールドデータを活用
医薬品開発については、がんや認知症について言及。がんについては、遺伝子変異を一度の検査で把握できる次世代シークエンサーが臨床現場に登場する日も近い。国民のゲノム情報をデータベースに集積し、人工知能(AI)を活用して解析・分析することで、新たな治療方針の確立や、医薬品の適正使用推進、創薬の新たなターゲットが発見される絵を描く。この背景にも、医療ICTを通じた基盤整備の必要性を強調。国立高度専門医療研究センターなどで構築されるクリニカル・イノベーション・ネットワークや医療情報データベースシステム(MID-NET)の構築を進め、医薬品の評価と安全性対策を高度化する環境整備を進める。こうして得られたリアルワールドデータなどの活用を踏まえ、革新的な医薬品については条件付き早期承認の制度化も見据える。また、医療系ベンチャーが起業しやすいような環境整備も盛り込んだ。
◎日医 遠隔診療の財源 別途手当を求める
日本医師会は同日、横倉義武会長名で、閣議決定された政府の骨太方針2017、未来投資戦略2017を踏まえ、社会保障について「国はしっかりと適切な財源を確保すべき」とする見解を文書で公表した。未来投資戦略2017に盛り込まれた遠隔診療については、「初診は必ず対面診療とすべき」と改めて強調した。一方で、長期処方が増加する中で、患者の自己判断による投与中止や健康障害などの課題を解決する上で遠隔診療の有効性を認めた。現行制度では、「電話・テレビ画像等による再診」が認められていることから、これを「参考にし、中医協で議論すべき」との見解を示した。遠隔診療の財源については、「財政中立ではなく、政府の成長戦略として別途手当が必要だ」と主張した。