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【FOCUS 米国COVID-19対策強化の背景】

公開日時 2020/03/24 04:52
3月16日にシリコンバレー(サンフランシスコ周辺の6カウンティ)の約700万人に3週間の「在宅シェルター(不要不急の外出自粛・自宅待機)」の行政命令が出されたことはすでにレポートした。(医療ジャーナリスト 西村由美子)

カリフォルニアではその後も事態が急展開しており、19日にはロサンジェルス・カウンティがシリコンバレーと同様の在宅シェルター(4週間)の行政命令を出したが、その直後にカリフォルニア州知事が会見し、カリフォルニア州の全州民約4000万人に「在宅シェルター(不要不急の外出自粛・自宅待機)」の行政命令を出したため、カリフォルニア州は全域が原則として外出禁止・自宅待機の規制下に入った。

ニューサム州知事は会見で「はっきりした見通しがたたない以上、正直にそれを認めるべき」と述べ、在宅シェルターの行政命令には「敢えて解除期限を設けない」とし、会見直後から実質無期限の自宅待機命令を出した。

在宅シェルター命令は法的拘束力があり、違反者は警察官から(駐車違反の際のような)違反切符を切られて罰金を科せられる。実際、筆者の直接の見聞にも、週末にスタンフォード大学のオフィスに書類を取りに行ったケース(キャンパスは原則立ち入り禁止)、ハイキング・コースにウォーキングに行った際に駐車場でたまたま一緒になった知り合いと立ち話をしていたケース(ハイキング・コースを歩くのはOKだが、他者と6フィートの距離を取ることが条件。同居の家族以外、グループは2人でも不可)があり、それぞれ違反切符を切られた。いずれも罰金額は400ドルであった。

◎米国の患者増加曲線はイタリアに酷似

ニューサム加州知事はじめ行政当局はいずれも「規制は科学的な判断に基づくもので、ヒステリックな反応ではない」と強調している。では、米国の行政当局がここまで対策強化を急いでいる理由は何か?米国の最大の懸念は急激な感染拡大により医療機関等の対応が追いつかなくなる事態である。

下のグラフはFinancial TimesのJohn Burn-Murdochが作成・公開し、世界中で引用されているもので、感染者数が100人に達した時点以降の感染者数の推移を、対数曲線で、国別に示している。図中のピンクが米国の推移である。グラフ作成に使用されているデータは、すでにMIXオンラインでも何度か紹介してきた米国のジョンズホプキンス大学のコロナウィルス研究センターのCOVID-19追跡ダッシュボード上で公開されている世界各国発表のデータである。
https://coronavirus.jhu.edu/map.html

一覧で明らかなとおり米国の感染者数の推移は、早期対応で感染拡大を食い止めることに成功したと評価されているシンガポールや香港にではなく、むしろ急激な拡大を食い止めることができなかったイタリアやイランに酷似している。米国の焦眉の課題は、厳しい対策を急ぐことでグラフの傾きを下げゆるかな上昇曲線にとどめることで、仮に最終的な感染者総数は変わらなかった場合でも、医療的な対応不全を起こさずに感染をコントロールしていけるようにすることである。



データ出処:https://www.vox.com/policy-and-politics/2020/3/13/21178289/confirmed-coronavirus-cases-us-countries-italy-iran-singapore-hong-kong

◎在宅シェルターに期待される効果

では、在宅シェルターにはどのような効果が期待されているのか?

COVID-19について「わかっている」と言われている事実の1つが繁殖率2.5という値だ。要するに1人の感染者から平均2人半が感染する。データサイエンティストの試算によれば、何も積極的な手立てを講じない場合、感染者1人が5日間で2.5人に感染させると仮定すると1ヶ月で244人が新たに感染することになる。しかし感染者を隔離して繁殖率を1.25まで下げることができれば、この感染者からの新たな感染者は1か月で4人程度にとどめることができる。そのように考えれば、self-isolation(個々人に他者との間に距離をとらせる)には確実な効果が見込めるのであり、ワクチンが完成していない現在の段階では、確実な効果が見込める唯一の方法と言えるかもしれない。シリコンバレー始め米国各地でとられている在宅シェルター政策の背景にある考え方はこれなのである。

◎ウィルス・チェック実施率の低い米国に次ぐ日本

ちなみに上掲のグラフでは日本の数値の推移はシンガポール、香港にきわめて近い。しかし、日本は、諸外国から感染拡大防止に成功したとはまだ認められていない。逆に、米国CDCは日本では感染ルートが特定できない感染者が増加している等の理由から日本をクラス3に引き上げ、原則として渡航を控えるようにとの指示を米国民に出している。

https://wwwnc.cdc.gov/travel/notices/warning/coronavirus-japan

日本に対する諸外国の懐疑的な態度の説明には、日本でのウィルス検査実施率が低いという事実があげられる。すなわち、感染者が少ないのではなく、検査がなされていないために感染者が顕在化せず、行政に把握されていないだけではないかとの批判的な解釈がなされているからだ。

実際、日本のウィルス検査実施率は低い。下の図は人口100万人あたりのCOVID-19ウィルス検査実施数の各国比較である。同じジョンズホプキンス大学のダッシュボード公開データを使用している。一覧で明らかな通り、きわめて実施率が低い米国に次いで低いのが日本である。


出処:https://www.vox.com/policy-and-politics/2020/3/13/21178289/confirmed-coronavirus-cases-us-countries-italy-iran-singapore-hong-kong

一方で、前掲の感染者数増加曲線のグラフを作成したフィナンシャル・タイムスのJohn Burn-Murdochは、Twitterで「日本の感染率の上昇がフラットなのは、検査率が低いからというよりも、高齢者が施設で効果的に隔離されているからではないかと思う(Japan’s flatter curve now felt to be due to effective isolation of elderly more than lower testing)」との解釈を披瀝している。

国内対応に忙殺されている行政当局の状況は拝察するにあまりあるが、世界が注視している現在、説明力・説得力ある国際広報を期待したい。
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