日医ら5団体 NP創設で在宅医療の課題解決は「あり得ない」 規制改革議論を牽制
公開日時 2023/05/25 04:52
規制改革推進会の答申に向けて焦点となっている、ナースプラクティショナー(NP)の創設をめぐり、日本医師会など医療関連5団体は5月24日、「新たな資格(NP)により看護師が診断・処方すれば(課題が)解決するということはあり得ない」とする提言を発表した。日本看護協会(日看協)などは規制改革推進会議の場などで、在宅患者の急変時に医師の指示を受けられずに患者の症状が悪化しているなどとして、NP創設を求めている。日本医師会の松本吉郎会長は同日の会見で、「地域において医療関係職種がしっかりと連携し、協議をすれば、解決できるものだと考えている。顔の見える会議、連携の会が地域には必ずある。しっかりと信頼できる関係構築の中で解決していっていただきたい」と述べた。
規制改革推進会議医療・介護・感染症対策ワーキンググループでは、日看協などがNP創設を強く主張。22日には、日看協の福井会長がNP創設を盛り込んだ要望書を加藤厚労相に手渡すなど、動きを強めている。NPとは、日本では制度化されていないが、医師の指示がなくとも一定レベルの診断や治療などを行うことができる看護師を指す。5月15日のワーキンググループでも、「一定の条件下で、看護師が処方箋を発行、投薬する(輸液を含む)」ことなどが提案されている
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◎「連携体制を強化することが第一」 十分な議論なしのNP創設は医療安全など「悪影響も」
提言では、「医療機関及び訪問看護ステーションがともに連絡体制について今一度確認し、連携体制を強化することが第一に行われるべき」と指摘。「緊密な連絡体制の構築は、在宅医療の実施にあたって当然なされなければならないものであり、その点を解決しないまま、新たな資格により看護師が診断・処方をすれば解決するということはあり得ない」と強調した。
医師の指示なく、看護師の判断で行われた医行為で問題が起きた場合の責任の所在など、論点は山積する。このため、「医療の安全の確保、医療事故に対する責任の所在、新たな職種が実際の不足場面で役割を担えるか」など“根本的な議論”が「不可欠」と表明。こうした議論を十分に行わずに判断するのであれば、「日本の将来の医療提供体制にとって、悪影響を及ぼすことが懸念される」と警鐘を鳴らした。
一方で、在宅医療を“面”で支える体制の早急な構築が必要として、「訪問看護師が抱える困難や、医師や医療機関に対する要望にもきちんと耳を傾け、改善すべきところは改善していく」とした。また、特定行為研修を修了した看護師であれば、褥瘡の処置や気管カニューレの交換ができるなどのメリットがあるとして、「在宅医療分野における特定行為研修を推進していくことは必要と考える」と表明。制度の周知や研修の推進に協力するとした。
◎訪問看護で重篤な事例多発は「全くない」 日医・訪看団体に協力の調査で実態
規制改革推進会議では、議論の根拠として日看協が7割以上の訪問看護ステーションが医師の指示が得られず、症状が悪化した事例があるとの調査結果を示している。ただ、回収率は約6%と低率で、全体的な状況を反映していないと指摘されている。
釜萢敏常任理事は、日本医師会として、複数の県の訪問看護ステーションの団体に協力を求め、調査を行ったことにも触れた。詳細は集計中としながらも、「訪問看護において、(訪問看護師が医師と連絡を取れないために)重篤な事例が多発しているという結果は全く出ていない。今後さらに、訪問看護師と医師との連携をさらに深めていくという取り組みが必要だということはうかがわれるが、現状において困難を極めて新たな職種の養成が必要という結論には決してなっていない」と説明した。
◎訪看ステーションの配置薬拡大は「あらかじめ処方すればほとんどの場合が対応できる」
規制改革推進会議では、訪問看護ステーションの配置可能医薬品の拡大なども議論の俎上に上っている
(関連記事)。釜萢常任理事は、「日本医師会としては、現状において訪問看護の現場で必要な薬剤をあらかじめ処方し、それぞれの医療現場に用意しておけば、ほとんどの場合が対応できると認識している」と表明。「在宅医療に長年取り組んできた医師の場合には、患者さんの今後の変化については、かなりの部分が予想可能で、実際にどう対応しておけば困らないかということの対応ができるだろうと認識している」と述べた。
なお、提言は、日本医師会のほか、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会の連名。