日本薬剤師会の山本信夫会長は５月10日に開かれた三師会の会見で、規制改革推進会議で議論が進められている、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大について、「断固反対だ」と力を込めた。規制改革推進会議のワーキンググループ（WG）で、訪問看護ステーションに“薬局の遠隔倉庫”のような形で、薬局以外に医薬品備蓄を行うことが議論されていることを受けた発言。山本会長は、「法的視点、医療安全の確保」の両面から課題を指摘。国民や患者の医療安全を確保するために、調剤は薬剤師の任務・責務であることが薬剤師法に明記されていることに加え、質の高い在宅医療の提供に必要なチーム医療推進の流れにも逆行するとして、規制改革推進会議の議論を牽制した。

規制改革推進会議で検討が進められている“薬局の遠隔倉庫”の改革案は、医療・介護・感染症対策ワーキンググループで３月７日、医師の佐々木淳専門委員（悠翔会理事長・診療部長）と弁護士の落合孝文専門委員が提案した。オンラインにより薬剤師が遠隔管理し、薬局が訪問看護ステーションに随時医薬品を授与するというもの。ピッキングのみ看護師が行い、薬剤師が室温やピッキングの適切性、在庫などを遠隔で管理する形を想定している。

◎”法的な課題”指摘　医療安全確保に必要な薬剤師の責務　「薬局以外の場」での調剤に課題も

「配置可能薬を拡大するということについては断固反対という立場だ」－。日薬の山本会長は本誌の質問に答える形で、こう強調した。

薬剤師法などで、調剤行えるのは、医師、歯科医師、獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときを除いて、薬剤師に限られていると定められており、看護師が行うことはできない。

患者への医薬品提供は医師が処方箋を交付し、薬剤師が調剤するプロセスをたどる。調剤には、薬剤を交付するだけでなく、薬剤師の処方内容の薬学的分析なども含まれており、このプロセスに薬剤師としての職能を活かし、患者や国民の医療安全を確保に貢献することが求められている。このため、調剤という行為は、薬剤師法で薬剤師に課された任務・責務であり、“法的”な側面での課題がある。

山本会長は、「（調剤するのに）薬剤師が存在しないということは大きな問題だと思っている」と表明。結果的に薬局以外の場で調剤されることにも問題意識を示し、「調剤を薬剤師以外でないものが薬局以外ですることになるということで大変大きな問題だと思っている」とも強調した。

◎根本解決にチーム医療が必須　薬局が連携で対応している場合は問題がないとの調査結果も

“医療安全”の観点からの課題認識も表明した。在宅医療の提供に際し、「チームを組んで医療を提供するのが本来の姿。専門職が集まってその患者さんに対してどんな医療が必要か、医師や看護師、薬剤師など各専門職種が議論していくことが大前提だ。それを抜きにして、ただ置けばいいという発想について私どもとしては大変断固反対だ」と強調した。

在宅患者への薬剤提供は、処方医から薬局薬剤師が訪問薬剤管理指導の指示を受け、在宅医療チームの一員として参画するという流れとなる。規制改革推進会議での提案は、緊急時の対応を視野に入れたものだが、日本薬剤師会の調査によると、「薬局がチームの中で対応している場合、在宅患者への薬剤提供において、緊急時対応を含め困った事例は認められていない」という。医療現場からは、「在宅訪問薬剤管理指導を実施している薬局以外の薬局をも対象とした指摘で、事実誤認もしくは誤解に基づく指摘ではないか」との声もあがっている。

根本的な解決には、チーム医療の推進が必須と言えるなかで、こうした改革案は、「良質な在宅医療の提供、薬剤師による訪問薬剤管理指導の推進に逆行する」との指摘もある。

なお、厚労省も同案が提案された規制改革推進会議で、「医療安全の確保および、各医療関係職種の資格法における職種ごとの専門性を前提として、多くの医療関係職種それぞれが自らの能力を活かし、より能動的に対応できるよう、地域において医師、薬剤師、看護師等の医療関係職種が適切な連携体制を整備することが重要」とのスタンスを示している。